生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
71 / 378

第70話 孤児院

しおりを挟む


 *
 ──〝大都市エルクステン〟
      ドラグライト・男子孤児院前──

「ここで合ってんのか……?」

 俺はクレハの家で朝食を取った後──1時間後にギルド前にクレハと待ち合わせの約束をし、その待ち合わせまでの1時間で、昨日のを果たす為〝ショタコン淑女〟こと──クシェリ・ドラグライトの運営する孤児院に来ていた。

「取り敢えず、チャイムは……無いから、ノックでいいか」

 年期は入っているが、中々立派な建物の孤児院の扉を俺はノックしようとすると……

 ──バタン! 

 俺が今しがたノックしようとしてた扉が、ノックをする前に開き、孤児院の中からクシェリが出てくる。

「──ん、ユキマサか? 私に会いに来たか?」

 淡々とした声だが、少しニヤリとした笑みを浮かべたクシェリが話しかけて来る。

「……そう言われればそうなんだが、約束の〝大猪おおししの肉〟の件の話をしに来たんだよ?」
「律儀だな。で、本当に〝大猪おおししの肉〟をくれるのか? 正直、半信半疑だったぞ?」

「何でだよ?」

(俺ってそんな信用なかったのか? いや、出会って数日だ。これぐらいが普通か……)

「いや、言い方が悪かったな。あまり期待はせずに待っていたと言った方が正しいか……私は副マスみたいに嘘が分かるわけじゃあるまいし、そんな簡単に高級食材をくれると言われて信じる方が難しい。──それにあの場で私が王女を狙ったとしても、その気になればお前なら一瞬でもできただろう?」
「……」

 俺は押し黙る。そして俺のこの沈黙は、クシェリの言葉へのの意味も含めていた。
 〝沈黙はなり〟──そんな言葉を最近俺は何処かで聞いた気がする。
 
「俺も孤児院で育ったんだ。まあ、俺の場合は少しなケースだがな? だから少しだけ情が湧いた。……この理由ならもう少しぐらいは信用して貰えるか?」
「……ッ!?」

 俺のその言葉を聞いたクシェリの目が、少しだけ見開かれる。

 それに〝情が湧いた〟──これは俺の本心だ。この〝異世界〟に来てからと言うもの、やけに両親の事や、理沙の事、昔の事、そして孤児院のチビ共の事を思い出す。

 だからなのかは分からないが『美味い物を食べさせてやりたい』と言うクシェリの思いに、俺は少し手伝ってやりたいと思った。

「……すまない」

 珍しくクシェリが真剣な目で謝ってくる。

「別にいいよ──話を戻すぞ? 今夜、料理屋〝ハラゴシラエ〟に行け。従業員を通じてだが、店主の許可を取って貸し切ってある。肉は俺が持ち込んでおく。調理の金も要らないらしいから金は持たずに来い」
「お前、本物のお人好しか……?」

「さあな。でも、親の教育は良い方だったかもな」

「どういう教育をすればヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟を単独討伐できるようになるんだ……?」

 呆れた様子のクシェリが少し溜め息を吐く。

「いや、そう言う意味じゃねぇよ?」
「ふふ。冗談だ、知っている」

 いつも通りの淡々とした口調で話しながら、クシェリは軽く笑う。

「あと、ここの孤児院には何人ぐらい要るんだ?」

 てか、まずそれを聞くべきだったな?

 これで『私の孤児院には8000人の孤児が要る!』とか言われたら、流石に店に入りきらんし肉も足らん。

 まあ、でも、この建物の規模的に見て、どんなに多くても50人ぐらいだろうな──

「私の所は24人だ」

 予想の半分か、人数的には余裕っぽいな。

「ちなみにだが、クシェラの所は何人ぐらいだ?」

 と、俺はクシェリの兄である、クシェラの運営する小さな女の子を集めた孤児院の人数も聞いてみる。

愚兄ぐけいの所は31人だった筈だ」

 そっちのが多いのか……
 まあ、この人数なら行けそうだな?

