生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第85話 ミリア・ハイルデートはミリアである6

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 *

「あの方々への供物はこれだけか?」

 結界の中に潜んでいる、この場の〝魔王信仰〟の中ではリーダー格の男が部下に低い声で問いかける。

 その視線の先には、バケツぐらいの大きさの、蓋の付いたつぼがある。その中には、ここ数日で集められた人類のが無造作に詰め込められている。

 普通の人間ならば、この光景を見ただけでも、吐き気をもよおし、嘔吐おうとする者も少なくは無いだろう。

「……」

 苛立つその男の問いかけに対し、周りの者達は黙り込んでいる。

なげかわしい……」

 そして、その男はおもむろに部下の首を掴み持ち上げる。

「ゴフッ……」

 捕まれた部下の男は息の詰まった声を漏らす。

 ──ザクリッ!

 リーダー格の男は、掴み上げた部下の男の左胸に剣を刺し、何の迷いも無く、部下の

「無いよりはマシと言った所か」

 リーダー格の男は、抜き取った部下の心臓を手に持つと、その心臓を足元の壺の中へ投げ込む。

「あ……ありがたき……幸せ……これで……俺も……あの方々の……尊き……一部となれる……」

 心臓を抜き取られた部下の男は、最後にそんな言葉を残し、恍惚こうこつの表情を浮かべながらその場に倒れる。

 と、その時だ。


 ────ガッシャーン!!!!


 次の瞬間〝魔王信仰〟の者達の隠れていた結界が割れ、その中にが猛烈な勢いで突っ込んで来る!

「あ? 俺の結界を見つけて破ったのかッ!? 偶然か? いや、待て。だと? オイオイ、まさか〝ルスサルペの湖〟のの〝変異種ヴァルタリス〟か!」

 リーダー格の男は結界が見つかり、破壊された事に驚愕の顔を浮かべるが、直ぐにその視線をタケシへと向けると、薄汚い笑みを浮かべる。

「あひゃひゃひゃひゃッ! これは良い! あの方々への供物には最適だ! ──は、明日、街と共に攻め落とすつもりだったが、バラけてくれたなら好都合だ! 手間が省けたぞッ!」

 リーダー格の男は、鴨がネギでも背負しょってきたのを見るかのように、嬉しそうに下卑た笑い声を上げる。

「──これ以上、私を怒らせないでくれるかしら?」

 リーダー格の男の横には、いつの間にか、低く冷たい声で話す、が立っていた。

「はぁ?」

 リーダー格の男は、現れたその女性を睨む。

「あひゃッ! お前、何処から沸いたんだ? てかよ、オイ、女! いいもん持ってんじゃねぇかよぉ! 今日は最後の最後で、の方から次々と狩られに来てくれるなぁ! あーあ。さっきの、無いよりマシの心臓は余分だったかぁ?」
「トアのはどこ?」

 どこまでも淡々とミトリは告げる。

「あ? トア? 何だそれ? いいから、お前とその竜は、ちょっとこっちに来いって言ってんだよ!」

 リーダー格の男がミトリに手を伸ばそうとする。

 だが、その手がミトリに触れる事は無かった。

「──はッ!?」

 リーダー格の男はミトリに手を伸ばそうとした、その手に力が入らない。そんな今まで感じた事の無い感覚を感じ、自身の腕を見ると……

 伸ばした筈の腕が、肩から指先まで、全てついていた。

「会話もできないみたいね。そもそも、貴方達の言ってる事は、私にはよく理解できないわ」

 ミトリはリーダー格の男の足元に会った、壺の蓋を取ると、一瞬、顔をしかめながら、その中にあったの一つを、ゆっくりとすくいあげる。

「こんな……こんな奴等に……トアは殺されたの? ……ミリアと私の大切な家族を奪ったって言うの……」

 ミトリのその言葉には怒りが満ちていた。

 嘆き、悲しみ、怒り、そして、絶望……
 そんな気持ちでミトリは頭が真っ白になる。

「この……糞アマがッ! お前ら!! 殺せッ!!」

 その声と共にリーダー格の男は、凍った腕をと判断してみずからその腕を、もう片方の腕で魔力を込めた剣を持ち、おのれもミトリに飛びかかるが……

 ──バアァァァァァァァァァンッ!!

