327 / 378
第326話 言わぬが花
しおりを挟む──〝大都市エルクステン〟
路地裏・(現代)──
「──ちょっと待った、誰か来た」
まだ話の途中だが俺はエメレアの話を遮る。
「な、誰よ?」
ここは人があまり訪ねてはこないギルドマスター室でも、私有地である家の中でもない。
強いて言うならあまり一般人は近づかない、暗い路地裏である。招かれざる人が来ても不思議ではない。
数十秒後、こちらに向け、声が掛けられる。
「──ほう、この距離で気づくかね? 流石は大国を一つを落とした、大罪人だ。相変わらず、化け物染みた実力は確かなようだね」
厳格そうな声だ──聞き覚えがある。
バッと、俺はエメレアに自身の巻いていたフード付きマントを被せる、この男から顔が見えないように。
「すこぶる他人行儀だな。つれねぇじゃねぇか、一緒に〝魔王戦争〟を経験した仲だろ? ──なぁ、ガーロック・サカズキン領主様?」
狭い路地裏の左右から、憲兵が俺たちを取り囲む。その先頭に立つは〝大都市エルクステン〟の領主──ガーロック・サカズキンだ。
「君には指名手配書が出ている。そんな人物の君を私の任されている領地内で野放しにしていては示しがつかないのでね」
うん。ぐうの音も出ない正論だ。
そりゃそうだ、コイツは何も悪くない。
日本でだって、指名手配犯が目の前にいれば、警察だって、何だろうが、そいつを捕まえようとする。
「それに一緒にいるのは誰だ? 仲間か?」
「ハッ、何を言うかと思えば。街を歩いてたら、可愛かったから、ちょいっと強引に路地裏にお招きして、少ーしだけやらしいことでもしようとしてただけだ。たった今邪魔が入ったがな。サカズキンちゃん?」
俺はいやらしく話す。犯罪者のように。
エメレアに俺といたという面倒はかけられない。
「要するに拐ってきて、君とは何の関係もないと?」
「受け取り方は自由だ」
「ならば、そうさせてもらおう」
殺気を出し始めたガーロックと、剣を抜き臨戦態勢になる憲兵達──どうやらやる気だ。
サーベルを抜いたガーロックが動いた。
その瞬間、俺はガーロックの方向へ右足の爪先で地面を蹴る。
爪先蹴りで生まれた衝撃波はガーロックを吹き飛ばすには十分な威力だった。
「ガーロック様!」
「おのれ貴様ぁ!」
「油断するな! 金貨10000枚の賞金首だ!」
受け身を取り、睨みを利かせるガーロックは部下に待ての指示をしている。
俺はエメレアをお姫様抱っこし、上に飛ぶ。
足に魔力を纏い、空気を踏み込んでだ。
左右から挟まれていて下は地面。こうなってくりゃぁ、もう後は鳥じゃなくても上に行くしかない。
屋根に出ると、屋根にも憲兵がいた。
──まあ、そりゃそうか!
俺は更に高く空に蹴り上がる。
家屋の3倍ぐらいの高さまで登ると、そのまま斜め上に空を走り城壁の壁の上を目指す。
城壁に人はいるが、100mに2人ずつぐらいの等間隔にいるだけだ。
「なぁ、エメレア、リーダーさんってのは、名前は結局分かったのか?」
「え? ううん。ギルドで調べようと思ったけど……何となく、一度名乗って貰ったのに──隠れてまた調べるような真似は失礼かなって? 次に会えた時に正直に謝って、改めて名前を聞こうかなって思ってる」
そうしたらいっぱいお礼を言うんだ。今度は私が何か美味しい物を皆にいっぱい奢るんだ。楽しみなんだ♪ ──と、子供のように無邪気な顔でとても嬉しそうに笑う。
(──俺はミリアの森でミリアと椎茸を墓に刺してる時に、ふとミリアに聞いたことがある……)
『ミリアの父さんのギルドパーティーは名前とかあるのか?』
俺の質問にミリアはこう答えた。
『あ、はい──吟遊詩人です』
ああ、繋がってしまう。
これは悲劇だ。
エメレアはもうリーダーさんとやらに会うことはできない。その〝吟遊詩人〟のリーダーさんと言う人物は十中八九、いや九分九厘──ミリアの父親だ。
エメレアと一番に仲良くしてた、治療術士のシュナという人物もミリアの話では、この世にもういない。
21
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる