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第329話 鈴蛍の池2
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「──わわ、ユキマサ君、ど、どうして此処に!?」
凄く焦るクレハ、何の話をしてたんだ?
「ああ、エメレアにクレハがいるって聞いてな?」
この世界に来てクレハには一番に世話になった。
家にまで住まわせて貰った。
だが、指名手配までされちゃ、もう家に住まわせて貰う所か、この都市にもいられないしな。
「俺は今日これから少し長い旅に出る。多分、エルクステンへは長く帰らないと思う」
「私も行く」
「一緒に来ちゃくれねぇか?」
「「え?」」
「わわっ」
ハモる俺とクレハと驚くミリア。
数秒の沈黙の中、蛍がやけに明るく辺りを舞う。
「あー、えっと? クレハ、言葉の意味、分かってるか?」
「分かってる。私もユキマサ君の旅に付いてく」
クレハの瞼が赤い、泣いてたのか?
「来てくれるのか?」
「違うよ、私が行きたいの」
「そうか。本当ならそれでいいんだが、悪いが、今回は建前上は俺が連れ去ったことにさせて貰いたい」
じゃないと、クレハの婆さん、システィア、エメレア、ミリアに迷惑が掛かる。
「てことで、ミリア、お前には証人になってもらうぞ?」
「証人ですか?」
目をパチクリとさせるミリアを横に、俺はクレハをお姫様抱っこする。
「俺はクレハを拐わせて貰う、以上だ」
俺の言葉に「??」と、言う表情のミリア。
「フォルタニアに伝えろ──俺にクレハが拐われたとな。多分、それで大まかには話が通る。クレハの婆さんへの迷惑は最小限になるだろう。ノアも手回しをしてくれると言ってたしな?」
「わ、分かりました!」
「──で、クレハ、俺の落ち度でなんだが、ガーロックと憲兵が近くまで追ってきてる。悪いが直ぐに出発したい。できるか?」
婆さん達に挨拶なしにと言うことになる。
まあ、連れ去られたってんだから、挨拶も何も本当は無いんだが……一応な。
「それなら大丈夫だよ。お婆ちゃんにも、エメレアちゃんにも、システィアお姉ちゃんにも、ある程度の話はしてきたから、あ、リュック取ってもいい?」
「は……マジかよ!?」
てか、待て、リュックッ!?
クレハ付いてきてくれる気満々だったのか!
(感謝しきれねぇな、クレハには──)
手配書が出て、この都市を離れて指名手配犯として旅に出るって決めて、異世界で初めて一人になるのか……と、少し沈んでいた自分がバカらしくなる。
そんなことを考えてる間に、クレハのリュックをミリアが「はい、クレハ!」と、取ってあげていた。
「ミリアありがとう。本当の本当にありがとう!」
「うん、どういたしまして。よかったね、クレハ!」
花が咲くような笑顔とはこのことだろう。自分のことのようにミリアは心から嬉しそうに笑う。
「ミリア、またな。色々助かったよ。一段落したら、また〝大猪の肉〟でも腹一杯、皆で食べよう!」
大猪と聞き、分かりやすくミリアが「!」と、反応するのが分かる。
「まだ〝アイテムストレージ〟に沢山あるんだ。俺の〝アイテムストレージ〟の食材は腐らないから、次会う時まで取っておくからよ?」
そう告げると──
「はい、楽しみに待ってます!」
と、笑ってくれた。
お、つーか、噛まなかったな? 進歩だ進歩。
じゃあ、行くか? と、俺がクレハに言うと、
「ミリア、それじゃあ、またね! ありがとう!」
手を握り、ミリアとの少しばかりの別れの挨拶をクレハは済ませる。
ミリアも何度も「またね」「旅の話し聞かせてね」とか、話している。
そして本当に名残惜しそうに手を離した。
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