ただ喜んでほしかっただけ

ritkun

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 電車の音と振動。始発か。

 いったまま朝まで寝ちゃうなんて始めだ。数少ない経験では賢者タイムは数分だったのに。

 すごく満たされた気持ちで体を起こして天国から地獄。今井さんがいない。

 こっちを出るのは昼前って言ってたのに、始発かもっと前に帰ったのか? 何も言わずに?

 まさか……良くなかったとか?

 いや、準備をできなかったから抜き合いしかしてない。それでもナシだって思う何かがあったのか? むしろ最後までできなかったのが不満だったとか?

 ベッドもシャワーもない所でやろうとしたことに引いた?

 忙しさで忘れるべきは俺の方かもしれない。呑み屋が土曜に休むわけにもいかないし、とりあえず働こう。でもいつも通りになんて無理だ。テイクアウトは休もう。

「今日は仕入れがイマイチで」
 なんて言って早めに暖簾をしまおうとしたら、今井さんの弟さんの声がした。
「ポンさ~ん」

 駆け寄ってきた弟さんが俺の持っている暖簾を見て驚く。
「早くないっすか?」
「仕入れがイマイチで」

 怪しまれなかったというより興味が無い様子で、大きな紙袋を俺の胸の高さに持ち上げた。
「これ兄ちゃんからです。
 すいません、おれ会社から大至急で呼び出されてて。じゃ!」
 あっという間に駅へ走っていった。
 
 なんだったんだと思いながら店に入って紙袋を開ける。中身は枸杞くこだった。5本くらいずつ束ねられたのが3つ。切り口に濡れたキッチンペーパー、その上からラップが巻かれている。

 血の気が引いた。枸杞くこの花言葉は……。

 「お互いに忘れましょう」

 やっぱり良くなかったのか。家に帰る気力も無くなってソファに寝転がった。

 土曜の夜はここで寝ちゃうのがいつものパターン。でも今までのどんな土曜よりも、今井さんに乗られてる時よりも、ずっと深くソファに沈んでいく気がした。
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