生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第180話 過去編・花蓮ノ子守唄11

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 *

 雨の降ったある日のこと──

 理沙が段ボールを拾ってきた。

「おとーさん、おかーさん、これ飼っていい……?」

「猫はお母様が猫アレルギーだから飼えないのよって……あら、猫じゃないわね」
「動物ですらないな、これは〝ルンパ〟か?」

 そう、雨の中、理沙が拾ってきたのは猫でも犬でも、ましてや動物ですらない──
 自動ロボット掃除機・通称ルンパだ。

 しかも箱には、
 〝雄だと思ったら雄で、雌だと思ったら雌です〟
 と、よく分からない張り紙があった。

「うーん、どうしようかしらね」
「いいんじゃないか? 部屋も綺麗になるし」

「そうね、いいわよ。ちゃんと毎日充電するのよ」
「うん、ありがとう、おとーさん、おかーさん」

 理沙はご機嫌な様子で箱からルンパを出す。

「名前はグルメにしようかな」

 と、早速名前まで付けてる始末であった。
 つーか、何だよ、グルメって! 絶対グルメじゃないぞ! ゴミしか吸い込まん!

 まあ、ということで、家族(?)が一台増えたのだった。

 ──それから更に一年経った、ある日。

「じゃあ、行ってくるぜ!」
「いってきまーす!」

 今回は、親父と母さんが夫婦で旅行に出掛けた。
 これも年一での恒例行事だ。

 今回の行き先は登山らしい。

「いってら、店番ぐらいは任せとけ」
「いってらっしゃい、早く帰ってき……あ、でも、ゆっくりしてきてね」

 はぎゅりと母さんに抱きつく理沙は言葉を直す。

「いってきます、お土産たくさん買ってくるわね」

 この2年ですっかり理沙は家に溶け込んだ──
 特に母さんと婆ちゃんは理沙を可愛がっている。

「じゃあ、ユキマサ、後は任せたぜ?」

 がしがしと親父が俺の頭を荒く撫でる。

「ああ、こんな時ぐらいゆっくり羽を伸ばしな」

 そう言い、俺は親父に手を振る。
 タクシーに乗り、駅まで向かう親父達を俺と理沙はタクシーが見えなくなるまで見送り続けた。

「いっちゃったね」
「寂しいか?」

 イタズラ混じりに俺は理沙に問う。

「うん、寂しい」
「……そ、そうか」

 思いの外、素直な返事に一瞬、俺は言葉が詰まる。

「何よ、ユキマサは寂しくないの?」
「寂しいつーかな、また3日もすれば会えるんだし、変に思い詰めることも無いんじゃないか?」

「まあ、そうだけど……でも、寂しいの!」
「ハハハ、素直なことで──つーか、それ、母さんに直接聞かせてやれよ、きっと喜ぶぜ?」

「うん……あ、早く、お店戻らなきゃ!」
「そうだな、こんな時ぐらい本腰入れて爺ちゃん達の手伝いしなきゃな、行くか?」

「当たり前、それにおかーさん達が帰ってきたら、いっぱい誉めてもらうんだ!」
「なるほど、そりゃ大変そうだ」

「だからユキマサも早く手伝って!」

 と、その時だ──

「理沙ちゃん、ユキマサー! お店開けるわよー!」

 婆ちゃんの声が耳に届く。

「うん、今行く!」
「婆ちゃん、張り切りすぎて怪我とかすんなよ?」

 俺と理沙は婆ちゃんの元へ向かう。
 まあ、つーか、相変わらず婆ちゃんは見た目は20代のままだし、変に年寄り扱いしなくていいのか?

 そして今日も〝和菓子屋・稗月ひえづき〟は店を開く──

 そして親父達がいない人手不足な時ほど店は混む。

「はい、栗モナカ1ダースで3600円になります」

 婆ちゃんがレジを担当する。
 開店と同時にパラパラと入ってきた客だが、開店後数分で10人、20人と店の中が混んでくる。

稗月ひえづき饅頭まんじゅう2ダースください」
「こっちは栗モナカ10個お願いします」
「どら焼き全種類ください」

 婆ちゃんがレジをやり、梱包を俺と理沙が行う。

 せめての救いがバラ客(1、2個買ってくれる客)は店内を見て回り、帰りに外に設置してある〝稗月饅頭〟と〝栗モナカ〟の自動販売機で購入をしてくれ、レジが何とか回ることだろう。
 ちなみに店舗販売と自動販売機の品物は見分けが付くように包みの色が少し違う。
 だが、その自販機も中身をそろそろ補充しないといけなさそうだ。

 その後も、売り場の品が売れに売れて、爺ちゃんが追加で、どら焼きや栗モナカの製作に取りかかる始末だ。
 それでもまだまだ売れる。何故か客が途切れないのだ、自販機の補充も何往復かした。

 そして売って売って売って、補充して包んで、また売って、今日の夕方には──
 〝本日完売御礼!〟
 そんな立て札と共に本日の店は閉じる。

「う、売れたぁぁぁ~」

 へたりと理沙が倒れ込む。

「お疲れ、でも、何じゃったんじゃ? 今日は異様じゃぞ?」
「そうねぇ、あなた何か心当たりは?」

「無いな……それに悪いんじゃが、少し休んだら明日の仕込みじゃ」
「だな、婆ちゃんの茶飲んだらとっとと片付けちまおうぜ?」

「そしたら温泉じゃ! 完売祝いも込めてパァーっと、疲れを癒すぞ!」
「温泉!」

 生き返ったかのように理沙は顔を上げる。
 いや、もちろん元より死んでないけど。

「つーか、親父と母さん居ないんだから、単純に作業料が二倍近くになるぞ?」
「えーい! なら、寿司じゃ! 今日は寿司を食うぞ!」

「あら、リッチね」
「私、お寿司食べるの初めて」

 婆ちゃんと理沙は意外に食いつく。

 そして俺と爺ちゃんは各種の製造。
 理沙と婆ちゃんは包み作業を続けた。

「お、終わったぁ~」

 ぐでん、と寝そべる理沙は心底疲れた様子だ。

「お疲れさま、理沙ちゃん、温泉行きましょ」
「行く!」

 と、急ぎ準備をし、温泉へと向かう。仕込みを終えたのは午後7時過ぎだったが、これは店が早く閉まったのが効を奏したな。もう少し遅かったら温泉すらゆっくり入れなかった所だ。
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