 だが、次の瞬間、タケシが〝魔王信仰〟に向けて、魔力を使ったを浴びせ、向かって来た〝魔王信仰〟の者達を一斉いっせいほうむる。

 タケシだって怒っている、怒っているのだ。

 会うと、朝には必ず「おはよう」と言ってくれるトアが、帰ってくると『ただいま』と声をかけてくれるトアが、たまに『お裾分けだよ』と大漁の時に魚を持って来てくれるトアが、タケシは大好きだったのだ。

「ガアァァァァァァァァァ!!」

 タケシは怒りのままに叫ぶ。ミトリを、ミリアを悲しませ、そしてトアを殺したに向かって。

「タケシ、気持ちは分かるけど、私の分も残しておいてくれる? まあ、こんなゴミをいくら片付けた所で、私の気は晴れないし、トアが帰って来たりもしないのだけど……」

 そんなミトリの言葉を理解してか「ガウ……」っと、タケシは小さく返事を返して、少しだけ後ろに下がり、ミトリのに回る。

 そんな中、まだ生きて動いている人影があった。

 片手を失った、この〝魔王信仰〟の中ではリーダー格の男だ。それ以外の者は、先程の怒ったタケシので消し飛んだか、体のは多少なりとも残っていても、その全員がしている。

「ひゃひゃひゃひゃ! 何がどうなってる!」

 リーダー格の男は、こんな状況でも染みた声で笑っている。何故、笑っているかはミトリには分からない、分かりたくもなかった。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ズドンッ!

 リーダー格の男は、ミトリの一切の容赦の無い魔法による攻撃で、体に蜂の巣のような無数の穴が空く。

 それでも、尚、まだ笑みを浮かべて倒れる、この男にミトリは嫌悪感を通り越し、もはや恐怖を覚えた。

 そして、この男はもっと早く気づくべきだった。

 だが、何百年と生きて来たタケシの強さを。
 おのれとミトリとのを。

 それを見抜けなかった時点で、既にこの勝負の行方は決まっていた。
 ただ、それだけの事だが、それは勝敗を大きく左右する、致命的なミスだ。

 分かりやすく言ってしまえば、このリーダー格の男のレベルは53。
 他の〝魔王信仰〟の者は強い者でも40以下だ。

 ──それに対するミトリのレベルは91である。

 勿論、レベルが全てでは無いが、リーダー格の男が、一瞬たりとも気を抜いていい相手では無かった。

「ふざけないで……何で、何で、こんな奴等にトアが殺されなきゃいけなかったのよ! 何で、ミリアと私はこんな奴等のせいで、悲しまなきゃいけないのよ!」

 その頃には、リーダー格の男の体は、ミトリの魔法攻撃で、既にこの世から跡形も無く消し飛んでいた。

「トア……トア……ごめんね……守れなくて……」

 ミトリはトアの心臓の入った壺を抱きしめながら、その場で膝を突き、涙を流していた。

 そんな言葉をタケシだけが黙って聞いている。

 帰ったら……トアの死を、まだ直接、として聞いていない、ミリアに、この事を伝えなければならない。

(あの子は、どんな顔をするだろう……)

 を、ミリアもさせなければならない。

 そう思うだけで、身がかれる思いだ。

 その時……

「──誰ッ……!?」

 この場所に1人の男性が現れる。

 だが〝魔王信仰〟の者ではない。

 それだけはで分かる。

 その人物は、灰色の髪に知的に眼鏡をかけた、男性にしては少し長めの髪、見た目は30代前後だろうか?

 そして、男性は両手を上にげながら、ゆっくりと近づいて来ると……

「失礼します。まず、私は貴方の敵ではありません。名は──ロキ・ラピスラズリと申します。僭越せんえつながら〝大都市エルクステン〟のギルドにて、ギルドマスターを勤めさせて貰っている者です──」

 と、胡散臭い表情で自己紹介をしてくるのだった。
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