右も左も 酸いも甘いも

ritkun

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初恋に戻りたい(高田目線)

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 不安そうに入って来た人に馬場が入会の対応をしている。いかにも文系って感じの……大学生か社会人。今年から社会人かな?

 俺たちが初めて出会ったのも入会の時だったな。偶然同じ日に入会したんだ。高田はジムのオーナーの息子なのに普通に入会手続きをしに来た。まだ中学生だったのに隠れ調査員的な役目だったそうだ。俺の方が1歳上なのに馬場の方が背も高くて頭も良くて、体力測定の時も全力じゃないっぽいのにそこそこの結果をだして、申込書の漢字の読み書きを丁寧に教えてくれた。

 「こんな簡単なことも分からないのか」って言わない。なんでも夢中になっちゃう俺をうるさいって言わない。大人よりできた人間だった。

 でもなぜか恋愛だけはうまくいかなかった。みんな兄ちゃんにとられちゃうんだ。完璧すぎたのかな?

 当時は乗り換えた女の子たちに複雑な気持ちだった。なんで馬場の良さが分からないんだよっていうのと、馬場が誰かのものにならなくて良かったっていうのとでモヤモヤしてた。

 でも今は感謝してる。そのおかげと、スパにテナントで入ってる居酒屋のママの協力で俺は馬場と結ばれることができた。

 馬場はいつでも俺に優しい。ずっと好きだったって言った。今もよく好きって言ってくれる。でも馬場は本当に完璧なんだ。なんで俺なんだろ。女の子に振られすぎてヤケになってるんじゃないよな?

 俺は教えてもらうばかり。馬場は色んな本を買うけど、どれも俺にはさっぱり分からない。本当は俺の学歴じゃこのジムには入れない。でも馬場が、俺がジムに入る前に体操選手だったこととケガしたことを持ち出して、そこからここまで動けるようになったことをプレゼンしてくれたおかげ。他の人に「いい広告になる」って言うのはやっかみから俺を守るためって先に説明してくれて、言うたびに後で俺に謝る。本当はそんな風に思ってないよ、純粋に良いトレーナーになると思ったからだよ。実際にそうなってるよって言ってくれる。

 俺は馬場の望む何ができてるのかな。なにか喜ぶこと言えてるのかな。
 タブレットを仲良く見ている馬場と入会希望者。入会者がもじもじすると馬場がなんか言って、入会者が「そうです、そうです」とか「そうなんですよ」って嬉しそうに反応してる。文系同士で気が合うのかな。入会者も頭良さそうだもんな。それで運動は好きじゃないっぽい。

馬場も本当は運動が好きじゃない。ジムの経営に夢中な両親の気を引きたくて始めただけだもんな。実際に運営系の話をしてる時のほうが、器具や会員さんの体力について話してる時より楽しそう。

 胸がざわざわして、用もないのにスタッフルームに向かう。ただ二人の近くを通りたいだけ。そうすればたぶん呼び止めて紹介する。
 やっぱり馬場が俺を呼び止めた。俺の見た目はいかにも運動が得意に見えるみたいで、静かに筋トレしたい人や運動が苦手そうな人にケイエンされがち。そういう場合は先に馬場が紹介してくれる。いきなり話しかけるよりはハードルが下がるからって。

 挨拶した印象としては、揉め事にはならない程度に幅広くモテるタイプだ。馬場みたいに広く浅くっていうより、数種類からちゃんと告られるタイプ。馬場は参考にしたいと思うだろうな。

 色々考えながらでも元気だけはなくならない俺。いつも通りに仕事を終えることができた。そう思ってた。

 壮二そうじはロッジに引っ越したような状態だから、閉店業務は馬場と二人。「月見里やまなしさんと何話してたの?」なんてきいたら重いって思われるかな。難しい話だったら理解できなくて困らせちゃうかな。馬場は俺がきいたことは必ずちゃんと分かるまで説明してくれるから。

 戸締りを確認し終わってジムを出るってなった時、ドアに手を掛けた俺の袖を馬場が引っ張った。親指と人差し指とだけで遠慮がちに。
「高田?
 なんか怒ってる?」
「え!?
 全然だよ。え、そんな風に見えた?
 いつから?」

 馬場は拗ねてるのか怒られてるのか分からない表情。
「わからない。なんか、距離を感じるなって」

 なんだよそれ。遠くにいるのは馬場の方だろ。嫌味っぽくて自分でもイヤになる言い方を止められない。
「それは距離を感じない人に出会えたからじゃないか?
 ごめんな、いつも説明させて運動させて」

 馬場がケンカに割って入るみたいに慌てる。
「ちょ、どうしたの?
 説明は全然いいとして運動って、運動ってもしかして」
 馬場はころころと表情を変えた後で恥ずかしそうにうつむいてチラっと俺を見上げた。俺の方が10センチ小さいのに。

なのに俺にガンガン突かれて、最後はいつも疲れ果てて寝落ちするんだ。もうヘトヘトで目も開かないくせに仰向けのまま俺を抱きしめて、「続けて?」ってウットリなのかグッタリなのか分からない声で囁くんだ。

