生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
305 / 378

第304話 エメラルドの約束3

しおりを挟む


 ──夕刻。
 帰宅した私と兄さんは夕食を作る。

 今日のメニューは凄く豪華、キジ鍋だ。
 手慣れた作業で兄さんがキジを捌いていく。

 私は山菜を切り、火を起こし、鍋に水と塩、切った山菜を入れる。

「ごめんね、エメレア〝火の結晶イヴクリュスタル〟も買えればよかったんだけど……」

 家は世間でいう貧乏だ──〝様々な結晶ウィータクリュスタル〟も何とか、なけなしのお金を捻出して、今の生活に一番必要である〝浄化の結晶ラヴェクリュスタル〟を買うだけだ。

「ううん、大丈夫。私、火起こし好きだから」

 水は湧き水が、光りは月明かりが、火は火起こしをすればいい。
 もう少し大きくなったら、私も付与魔法を勉強しよう。そうすれば〝様々な結晶ウィータクリュスタル〟を魔力結晶さえあれば自分で作ることが可能だ。兄さんも喜んでくれる筈。

 鍋が煮えてきた、キジ肉も鍋に入れ更に煮る。

 その間に私は醤油と酢と野生のレモンでポン酢を作った、こないだリョク兄さんに教わった調味料だ。
 これが鍋にとっても合う。
 そんなことを考えてたらお腹が減ってきた。

 なんせ、久々の今日は大猟たいりょうだ。
 今日はお腹いっぱいまで食べられる。

 リョク兄さんも今日はお腹いっぱいになってくれるといいな。いつもは私にばかりごはんをくれるから。リョク兄さんはあまりごはんを食べてない。

 去年の冬、お金も無く、ごはんも満足に食べられない時にリョク兄さんは私に心配かけないようにそれを黙って、ある食べ物は全て私にくれて、自分は水と塩だけで過ごしていたのを知った時は、自分の無力さとリョク兄さんへの申し訳なさで涙が止まらなかった。

「リョク兄さん、お鍋できたよ! 食べよ!」
「ん~。いい匂いだね! そうだね。冷めない内にいただこうか、エメレア」

 いただきますをして、鍋を食べると──勿論、頬が落ちるくらい美味しい! チラリと私が向かいを見ると、リョク兄さんも美味しそうに笑ってキジ鍋を食べていた。そんな兄さんを見るのが私は楽しかった。

 ──大満足の夕食だった。
 兄さんもキジ鍋をいっぱい食べてくれた。それが私は本当に嬉しかった。私の分まであげたくなる。

 鍋を片付けた後は、食後のお茶……
 は、無いので食後の水だ。

 雲の無い夜空、外に出て草の地面に寝っ転がり、私と兄さんは星を見る。

「綺麗」

 思わず本音が出る。空が明るい──これは太陽の明るさではなく、月明かりと小さないくつもの星が輝いてるからだ。あの星には何があるんだろう?

 川のようになっていたり、列を成していたり、様々な星が、大空で踊っているように見えた。

 そんな話をリョク兄さんに言うと「あはは。星が踊ってるように見えたのかい? でも、言われてみると私もそう見えて来たよ」と、楽しそうに笑う兄さん。

 気づけば、小一時間、星空を眺めていた。
 そして気づいたら寝てしまっていた。

「こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうよ?」

 誰かに身体を持ち上げられ、背負われている感覚がある。きっと兄さんだ。兄さんが寝てしまった私を家まで運んでくれてるんだ。

 重くないかな? また兄さんに手間を掛けさせてしまった。でも、心地よすぎて睡魔に勝てない──
 ごめんね、兄さん、いつもありがとう。
 そんなことを兄さんの背中で思う。微睡まどろみの中で。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...