生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第125話 イシガキ

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「あれは〝魔王イヴリス〟の配下の魔族……確か名前は──アルケラ……俺もついてねぇな」

 イシガキは大きく溜め息を吐く。

「ん──何か人間共が多いとおもったら、王族の娘がいるじゃねぇか? こりゃついてる。飯の時間だ」

 人類の心臓を喰らい、己の魔力を高めることができる魔族にとっては、今のこの状況を食事としか考えておらず、その中でも特に魔力の高い──王族であるレヴィニアに目を付ける。

「ひ、怯むな!」
「そうだ、姫様をお守りしろ!」
「俺達が相手だ!」
「人数では完全に勝っている! 皆で戦うぞ!」

 最初は魔族の登場に足がすくんで動けなかった兵士が、一人、また一人と声を上げ、戦う意思を見せる。

 ──ザンッ!!

 たったそれだけの音がした。

 その、たったそれだけの一回の攻撃で100人の兵士の体が、上半身と下半身に真っ二つに別れた。

「「「「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」」」」
「い、今、何をしたんだッ!?」

 周りからは悲鳴が上がる。

「オイ! お前達、落ち着け!」

 イシガキが声を張るが、兵士には届かない。

「……ち、やっぱ雑魚共は美味くないよなぁ」

 いつの間にか、兵士の数人の心臓を抜き取り、もしゃもしゃと、それを食すアルケラは気だるげに話す。

「貴様ぁ!」
「俺達の仲間をよくもッ!」
「戦闘中によそ見とはいい度胸だ!」

 兵士達がアルケラに斬りかかるが、アルケラの体に当たった兵士達の剣は、アルケラの体の硬さに弾かれ──バキンッと折れてしまう。

「なっ!!」

 ──ブンッ!

 アルケラは手を横凪ぎに振るう。
 ただそれだけで、次は100の兵士の首が落ちた。

 そんな様子を竜車から見ていた、レヴィニアとイルザは息を呑む。

「何よあれ……」
「あれが魔族……」

 震えた声の二人にイシガキが声をかける。

「レヴィニア嬢ちゃん達、震えてる暇は無いぞ。俺があいつの前に出たら、直ぐに逃げろ! メイド長ちゃんなら、レヴィニア嬢ちゃん抱えて〝エルクステン〟まで走れる筈だ!」
「待って、イシガキ! 貴方も逃げるのよ。流石の貴方でも、あんな化物に勝てるわけないわ!」

「レヴィニア嬢ちゃん、あれは皆で尻尾巻いて逃げても『はいそうですか』と、逃がしちゃくれないぜ?」
「……でも」

 下を向くレヴィニアをがしっと、イルザが脇に抱える。

「お嬢様、行きましょう──イシガキ様、どうか御武運を」
「ああ、メイド長ちゃんもな。それとレヴィニア嬢ちゃん、達者でな。元気に生きろよ」

 イシガキはレヴィニアの頭をそっと撫でる。

「待ちなさい! イルザも私を下ろしなさい!」
「そのご命令は受けかねます」

 低い声でピシャリとイルザに言い放たれ、レヴィニアは「……うっ」と声が詰まる。

「メイド長ちゃん、どうやら時間だ、合図で出るぞ」
「はい、分かりました」

「3、2、1──今だ! 行け!」

 その声でバンッ! と、イシガキは魔族アルケラの方へ──そしてレヴィニアを抱えたイルザは、横の森へ駆け込み、アルケラから距離を取るようにし、まだまだ此処からは遠い街〝エルクステン〟を走って目指す。

「イシガキッ!」

 飛び出した刹那──イルザに抱えらながら、必死に手を伸ばしイシガキを呼ぶレヴィニアだが、イシガキからの返事はない。

「王族が逃げたか、せっかくのご馳走が──」

 既に1000人いた兵士は残り200人程度となっており、辺りは散っていった兵士の血で赤く染め上げられていた。

 そしてイシガキは逃げるレヴィニアに、アルケラが一瞬だけ気を取られた瞬間を見逃さなかった──

「《剣よ・刃よ・魔を討ち滅ぼせ》──〝破国はこく〟!」
 
 腰にたずさえた剣を瞬時に抜き──魔力による威力強化ブーストと、その斬撃をより重くする為、重力グラビティ系の魔法を加えた重い一撃をアルケラに目掛け、大きく振り斬る!

 だが、その攻撃はアルケラの右手だけで受け止められてしまうが……ここに来て初めてアルケラは人間を食事としてではない視線で、イシガキを見る。

「痛ぇじゃねぇか。お前の心臓は美味そうだ」

 でも、結局はアルケラはイシガキを食事の対象として見る。それでも一瞬、自分の攻撃をという行動に出たアルケラに対し、イシガキは満足そうに笑う。

「こんな年寄りの心臓はくれてやるからよ、それで勘弁しちゃくれねぇかな。魔族のアルケラさんよ?」
「へぇ、俺の名を知っているのか?」

「あんたらは長生きだからな。1000や、あんたら魔族や魔王の名前や危険性は、嫌って程に後世に伝えられてる。恐らく知らない奴のが少ないぜ?」
1000か……魔王イヴリス様を封じた忌々いまいましい、あの〝天聖てんせい〟を思い出す。すぐに口を閉じろ」

 低い声と鋭い目でギロリとアルケラに睨らまれると、ゾワリとイシガキは背筋に冷たいものを感じた。
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