「クシェラの方の子達も招待したいんだが良いか?」

 元々、俺はそのつもりでいた。人数が多ければ後日という形になったかもだが、あの店なら最低でも70人ぐらいまでなら席があった筈だ。

「私は構わんが、お前はいいのか?」
「肉は持ち込みだしな? それにお前には悪いが〝アーデルハイト王国〟の行方不明の王女の懸賞金とやらも……昨日、ジャンから俺が受け取っちまってる。だから、最悪人数が多いからの理由とかで後々『やっぱり調理代を』ぐらいの請求なら来ても問題ない」

「そうか……それに王女の件は、元々最初に見つけて保護したのはお前だろう? 私を気にすることは無い」

 保護というか何と言うか……

 それにアリスがキラキラした目で〝激辛スープ〟を見てたから、奢ってやったら、周りの奴等に保護どころか『幼女虐待じゃないか!?』とか騒がれたぞ?

 あと、アリスの依頼とはいえ……王女アリスを探し回ってた〝千撃ジャン〟から逃げたり、昼間だってのにアリスを探しに来た〝吸血鬼フィップ〟とドンパチやったりしてたからな……

(そう考えると……俺、懸賞金もらう資格無くないか? 流石に返せとは言われないだろうけどさ)

「それに、愚兄ぐけいの孤児院ならすぐ隣だから直接会って話すと良い。多分喜ぶだろう。あれは何か知らんが、お前の事を大層気に入っているみたいだからな?」

 ──は? 隣なのかよッ!?

 よく見ると確かに同じような建物が直ぐ隣にある。

 道理で、クシェラの孤児院の〝モフっ子幼女〟こと──ココットがクシェリにも懐いてるわけだな。
 ……超近所じゃん。てか、敷地、一緒じゃね?

 会えば喧嘩ばかりらしいが、お前ら仲良いだろ?

「分かった、行ってみるよ。夜は俺は顔出さないと思うけど、店の人によろしく言って置いてくれ」

「分かった。伝えておく」
「ああ、それじゃあな」

 と、俺はその場を後にしようと身をひるがえすが……

「ユキマサ!」

 不意にクシェリに名前を呼ばれ、俺が振り返ると

「ありがとう。感謝する──」

 優しい笑みでクシェリに礼を言われる。

「どういたしまして」

 俺は短く返事を返して、クシェリの孤児院を後にし、隣のクシェラの孤児院へ向かう──。




 クシェリの孤児院から、クシェラの孤児院までは1分もかからなかった。まあ隣だしな?

 こちらも作りは一緒で、年期は入っているが、中々の建物だ。そして、こちらもチャイムは無いので、俺は扉をノックしようとすると……

 ──バタン! 

 と、またもや俺がノックをする前に扉が開かれる。

 タイミングが良いと言うか何と言うか……

(……俺、ノック下手なのかな?)

 そしてタイミング良く扉を開け放ち、出てきたのはクシェラ……では無く……知らない顔だ。

 しかもでも無い……見た感じは、俺と同じぐらいの10代半ば~10代後半といった年齢の、茶髪のボブカットで、可愛らしい感じの〝人間ヒューマン〟の少女だ。

 そして、その少女は俺と目が合うや否や、大きく目を見開き──何故か、驚愕の表情を浮かべる。

(俺なんかしたか? 初対面の筈なんだが……)

 でも、このまま見つめ合ってても仕方ないので……
 取り敢えず、俺はクシェラを呼んで貰おうと思い、その少女に軽く自己紹介をしながら話しかける。

「悪いな。俺は──」

 ──パタン。

 だが、俺は自己紹介だとか以前に……話の途中、言葉を遮られる形で、その少女にも何事も無かったかのように、無言で扉を閉められてしまうのだった──。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...