83 / 378
第82話 ミリア・ハイルデートはミリアである3
しおりを挟む──〝ルスサルペの街〟お団子屋・花選──
森を抜けて、街に入ると、すぐの所にある今日の目的地のお団子屋さんに到着すると、お団子屋のおばちゃんが出てくる。
「──いらっしゃい……って、あら、ミトリちゃんじゃないの! それにトアちゃんも、ミリアちゃんも一緒で、今日は家族でお出掛けかい?」
お団子屋のおばちゃんは私達を見ると、近くに駆け寄って来て、親しげに話かけてきてくれる。お母さんは小さい頃から、このお団子屋さんに通っているので、お団子屋のおばちゃんとは──大の仲良しだ。
「こんにちは。ええ、今日は家族でお出掛よ」
「お世話になっています。お邪魔します」
お母さんとお父さんが、お団子屋のおばちゃんにそれぞれ返事を返す。
「ヤダねえ、お世話になってるのはこっちの方だよ。ポーションの材料になる、薬草とかをミトリちゃん達が売ってくれてるから、家も何とかやってけてるんだからさ、ささ、座ってちょうだい!」
このお団子屋さんはお団子以外にも、他にお饅頭やおにぎり──そして、ポーションも売っている。
ここのポーションの材料は、家の森で取れる薬草だ。前に私もお母さんと一緒に薬草を取って、そのまま、このお店に持って来たことがある。
その時におばちゃんが、お店のお団子を私にくれたのが私とおばちゃんの出会いだ。
「ありがとうございます──それとミリア。おばさんに、ちゃんと挨拶できるかい?」
はうっ……!
すると私は、お父さんからそれはそれは小さな小さな試練が与えられた……でも、挨拶は当たり前の事だ。
──こくこく。
挨拶を決意した私は小さく頷く。
「ミリア頑張るのよ!」
「そうよ! ミリアちゃんならできるわ!」
応援してくれるお母さんと、私の対面者である筈のおばちゃんも、何故かノリノリで応援してくれる。
「こ……」
こんにちはを伝えるのだ……
あ、でも。ございますも付けよう。
その方が丁寧な気がする。
「こ……」
こんにちはございますだ。
こんにちはございますを伝えればいいのだ。
(よ、よ、よ、よし……!)
「こん……」
(よ、よし、い、いける……!)
「こ、こん、こんちゅうはございますっ!」
(──ッ!?)
……か、噛んだ。噛んでしまった。
しかも……こんちゅう……昆虫と言ってしまった。
……私は自分の大いなる失態に戦慄する。
どこかに穴があるのなら是非とも入りたい。
それこそ、今はお団子のように丸まっていたい。
まずい……羞恥で頭がクラクラしてきた。
「──きゃー!! ミリア頑張ったわねー!!」
そんな私に全力で抱きついてくるお母さん。
「はい、こんにちは。ミリアちゃん!」
そんな様子を微笑ましそうに見ながら、おばちゃんが『こんにちは』を返して来てくれる。
「よく言えたわねミリア! 『こんにちは』でも、『昆虫は』でも何でも良いのよ。思いを伝えようと口を開いて言葉を発する事に意味があるのよ!」
私の顔にすりすりと頬擦りするお母さん。
「あらら、ミトリちゃんはちょっと親バカみたいね。でも、その気持ち。分かるわ……ミリアちゃん本当に可愛いわね。お団子いっぱいあげたくなっちゃうわ!」
その様子を笑って見てくれてるおばちゃん。
(──お団子!!)
