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第96話 ミリア・ハイルデートはミリアである17
しおりを挟む──翌々日。お母さんの熱が下がり、街にある、おばちゃんのお団子屋さんに行った。
「おばさん、こんにちは」
「ミトリちゃん! よかったわ、熱も下がったみたいね、ミリアちゃんも心配してたわよ!」
「毎度の事ながら、ごめんなさい。おばさん、お見舞い品とかも本当にありがとう。とても助かったわ」
お母さんとおばちゃんが、手を取りながら話をしている。
「そんな事は何も気にしなくていいんだよ。元気になってくれたなら、私はそれでいいさね──」
二コ二コと嬉しそうに笑うおばちゃん。
「あ、あの、こんにちはございもす! ……ます!」
お昼を少し過ぎた、あまり混まない時間帯に行くようにしているが、それでも他にお客さんはいる。
タイミングを計り、お母さんに少し隠れながら、私はおばちゃんに挨拶をする──でも、まだ人が多い所ではあまり上手く言葉が出ないが、自分の事ながら、2年前の〝こんにちは〟を〝昆虫〟と間違えた時よりは、伝えたい言葉を言えた気がする。
「こんにちは! ミリアちゃん! 今日もいっ~ぱいお団子を食べてってね!」
おばちゃんが明るく返事をくれる。
「ふぁ、ひゃ、は、はい!」
そして、いつものようにお団子を頼む。
お母さんは一緒におにぎりを頼んだ。
お団子とおにぎりが来ると、お母さんと〝いただきます〟をする。
「おばさんのくれたお米で、ミリアがお粥を作ってくれたのだけど……それがとっても美味しくて。何か、今度はおにぎりが食べたくなって来ちゃったわ。家では、あまりお米は食べないのだけど、美味しいわね」
「そうかい? それは嬉しいね。また持って行くよ」
どうやら──お母さんは私の作ったお粥を、想像以上に喜んでくれてたみたいで、私も嬉しくなる。
「ありがとう。それとおばさん。また、薬草の買い取りってお願いできるかしら? 勿論、無理にとは言わないけど」
お母さんが、おばちゃんに薬草の買い取りの話をしている。おばちゃんのお団子屋ではポーションも売っていて、主な原料は家の森の薬草だ。
「むしろ、こっちから頼みたいぐらいだよ──ただ、買取値は少し高くさせてもらうわね?」
お母さんに軽くウィンクするおばちゃん。
これはレアだ。少なくとも私は初めて見た。
「そんな! いつも通りでいいわよ!」
「いいのよ。最近はお陰様で常連さんも増えたんだからね。買取値を少しぐらい上げても、屁の河童よ!」
(もぐもぐ。もぐもぐ──〝屁の河童〟ってなんだろう? 後で、お母さんに聞いてみようかな?)
お団子を頬張りながら、私は首を傾げる。
「おばさん……もしかして、気を使ってる?」
「仮にそうだとしても、お年寄りからの気使いは基本的に貰っておきなさいな?」
「……年寄りって──分かったわ、ありがとう。おばさん。早速、明日にでも持ってくるわね」
お団子を食べ終わると、私達は席を立ち、お会計をしようとする──と、言っても私は見てるだけだ。
大きくなったら、今度は私がお母さんにご馳走しよう。おばちゃんにも、おじちゃんにも、何かご馳走できるぐらい、立派になりたいけど……やっぱり将来は不安だ。でも、私はずっとあのお家で暮らすと思う。
「──ちょっと、おばさん! これ、いつもの半額じゃない! トアへのお土産も買っているのよ!」
何やら、お母さんがおばちゃんに苦情を出す。
食事代が安すぎる! と言う、中々珍しい苦情だ。
「〝ハイルデート家・割り引き〟──略して〝ハイ割〟よ。ミトリちゃん、ミリアちゃんは、家でいくら食事をしても半額よ! 異論は認めないわ!」
『じゃないと、タダにするわよ? ミトリちゃん、それこそ家を潰すつもりかしら? ふっふっふっふ!』
と、謎の脅し(?)をかけて来るおばちゃん。
「おばさん……太っ腹過ぎよ……ちゃんと、利益はあるんでしょうね? じゃないと、悪くて食べに来れないわ──ここのお団子はミリアの大好物。食べに来れなくなったらミリアが悲しむわ。いくらおばさんでも、ミリアを悲しませる事は私が許さないわよ?」
負けじとお母さん。
……何の戦いだろう?
