スピードの向こう側(疾走伝)たんなる事故

本来タケル

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スピードの向こう側(疾走伝)たんなる事故

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アクセルを思いっきり吹かす。誰も俺を止められない。

観客はある時は木々であり、ある時は鳥達であり、

ある時は俺に抜かされる車やバイクだ。

急カーブにも手を緩めない。

さらに早くさらに鋭く。景色がゆったりと体に纏わり付くように流れる。

ある加速に到達すると体感出来る景色だ。

もう何度感じたかわからない。バイクがうるさく悲鳴を上げる。

だがその音は既に遥か後ろで聞こえる。状態を屈め片膝を着く。

頭を下げてカーブを曲がる。あまり車が通らない道をフルスロットルで狂い進む。

たまにいる車やバイクは直ぐに後方に追いやる。

そいつらをチラッと見ると、とても驚いた顔をしている。

もうすぐ鬼才のカーブだ。

誰が名ずけたかは知らないが、鬼の様な才能がないと攻める事は出来ないと言われた魔のカーブだ。

状態移動とアクセルの開け閉め、それにブレーキをコンマ数秒で操る。

風が粒になって体に当たる。痛くて心地いい。

さらにスピードを上げる。エンジンが唸りを上げる。

まだだ。まだ車体を倒せる。 (グウーン。) 

この恐怖と平凡の隙間。スピードの向こう側とスピードのこちら側にこそ、俺は生きがいを感じる。

エンジンの高速回転を聞いて鳥達が逃げる。木々が騒めく。

アスファルトの焦げた匂いが鼻に残る。誰も追いつけない。

誰にも手が届かない場所。絶え間ない電流が体を支配する。

その時、俺はこの世界の神になる。

【行ける。】そう思った瞬間タイヤがスリップした。俺の体はガードレールを突き破っていた。

(グーン。ドンッ。バリバリ。ベキッベキッ。ダーン。)

 宙を舞う俺の目線に愛車が映った。

「死ぬ時もお前と一緒だな。」

それが俺が最後に言った言葉になった。

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