おばちゃんのお店のお団子はとても美味しい。
あんこが乗ってて甘い物お団子や、桃色と白と森色の3つの色の柔らかいお団子や、お団子に甘じょっぱいドロッとした茶色い調味料(?)みたいなのがかかったお団子など、沢山のお団子がある。
お母さんには、喉に詰まらせてはいけないから、ゆっくり食べなさいと言われるが、それでも食べる手が止まらないぐらいの美味しさだ。
「さあ、ミリア何を食べようか?」
「え、えっと……いっぱい食べたいのがあって迷う」
「遠慮しなくていいんだよ? お父さんやお母さんはミリアと一緒に美味しい食事をしたり、楽しい時間を過ごす為に働いているんだからね。たまにのお出かけの日ぐらい、ミリアの食べたい物を好きなだけ食べていいんだよ?」
と言いながら、お父さんが頭を撫でてくれる。
「……本当? じゃ、じゃあ、この3種類のお団子を10個ずつ食べたい……」
「それでいいのかい? まあ、足りなかったら追加で注文すればいいね!」
「ミリアは育ち盛りだもの! いーっぱい食べなさい! でも、太らない体質って言うのは我が娘ながら少し羨ましいわ……これはトアに似たわね?」
お母さんがお父さんを妬ましそうに見ている。
「み、ミトリも少しぐらい多く食べてもいいんじゃないのかい? いつでもミトリは素敵だよ?」
「そ、その油断が命取りなのよ! 女には女の悩みがあるの! で、でも、私も3種を2本ずつ……いえ、3本ずつ……お願いするわ。もし太ったらトアに責任を取ってもらうわ!」
「あはは……そ、それは怖い話だね。じゃ、じゃあ、私は3種類を15本ずつお願いできますか?」
こう見えて、トアは大食漢である。簡単に言えば痩せ型の大食漢と言う奴だ。そして生まれつき太りにくい体質なのだ。
先程、ミトリに妬ましく見られたのもそのせいだ。
「10本、3本、15本……合わせて各28本ずつね。かしこまりました。少し待ってておくれね!」
と、おばちゃんはお店の奥に走っていく。
「それにしても、ミリア頑張ったわね~♪」
撫で撫でと、まだ誉めてくれるお母さん。
実はこの日が、私はお父さんとお母さん以外の人と話したのは初めてだった。前におばちゃんにお団子を貰った時は、テンパってしまい何も言葉を発っさずに、頭を下げるだけで精一杯だった。
「大切な一歩だね。これからの人生で、ミリアにも友達や仲間と呼べる人達ができる筈だから、私達以外の人との会話も、少しずつ無理せず頑張っていこうね」
「お友達? 私に?」
「そうだよ。不安かい?」
「うん……お友達……まだよく分かんないかな」
この街の私と同じぐらいの子供達が、皆でボールで遊んでいるのを、遠目に見たことがあるけど、あの輪の中に私が入れるとは思えなかった。
「心配しなくて大丈夫だよ。ミリアは優しいから。優しいミリアには、きっと優しいお友達ができるよ」
お父さんが『心配しなくて大丈夫だよ』と、そう言ってくれると、少しずつ私の中の不安が溶けていく。
「うん……そうだと嬉しいな……!」
緊張もするけど。少しわくわくする。
「──はい、お団子お待たせしましたッ!」
そんな話をしてるとドーン! っと、大皿に乗ったお団子と、森色のお茶をおばちゃんが運んでくる。
「わあ、美味しそう!」
思わず心の声が漏れる。
「あら、ミリアちゃん! 嬉しいこと言ってくれるわね! いっぱい食べてってね!」
「……/// ひゃ、ひゃい……」
思わず漏れてしまった声に、私は顔が赤くなる。そして、その様子を見たお父さんやお母さんが優しく笑ってくれている声が聞こえる。
とても恥ずかしかったけども……
でも、凄く優しい時間が流れていく。
「さ、ミリア、早く食べましょ!」
と言う、お母さんの声で皆で『いただきます』を言って、お団子を食べ始める。
甘くて、もちもちとしてて凄く美味しい。
森色の温かいお茶もお団子によく合う。
お父さんとお母さんと一緒にお話をしながら、お団子を食べていたら、気が付くと、いつの間にか全部綺麗に食べ終わってしまっていた。
お父さんがお会計を済まして、私達がお家に帰ろうとすると、お団子屋のおばちゃんが私に話しかけて来る。
「はい、ミリアちゃん! これはおばちゃんからのプレゼントよ。明日にでもまた食べなさい!」
と、お団子の入った包みを渡してくれる。
「あ、おばさん。そんな悪いわ!」
お母さんがおばちゃんに慌てて話しかける。
「いいのよ。ミトリちゃん達には、いつもお世話になってるんだから、それに、こんなにミリアちゃんが美味しそうに家のお団子を食べてくれるから、私も主人も嬉しくなっちゃって!」
おばちゃんは頬に手を当てて笑っている。
「あ、あにょ! ……の!」
噛んだ。また噛んでしまった。
でも、伝えなければ。言葉にして発しなくちゃ。
「あ、ありがとうございましゅ! ……す! お団子とっても美味しかった……の、です……! ご馳走さま……でした……!」
更に噛んでしまった……言葉もめちゃくちゃだ。
……つ、伝わっただろうか?
「お粗末様でした! いつでもまた来てね!」
なでなでと私の頭を撫でながら、お団子屋のおばちゃんが元気に返事を返してくれる。
「ふ、ふゃ、ひゃいッ!」
私は、そんな言葉にならない言葉を、お団子屋のおばちゃんに返しながらお店を後にして。帰り道も、お父さんとお母さんと一緒に手を繋いで、夕日を見ながら、来た道を辿り、お家へと帰るのだった──。
67
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる