126 / 378
第125話 イシガキ
しおりを挟む「あれは〝魔王イヴリス〟の配下の魔族……確か名前は──アルケラ……俺もついてねぇな」
イシガキは大きく溜め息を吐く。
「ん──何か人間共が多いとおもったら、王族の娘がいるじゃねぇか? こりゃついてる。飯の時間だ」
人類の心臓を喰らい、己の魔力を高めることができる魔族にとっては、今のこの状況を食事としか考えておらず、その中でも特に魔力の高い──王族であるレヴィニアに目を付ける。
「ひ、怯むな!」
「そうだ、姫様をお守りしろ!」
「俺達が相手だ!」
「人数では完全に勝っている! 皆で戦うぞ!」
最初は魔族の登場に足が竦んで動けなかった兵士が、一人、また一人と声を上げ、戦う意思を見せる。
──ザンッ!!
たったそれだけの音がした。
その、たったそれだけの一回の攻撃で100人の兵士の体が、上半身と下半身に真っ二つに別れた。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」」」」
「い、今、何をしたんだッ!?」
周りからは悲鳴が上がる。
「オイ! お前達、落ち着け!」
イシガキが声を張るが、兵士には届かない。
「……ち、やっぱ雑魚共は美味くないよなぁ」
いつの間にか、兵士の数人の心臓を抜き取り、もしゃもしゃと、それを食すアルケラは気だるげに話す。
「貴様ぁ!」
「俺達の仲間をよくもッ!」
「戦闘中によそ見とはいい度胸だ!」
兵士達がアルケラに斬りかかるが、アルケラの体に当たった兵士達の剣は、アルケラの体の硬さに弾かれ──バキンッと折れてしまう。
「なっ!!」
──ブンッ!
アルケラは手を横凪ぎに振るう。
ただそれだけで、次は100の兵士の首が落ちた。
そんな様子を竜車から見ていた、レヴィニアとイルザは息を呑む。
「何よあれ……」
「あれが魔族……」
震えた声の二人にイシガキが声をかける。
「レヴィニア嬢ちゃん達、震えてる暇は無いぞ。俺があいつの前に出たら、直ぐに逃げろ! メイド長ちゃんなら、レヴィニア嬢ちゃん抱えて〝エルクステン〟まで走れる筈だ!」
「待って、イシガキ! 貴方も逃げるのよ。流石の貴方でも、あんな化物に勝てるわけないわ!」
「レヴィニア嬢ちゃん、あれは皆で尻尾巻いて逃げても『はいそうですか』と、逃がしちゃくれないぜ?」
「……でも」
下を向くレヴィニアをがしっと、イルザが脇に抱える。
「お嬢様、行きましょう──イシガキ様、どうか御武運を」
「ああ、メイド長ちゃんもな。それとレヴィニア嬢ちゃん、達者でな。元気に生きろよ」
イシガキはレヴィニアの頭をそっと撫でる。
「待ちなさい! イルザも私を下ろしなさい!」
「そのご命令は受けかねます」
低い声でピシャリとイルザに言い放たれ、レヴィニアは「……うっ」と声が詰まる。
「メイド長ちゃん、どうやら時間だ、合図で出るぞ」
「はい、分かりました」
「3、2、1──今だ! 行け!」
その声でバンッ! と、イシガキは魔族の方へ──そしてレヴィニアを抱えたイルザは、横の森へ駆け込み、アルケラから距離を取るようにし、まだまだ此処からは遠い街〝エルクステン〟を走って目指す。
「イシガキッ!」
飛び出した刹那──イルザに抱えらながら、必死に手を伸ばしイシガキを呼ぶレヴィニアだが、イシガキからの返事はない。
「王族が逃げたか、せっかくのご馳走が──」
既に1000人いた兵士は残り200人程度となっており、辺りは散っていった兵士の血で赤く染め上げられていた。
そしてイシガキは逃げるレヴィニアに、アルケラが一瞬だけ気を取られた瞬間を見逃さなかった──
「《剣よ・刃よ・魔を討ち滅ぼせ》──〝破国〟!」
腰に携えた剣を瞬時に抜き──魔力による威力強化と、その斬撃をより重くする為、重力系の魔法を加えた重い一撃をアルケラに目掛け、大きく振り斬る!
だが、その攻撃はアルケラの右手だけで受け止められてしまうが……ここに来て初めてアルケラは人間を食事としてではない視線で、イシガキを見る。
「痛ぇじゃねぇか。お前の心臓は美味そうだ」
でも、結局はアルケラはイシガキを食事の対象として見る。それでも一瞬、自分の攻撃を防ぐという行動に出たアルケラに対し、イシガキは満足そうに笑う。
「こんな年寄りの心臓はくれてやるからよ、それで勘弁しちゃくれねぇかな。魔族のアルケラさんよ?」
「へぇ、俺の名を知っているのか?」
「あんたらは長生きだからな。1000年前の歴史や、あんたら魔族や魔王の名前や危険性は、嫌って程に後世に伝えられてる。恐らく知らない奴のが少ないぜ?」
「1000年前か……魔王イヴリス様を封じた忌々しい、あの〝天聖〟を思い出す。すぐに口を閉じろ」
低い声と鋭い目でギロリとアルケラに睨らまれると、ゾワリとイシガキは背筋に冷たいものを感じた。
36
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜
2nd kanta
ファンタジー
愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。
人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。
そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。
しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる