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第302話 エメラルドの約束
しおりを挟む──10年前・エルフの国〝シルフディート〟
フェルブランド集落──
エルフの国の中でも、中規模な集落に7歳の私は実の兄と二人で住んでいた。
親の顔はよく覚えてない。母は私を生むと同時に亡くなってしまい、父は私が2歳の頃に流行り病で亡くなっている。今私が家族と呼べる生きてる人は年が100ほど離れた実の兄だけだった。
お世辞にも綺麗とは言えない、古く小さな家だけど、そこには確かな幸せがあった。
そんな私と兄の幸せが終わりを告げる事となった、大嫌いなエルフの国の、あの忌まわしき話をしよう。
*
「──エメレア、食事にしようか」
女性のように長く綺麗な金髪の髪を一本結びにした、見るからに優しげな雰囲気の男性がエメレアに話しかける。この男性の名前は──リョク・エルラルド。エメレアの実の兄だ。
「うん!」
今日のメニューはパンとキノコの塩スープ。
食事は1日2食。今日もいつもと同じメニューだ。
「リョク兄さん、今日のパンは焦げてないね」
「それはよかった。今日はパン屋さんも力作なのかもしれないね」
リョク兄さんは楽しそうに笑い「沢山お食べ」と、自分の分のスープのキノコを私のお皿に移す。
キノコは好きだ。いくらでも食べられる。
私が「美味しい」と言うと、リョク兄さんは自分の分まで全部私に食事をくれてしまうので、美味しいと言葉にするのは、できるだけ言わないように最近は心掛けている。
食事を終えると、兄さんは畑仕事に戻る。
私も朝から手伝ってるけど、リョク兄さんは日が昇る前から畑に出て、日が沈んでもまだ畑にいる。
この畑は私たちの持ち物では無く借り物だ。
兄さん曰く、ここの土地代は凄く高いらしい。
でも私たちは他に行く宛もない。
質素だけども、毎日何とか暮らせていけた。
それだけで十分だと兄さんは笑う。
いつも、いつも、私の大好きな笑顔で。
すると同じ集落の人がやってくる。
男性が3人、ゴミを持ってきた。
「おーい、リョク、いつも通りゴミ処理頼むな」
「分かりました。お疲れ様です」
兄さんは集落のゴミ当番というものらしい。年に一度、それが変わる筈なのに私が物心付く前から、兄さんはずっとゴミ当番を押し付けられてるみたいだ。
私はあの連中が好きではない。
いや、普通でも無い、嫌いだ。
パチパチと音を立て、火魔法でゴミを燃やしていく。
「リョク兄さん、魔力は大丈夫?」
「大丈夫だよ、エメレアは優しいね」
「何で兄さんばっかり損な役目を押し付けられるの? ゴミ当番も全然当番制じゃないし、こないだの鶏泥棒も私たちじゃないのに犯人にされてお金取られたし」
リョク兄さんは、いつも通りずっと畑にいた。集落の人もそれを知ってた筈なのに、誰もリョク兄さんの味方をしてくれる人は居なかった。
鶏泥棒の件は私たちじゃないのにお金を取られ、あまつさえ「捕まらないだけ感謝しろ」とまで言われる始末だった。本当に腹が立った。
「そうだね、でも皆も色々と大変なんだよ。私はこうしてエメレアと一緒に暮らせれば幸せだから、それぐらい何の苦でも無いよ」
そう言うとリョク兄さんは私の頭を優しく撫でた。ちょっとくすぐったかったけど私はとても嬉しかった。そんな幸せな時間が流れていく──
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