妖刀

ritkun

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筆(強制リバ)

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 一度マンションに帰ってさえと深雪はお留守番。
「じゃあ行ってきます」
 言いながら玄関の姿見の前で足が止まった。
 俺は18歳。しかもスカウトされたから中退しただけで、本当なら現役の高校3年生だった。
「ねえさえ。俺って老けてる?」
〈顔ではなく空気の問題だな。造作はいいのだからもう少し溌溂はつらつとしたらどうだ?
 まあ、言ってどうこうなるものでもないし、今は治したら仕事ができなくなる。気にすることはない〉
 それはそうなんだけど。
「行ってきます」

 チラシの地図を見ながらお店に向かっていると久し振りに赤信号に引っ掛かった。立ち止まったら脇道に『カチューシャじゃないよ♪』の文字と矢印が書かれた看板。こっちからも行けるのか。

 矢印に従って進み、踏切を渡った所で建物と建物の隙間から何かが出て来てタックルされた。深雪よりも少し小さくて栗色のボブ。巫女さんの格好をしていて腰の隙間から尻尾が垂れ下がっている。いや、巫女さんじゃないか。袴が水色の人はなんて言うんだろう?神職の格好なのは確かだよね。

「白い子の匂い」
 震える声で呟いて俺の服に顔を埋めて思いっきり息を吸った。それから潤んだ目で見上げてくる。
「助けて」

 踏切の警報機が鳴り始めた。神職さんの手を引いて走って来た道を戻る。左右の矢印が光ってるからたぶん当分通れない。そのまま走ってマンションに戻った。
 うちの家族は昔からそう。信号、踏切、工事、天気。そういう流れが味方してくれる。
 この子が敵なら追っ手に掴まるか人に見られて結局は掴まるはず。誰にも会わないってことはこのまま連れて帰っていいってことだ。
 それに白い子って深雪のことだよね。

 マンションのドアを開けたら深雪がリビングから飛び出してきた。驚いて見つめる深雪と息を整えながら見つめ返す神職さん。やっぱり知り合いだったんだ。

「とりあえず……お水飲もうか」
 俺が靴を脱ぐと神職さんも草履を脱いだ。家に入ることにためらいは無い。深雪がいるからかな?

 リビングに入ったらなんか暗い。雨が降り始めたんだ。これで匂いも辿ることはできなくなった。
 カーテンを閉めて電気をつける。それでも神職さんは怖がらない。深雪は来たばかりの頃、カーテンを閉めると体が勝手に強張っていた。扱いが違ったのかな。

「えっと、二人は知り合いなんだよね?」
 二人とも首を傾げた。深雪が答える。
「知り合いっていうか、見たことがあるだけ」
 神職さんも頷いた。
「でもこの人から白い子の匂いがして、緊張してる匂いじゃなかったから助けてって言ってみた」

 深雪は人外じんがいコレクターに囚われていて、そのお屋敷が火事になった騒ぎに紛れて逃げ出した。飢えて弱っているのを退魔師たいましが保護して、退魔師たいましになったばかりでペアがいない俺と組むことになった。

 それが一か月前の話。
 神職さんは清潔な身なりで飢えている様子もない。この一か月どうやって生き延びてきたんだろう?
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