「休ませてあげなきゃって思うのに馬場の掠れた声にも目が開かないって表情にも上下する胸にも興奮して余計に止まらなくなるんだよ。
 月見里やまなしさんみたいな人ならゆったりしっぽり、馬場の好奇心が躍るようなピロートークも挟みながらできるんじゃないか?」

 馬場の耳が赤い。想像したのかな。慌て具合が増して声も裏返りかけてる。
「ちょ、いったん、いったんごめん」
 がばっと抱きしめられて視界が真っ暗になった。こういう時は身長にものを言わせるんだよな。馬場の左手は俺の背中を回って俺の左肩へ、右手は俺の後頭部をしっかりと包んで馬場の胸に押し付けられている。

 珍しい。馬場が息を荒くして一生懸命話す。
「なんで月見里やまなしさんにそんなに反応してるのか分からないけど、そんなことより」
 最大限にくっついてるのに、もっと俺とくっつこうとする。

「休ませようなんて思わないで。ほっとかないで。俺が動けなくなっても俺にギラついた目を、気持ちを向けてくれる高田が好きだ。
何でも楽しむ高田がずっと眩しくて好きだった。楽しいことたくさん知ってる高田が、一番熱くなることの相手に俺を選んでくれて本当に嬉しい。この幸せを俺から手放すはずがないだろ。
 だからお願い。身を引くみたいな、もういいみたいな空気やめて」

 そういえば馬場ってジムのオーナーの息子だけど次男なんだよな。両親は長男の跡継ぎ教育に夢中で、妹は初めての女の子の孫だって祖父ちゃん祖母ちゃんにかわいがられて、馬場は割とほっとかれてたような。

 そうだった。それでも馬場の方が長男よりできるから気まずかったんだよ。馬場はもう両親とかをなんとも思ってなくて、後継者争いとかに巻き込まれないでのんびりやろうって三人でここに来たんだ。そしていい感じにチェーン店から独立してしれっと離れるために壮二そうじがロッジの試運転をしてるんだった。

 あれ?
「ずっと好きだったって、何回も好きになった女の子を兄ちゃんにとられてたよな?」
 俺を抱きしめる力が少し弱まった。冷めたっていうより、怯えてる感じ。

「こんなこと言ったら軽蔑されるかもしれないけど、あの子たちみんな高田のことが好きだったんだ。高田をとられたくなくて、俺から先に好きですオーラ出した。そうしたら俺に対抗心むき出しの兄さんが横取りするだろうってことも計算済みで」

 もう一度俺を抱きしめなおす。
「絶対に手に入れたかった。離さないよ」
 少し陰キャっぽくなった声にゾクっとした。

俺は腰だけ動かして硬くなった部分を馬場に当てる。
「いいね。そうやって色々考えられる馬場がその能力チカラを俺が欲しくて使ってたんだ。
その思いつめた声もいいよ。寝ぼけたみたいなあの声になるまで抜いてやりたくなる」

 馬場が泣きだすみたいな息で、顔で俺の胸を撫でながら崩れていく。そして俺の硬くなった部分に顔が来たらそのまま俺の腰を抱きしめた。
「家まで待てない。一回だけ」
 このまま思いっきりやりたいけどスパの鍵が掛かっちゃうからな。その後は警備員が巡回する

 俺のベルトを外す馬場が続けられるように気をつけながらしゃがむ。馬場が床に座って俺の足の間に体を伸ばして仰向けになる。馬場の顔の上に俺が低く膝立ちしてる状態。相変わらず手際いいな。もうくわえてる。

俺も馬場を気持ちよくできないかなって馬場のに手を伸ばそうと振り向こうとしたら、俺の先っぽが馬場のほっぺを内側から伸ばした。馬場が硬くなってる部分から上に引っ張られるみたいに体を反らせた。

 気持ちよさそうだけど、偶然じゃなくてもっとちゃんと俺が気持ち良くしたい。馬場は夢中で俺のにしゃぶりついてるからなあ。どうしよっかな。

 そだ。
「馬場、やっぱり立つわ」

 残念そうに離れた馬場の口は俺の太さのままにアゴが固まったみたいに開いていて色っぽい。俺は靴を脱いで足を少し開いてドアの隣の壁に寄りかかった。
「はい再開。あ、ベルト外してからね」
「俺は大丈夫だよ」
「いいから」

 遠慮がちに、遠慮のかけらもなく主張してる部分を出しから膝を開いて床について、とろんとした顔で俺の腰に顔を埋める。自分で擦ろうとした馬場の左手を引っ張って、俺が方足を馬場の中心へと伸ばす。つま先で先端から根元へと撫でるとビクンと背中を丸めた。

 馬場の両二の腕を俺の腰へと引き寄せて頭を撫でる。兄ちゃんや妹がされた何倍にもなるように俺がなでなでしてあげるんだ。

 馬場の口の動きがはげしくなって、足の裏で馬場のを押さえつけるみたいになって少ししたら同時にいった。

 馬場がバッグからノンアルコールのウェットティッシュを出して、俺ももらってきれいにする。

「はあ。
 あれ?
 なんの話だっけ?」

「俺たちは両思いで、家まで待てないから一回だけここで抜こうって話じゃなかった?」
 馬場は何事もなかったみたいに爽やかな笑顔。言い返そうと思ったけど、甘えるように手をつないできたからそういうことにしておいてやろう。
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