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西区2班 1-1
しおりを挟む九鬼庵は東区支部内で偶然会った晴人と共に歩いている。
「何で庵が東区にいんの?」
「お使いだよ、兄様の。小遣いなんて発生しないけど」
(使者を遣わせないってことはそれだけ重要な案件なんだろうな)
「へぇ。俺なんかさっき怒られるの分かってて、兄様のとこに行ったよ。まあ、めちゃめちゃ怒られたけど」
「そんなんいつものことだろ。晴人は問題起こし過ぎ」
「自分のことを棚にあげてるね~。 庵もよく名前を聞くよ? 七種家の次女様に目を付けられてるらしいじゃないか」
「ピリピリしてんだよ、うちのお嬢様は」
「班に女の子いるの新鮮でいいね。俺のとこ、全員男だからさ」
「何にも気遣わなくていいだろうよ」
「まあね。すごく楽」
庵は書類を提出した帰りで、晴人は怒られ終わった帰りなので、お互い行く宛てもなく東区支部の中を歩いている。
庵は晴人の頭を雑にワシワシと撫でてやった。
それに対して、晴人は軽口を叩いた。
「明日雪降るんじゃない?」
「失礼な奴だな~~」
「そーゆーの面倒くさいって思うタイプでしょ、お前」
「そんなことないだろ。いつも可愛がりたいタイプだよ」
「よーし、今日も頑張っちゃうか~」
「その意気その意気。後ろ30分しか被らねーけど、よろしくな」
「おうよ」
晴人が急に抱きつくが、庵は体勢を崩すことなく、歩き続ける。
「俺の班の奴らのこと、庵も見てやってよ」
庵には晴人の顔が見えない。
今日も彼の心臓が鳴っているという事実だけが理解できた。
「めんどいからやだよ。お前が1番見てやんなきゃいけねーだろ」
「あはは、つれないこと言うなよ」
「何企んでんの、班長さん」
「さあね」
2人の会話はそこで終わり、無言の時間が続いた。
その空間が気まずいわけでも親密度の低さを証明するわけでもないことは誰が見ても分かるだろう。
「お届け物でーす」
行き先のない散歩だと思っていたが、どうやら庵の目的地は東区2班班室だった。
班室のドアのドアを開くと、赤面した虎太郎、オレもオレもと飛びついてくる宗一、一瞬驚いた顔を見せた碧がいた。
「九鬼せんぱ~~い!」
「ぐえっ! 危ねーだろ、宗一」
「久しぶりッスね! 今日一緒のシフトなんスか!」
「30分だけな」
「良いとこ見せますよー!!」
「おー。楽しみにしてる」
「お疲れ様です。どうして支部に?」
「おー、お疲れ。書類届けに来てたんだよ」
後輩たちは庵に集まっていった。
碧もそれに続けて、笑いながら集まる。
「ほら、晴人、碧が来たぞ」
「碧~~」
「お疲れ様です。何この赤ちゃん、怒られて落ち込んじゃった?」
「俺は挑み続けるよ」
「懲りてねーな。大変だな、この班」
「そう思うなら助けてくださいーー!!」
「俺、東区怖いから無理~」
西区2班の集合時間が迫ってきているので、庵は東区支部を出発しなければいけない。
「じゃ、またな。この後よろしく」
「はーい、よろしく」
待たせていた車に乗り、自身の管轄区域である西区支部に戻っていった。
「お疲れ様、九鬼くん」
「お疲れ。早いな、猿渡」
「九鬼先輩が遅いだけです。お疲れ様です」
「七種も犬束も来てたのか。お疲れ」
「お疲れ様です!」
どうやら庵が最後に班室に着いたようだった。
班室にあるソファーに座り、大きくため息をついた。
「疲れたなー」
「今日、南区2班と合同だよ」
「恭介さんいねーのな」
「そうだね」
「なんで男子はみんな揃って一門さんのことが好きなんですかー?!」
「良い質問だな、犬束。それはな、恭介さんがかっけーからだ」
「胸熱ですね!」
「胸熱じゃないでしょ。みんな、一門恭介に希望を抱き過ぎ」
七種苑は淡々と言葉を放った。
その目はどこか軽蔑をしているようにみえるが、庵には全くもって効きはしなかった。
「お前だって菊花内好きなくせに~」
庵は茶化すように苑にそう言うと、彼女は嫌な顔をした。
「男子のそれと、私のこれを比べないでください」
「へいへーい」
「それより今日のミーティング始めませんか」
「あー、そうだなー」
庵は考える素振りもせず、笑った。
いつも余裕そうな彼に誰もが振り回されてしまう。
ただし1人を除いて。
「いつも通りで」
「なんでいつもそんなに適当なんですか?」
「やることは変わんないだろ?」
「下の班に示しがつきません」
苑は庵に意見をはっきりと伝え、抗議する。
この光景はいつものことであるので、誰も動じることはなかった。
「いつか示しをつける時がきたらな」
「いつもやらない人は本番でもできません」
