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第155話 霧裂
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──大都市エルクステン
大砦の門・魔王城落下地点付近──
そこでは魔族──
駕樂と激戦を繰り広げていた。
対する戦力は、
〝第2騎士隊長〟リーゼス・ロック
〝拳の拳聖〟マリア・アートハイム
〝聖女〟ジューリア・クーロー
〝第8騎士隊長〟システィア・エリザパルシィ
〝第8騎士隊員〟以下数十名
十分な戦力と言えるが、
まだ魔族を押し返すことはできていなかった。
「流石にキツいの、老体には堪えるわい」
リーゼスが苦しい表情で呟く。
対する駕樂は堂々たる戦い振りだ。
10mを越える長身で、全身は真っ黒で両手には槍を持っており、黒い兜を被り2本の大きな角が生えている。
エメレアに心臓への一撃を貰ったが、致命傷には至っていない。
そのエメレアも先程の魔法で魔力を使い果たし、疲労困憊でクレハに介護されている。
「一気に倒せる相手ではありません、協力をして全員で挑みましょう!」
その中でも落ち着いた態度のジューリアが話す。だが、その手には多量の汗が滲んでいる。
ミリアの怪我の治療後、ジューリア、ミリア、クレハも戦いに合流したが、やはり魔族の壁は厚い。
「エメレアちゃん、大丈夫!! しっかりして!」
クレハがエメレアの口に〝魔力回復薬〟を流し込む。
エメレアは先程の魔法──〝暴風槍〟で魔力枯渇寸前であった。
ミリアの怪我の回復後、ピシャリと気合いを入れ直し、魔族と戦おうと戦場に戻ったクレハとミリアが「その前にエメレアの治療!」と、瞬時に頭を切り替える程だ。
「大丈夫よ、これくらい──私はミリアに仇を成した、あの狼藉者に天誅を下しただけよ!」
だが、エメレアが怒り放った魔法も、心臓を捉えていたが、致命傷まではいかなかった。
「にしても、魔族って本当にデタラメね。まるでどっかの誰かみたい。確実に殺ったと思ったのに……心臓を攻撃して、殺すどころか致命傷までいかないなんて」
エメレアの使った魔法〝暴風槍〟はエメレアが使える最上級の魔法だ。
それを急所に当てても致命傷とならなかった。
内心ではエメレアは改めて魔族の固さを目の当たりにし、舌打ちをする。
「エメレアちゃん、立てる? お願い、エメレアちゃんの力が、皆の力が今は必要なの!」
「勿論よ、クレハ、皆で勝ちましょう! 私なら大丈夫よ! 今度こそ皆で帰るわ!」
エメレアの頭には〝7年前の魔王戦争〟の時に、自分は世話になっていたクレハの両親の力に成れず、死なせてしまったという、苦く苦しい思い出が頭を過る。
勿論、この件にエメレアの責任は一つもない
だが、エメレアは悔いていた。
もし、役立たずだが、自分があの場にいれば少しでも何かが変わったんじゃないかと、自意識過剰と言われてもおかしくない、そんな想いをエメレアはどうしても捨てきれない。
「それはそうとお婆ちゃんのあの強さは何?」
「あ、うん、私も話は聞いてたけど、初めて見たかな? 私が生まれる前に病気で騎士は辞めて、騎士養成所の教官をやってたから、それ以前のことはあんまり詳しくは聞いてないんだよね」
「そう、でも、元気なのはいいことよね!」
そんな話をしてる間にもクレハの祖母──マリアは第2騎士隊長のリーゼスと共に駕樂に向かい、魔力を纏った正拳突きをお見舞いしている
「ハッ!」
「せいッ!」
駕樂は槍で受けるが、二人の攻撃に押し負け、後方に少し後退する。
「《円環と帰還せし・輪廻の理・撃ち果たせ》──〝光矢の雨〟」
戦斧を天に掲げ〝聖女〟ジューリア・クーローが魔法を使うと、魔法陣から放たれる何千もの光の矢が駕樂を襲う。
「流石は〝聖女〟……数もだが威力が違うな」
システィアが感嘆の声を漏らす。
すると、その時だ。この場に不釣り合いなほどあっけらかんとした声が響く──
「──あれ? さっき聞いた話より戦力が多いな? 〝聖女〟までいるじゃん」
そしてその人物はふわりと移動し、魔族の背後を取る。
「〝雨霧〟!!」
右手に霧のような物を纏い、駕樂を攻撃する。
「うぐっ……!」
駕樂がのけ反り、苦痛の声を漏らす。
「ぱ、パンプキック様!!」
ジューリアは驚いた顔をする。
「六魔導士の〝霧裂〟パンプキック・ジャック殿!? ということは、今この都市に六魔導士が二人もいるということか!」
システィアも驚きの顔を見せる。
〝霧裂〟パンプキック・ジャック
〝独軍〟シラセ・アヤセ
人類の最高戦力である6人の王国魔導士団の内、その二人が魔王戦争が起きたこの街にいる。
この場の人間に取っては朗報であった。
「僕一人で相手する事になるかなと思ったけど、これなら早く片付けられそうだね」
パンプキックが言う。
「──我を片付けるだと?」
駕樂が口を開く、底冷えするような身体の芯が震え上がりそうな声だが、その口調には嘲笑や怒りと言った感情も感じられる。
「そうだよ、君たちはここにいちゃいけないんだ。今引き下がるって言うなら止めないけど?」
どこまてもあっけらかんとした口調のパンプキックだが、その瞳の奥には力強い信念が見える。
駕樂は無言だ。
考えているのではない、端から駕樂に撤退の文字は無い。なのに、一体何を聞いているのか? と不思議がっているのだ。
「まあ、君に判断権は無いか。魔王に聞いても良い返事を貰えるとは思えないけどね──」
そう言うとパンプキックは戦う姿勢を見せる。
そして魔族との戦いはパンプキックを交え、更に激化していく──。
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