「ちゃんと利益はあるわ。だからいつでも来なさい」
「……。ありがと、おばさん。なら、遠慮せずに、いつもよりも沢山食べるから覚悟しなさい。おじさんに『手が足りない』とか言われても知らないんだから」
勝負は──お母さんの勝ち……? 負け?
ううん。勝ち負けは無いみたい。
そんな優しい戦いだった。
*
──翌日。
薬草を売りに行き、帰って来ると、
その日から、更に厳しくなったお母さんとの特訓の日々が待っていた。
お母さんは、魔法を重点に教えてくれた。
先日、私が軽い〝魔力枯渇〟を起こしたからだ。
私の──魔法の勉学、実技は、全てこの頃から、お母さんに教わった物だ。
お母さんは、時には沢山叱り、時にはいっぱい褒めてくれた。
私は、叱られても、誉められても、
そんな時間が大好きだった。
叱られて凹む私を、特訓が終わると──必ずお母さんは『頑張ったわね。大丈夫、次はきっとできるわ』と励ましてくれた。
誉めてくれた時も、特訓が終わると──『凄いわ。今日はお祝いね。晩御飯は何が食べたい?』と優しく頭を撫でてくれた。
いっぱい汗を掻いて、いっぱい寝て。
たくさん泣いて、たくさん笑って。
いっぱい失敗して、いっぱい成功もした。
そして、たくさん走って、たくさん食べた。
そんな毎日が、あっと言う間に……
1年、2年と過ぎた。そんな、ある日──
いつものように、朝食を食べた後、体力作りの為に、湖の周りを走っていた、私が8歳の時の事だ。
ビュン!
「──ガウッ! ガウッ!」
私の真横を、猛スピードで飛びながら現れたタケシが、慌てた様子で私に何かを伝えようとする。
「タケシ!? どうしたの! ──あ、ちょっと!」
クイッと、タケシは私を口で軽く摘まみ上げると、私を自身の背中へと乗せ、タケシは家の方へ向かう。
「た、タケシ!?」
こんなタケシは初めて見た。
どうしたのだろう──
──!!
タケシの背中に乗り、家に近づいて行くと……
家の近くの森で、倒れている人影を発見する。
「お母さん!!」
お母さんだ。
森に薬草を取りに行ったお母さんが倒れている。
そのままタケシに乗りながら、私は直ぐにお母さんの元へ駆け寄る。
「お母さん! お母さん!! しっかりして!」
「……ぅ……ぅ……」
殆ど意識が無い──
いつもの発作だとしても、今回は何か変だ!
とにかく、私は直ぐにお母さんを家に運び、べッドに寝かせると〝回復魔法〟を使う──
「お母さん! お母さん!」
いつもの発作なら、高熱がある時は意識がある。
逆に意識が無く、パタリと倒れ、数日も目を覚まさない時は──熱は平熱で、呼吸も大人しく、パッと見は眠ってるかのようだが……お母さん曰く、気づくと何日も時間が過ぎてしまってる感覚らしい。
──でも、今回は熱があって、意識も無い。
まるで、いつもの発作の悪い所が同時に来てるかのようだ。
「……ゴホッ……ゴホ……グフッ……!」
今度は、お母さんが口から血を吐いてしまう。
「──お母さん!」
まずい、何かが変だ。
「お願い目を覚まして! 〝回復魔法〟!」
私は〝回復魔法〟を使い続ける。
途中、私は〝魔力回復薬〟を飲み、
間を開けず〝回復魔法〟を使う。
「……お願い……お願いだから……!」
今でも……その時、嫌に長く感じた──
時間にして、ほんの……1分、1秒が……
頭にこびりついて、私の記憶から離れてくれない。
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