「まあまあ~~! 苑ちゃん落ち着いて~~!」
「九鬼くんもだよ。あんまり女の子いじめちゃだめだよ」
「ごめんね、七種」
猿渡小鈴と犬束唯夏が間に入ってきたところで、庵は微笑みながら謝る。
謝る気も馬鹿にする気もない、その表情の裏にある感情が1つも伝わってこないことに嫌悪感を持つ。
「……いつもそうじゃないですか」
「可愛い顔が台無しだよ。そんな怒んないでくれよ」
「四鳥みたいなこと言わないでください」
「仲良しだから似てきたかもな」
「気持ち悪いです」
苑は小鈴の後ろに回って、庵を睨む。
「はは。よし、そろそろ行くか」
「そうだね。もう南区2班来てるかな」
「絶対来てませんよ。任務開始2分前に来ますもん」
「苑ちゃんって南区のこと嫌いなの?笑」
「嫌いじゃない。ただ怠けてるって思うだけ」
小鈴は庵に耳打ちをした。
「一門さんと何かあったの?」
「さあな。仲良かった友達が南区にいるからじゃねーかな」
「へぇ、そうなんだ」
庵と小鈴は小声で話しながら、外部装置を取り付ける。
庵は両膝と両腕、小鈴は両膝に装着した。
庵は刀を使った近距離、小鈴は狙撃銃を使った遠距離の戦闘を行う。
「今日も頼むぜ~」
「九鬼くんがサボんなきゃ私はもう少し楽できるんだけどなぁ」
「いつも頑張ってるよ」
「苑ちゃんにいつも怒られてるくせに?」
「本当ですよ。しっかりしてくださいね」
「任せろって」
「1番信じれない言葉ですね!」
「心外だな、おい」
装備を揃えて、班室を出た。
その道中、西区2班班長は他の戦闘班や戦闘班以外の班員と一言二言言葉を交わす。
「九鬼さんってみんなと仲良しですよね?」
「そうか? 普通だと思うけど」
「こんなに話しかけられることありませんよ?!」
唯夏は庵のコミュニティの広さを羨ましがる。
「同い歳の奴とか小さい時から屋敷で会ってた奴とかが多いからだろ」
「流石十二家ですね?!」
「十二家じゃなくても友達できるから安心しろよ。猿渡だってそうだし」
「私は同い歳と仲良いだけだよ。唯夏ちゃん、明るいからすぐ友達できるよ」
「先輩方優しいですね……」
「それはいつもな」
「いや九鬼先輩はいつも適当なこと言うじゃないですか」
「さっきからお前何なの?」
出発する前に武器や装備の確認をする。
不備や故障があると、命取りになるからだ。
「2年癖強い奴多いし、楽しいだろ」
「円夏ちゃんとは何回か話しましたけど、良い子でした!」
「円夏なんてただの弱虫だよ」
苑はそう言って、ライフル銃を担いだ。
庵が目線を送ると、先程の話が理解できたため小鈴は苦笑いをした。
唯夏は苑の地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「もしかして……」
「唯夏ちゃん、ちょっ、」
「めちゃくちゃ円夏ちゃんと仲良しなの……?!」
「……唯夏は馬鹿でいいね」
「そんなに褒めないでよ!!」
「お前はそのままでいろよ、犬束」
犬束唯夏という女は天然なのか、空気が読めないのか、このような衝突事故寸前の出来事が多々ある。
苑も唯夏も普通に話しているため、まだ本格的な衝突は起きていないらしい。
任務の支度をしていると、南区2班が入ってきた。
「お疲れー」
「お疲れ、陸」
南区3班の班長は一門恭介の従兄弟の一門陸である。
彼は庵と同い年であり、小さい頃からの顔見知りだ。
「今日は頼んだぜー」
「お前も働くんだよ、馬鹿野郎」
陸は庵の背中に蹴りを入れる。
「今日は忙しいらしいぞ」
「えー、まじ? 俺帰っていいか」
そう言いながらも、庵は刀をしっかり腰に収めていた。
「まあ、無理せずって感じで」
「東区3班も後半少し一緒だし、頑張るか~~」
あと5分で、合流地点に着かなければいけない。
合流地点までは1km離れている。
「間に合うか?」
「間に合わすんだよ」
「絶対南3が悪いよな」
「はぁーー?! 俺たちが着いた時点で準備終わってなかったろ!!」
「くそー、ぜってー恭介さんにチクるからな!!」
西区2班と南区3班は西区支部を出て、合流地点まで走った。
道中、庵と陸は言い争うが、息は切れなかった。
「前の班、おっかないとこだったらまじお前が謝れよ?」
「そこは一緒に謝ろーぜ、九鬼班長♡」
「西区の顔までに泥塗るんじゃねーよ」
合流地点に着くと、案の定、北区2班が交代だったので、彼らは八橋海夜によってこっ酷く叱られた。
2つの班の班長たちが足の踏み合いをしているところを見て、さらに叱られた。
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