僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

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第四話 名前と記憶

4-1

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 狂い猪は血と内臓を抜いて持ち帰り町に売りに行った。望外の獲物で、毛皮と肉は結構な金額になった。
 頑丈な毛皮は鎧としても使えるし需要が結構ある。肉もそのままでは魔素が含まれていて食べられないが、塩漬けにして半年ほど熟成させれば無害化できる。保存食としても珍味としても狂い猪の肉は人気があった。
 おかげでアイーシャの財布の中は久しぶりに銅貨と銀貨で一杯になっていた。

「いやあ良かった良かった! 人形君さまさまだなぁ!」

 エルデンは夕食の鶏肉料理を食べながら上機嫌だった。アイーシャが久しぶりに、エルデンの為にワインを買ってきたのだ。アイーシャも度数の低いエールを飲み、隣で段々とへべれけになっていくエルデンの様子を目を細めながら見ていた。

「これで人形君を売りに出すことはないな? まさかたった一人で狂い猪を仕留めるとは! しかもたったの一太刀! 中々出来るもんじゃないわい。のう、人形くん」

 酒臭いエルデンの問いかけに、向かいに座っている魔導人形は曖昧に頷いた。何も食べる事が出来ない為彼の手元には料理はなかった。

「ええ、自分でもびっくりです。体が……勝手に動いていた。そして斬った後に思い出したんです。魔物との戦い方を」

「斬ってから思い出した……奇妙なこともあるもんじゃな……? アイーシャ、どうした? もっと肉を食べなさい! 今日はたくさん作ったからな」

「ちゃんと食べてる、言われなくてもね」

 アイーシャはどこか不機嫌そうに鶏肉の塊を頬張った。味噌に付け込んで炭焼きにした鶏肉はエルデンの得意料理であり、アイーシャ達にとってのごちそうだった。何かいい事があった時や金が手に入った時はいつもこれを作る。

 エルデンは籠を納品した帰りに金のタイルを換金し、その金で鶏肉を買ってきた。アイーシャも狂い猪を売って手に入れた金で鶏肉を買ってきた。二人とも考える事は同じだったのだ。そのおかげで、今日は普段の二倍の量の鶏肉料理になっていたのだ。

「何じゃアイーシャ、変な顔をして? 味付けが悪かったかのう?」

「ううん、味はおいしいわ。いつも通りに。ただその魔導人形を……どうしようかって考えてたの」

 そう言い、アイーシャは皿の上の鶏肉をフォークで弄ぶ。

「何じゃ? まだ売るつもりなのか? こんなに役に立つんだから、売ることはないじゃろ? それにかわいそうじゃ」

 エルデンはちらりと魔導人形を見る。魔導人形はエルデンの向かいで、茫洋とした微笑みをたたえてじっと座っていた。

「売る気は……もう無いわ。役に立つことはもうわかった。記憶がないってのは引っかかるけど、確かに役には立つ。でも……何をさせようかと思ってたのよ」

「何かって……狩りの相棒でいいんじゃないのか?」

「狩り、ねえ……」
 アイーシャは今日の魔導人形の行動を思い返す。

 まず、剣の素振りをやっていたがその様子はひどいものだった。素人同然というか、チャンバラで遊ぶ子供以下の動きに見えた。全身の動きがちぐはぐで、まるで下手くそな操り人形だった。

 そしてお化け茸。刺せと言ったのに斬ろうとするし、仕留められずに逃げられそうになった。私が手を貸さなければあのまま逃げられていただろう。アイーシャはそう思った。

 そしてそこまでは、ある意味では整合性がある。身なりだけの素人がお化け茸狩りに失敗した。それだけの事だ。

 だがこの魔導人形は狂い猪を殺した。それも一太刀で。熟練の剣士でも、突進してくる狂い猪をすれ違いざまに即死させるなどという離れ業はそうそう出来るものではないだろう。
 達人なら可能かもしれないが、そうなるとこの魔導人形は達人並みの技量というわけだ。お化け茸すら満足に仕留められなかったのに。

 全く奇妙な話だった。弱いかと思えば達人のような動きを見せる。記憶だけでなく剣技や身体機能にも何か異常があるのだろうか。役に立つとは思ったが、こんな調子では本当に頼っていいのかどうか知れたものではない。いざという時にポンコツに戻られては困るのだ。

 アイーシャはエールを飲み干す。魔導人形への疑念は胸の中でつかえ、それは飲み下すことが出来なかった。

 一体この魔導人形は、どういう代物なんだろうか?
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