僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

文字の大きさ
16 / 40
第四話 名前と記憶

4-4

しおりを挟む
 手の甲の模様は主従関係を示すものらしい。古い伝承では悪魔と契約するときに特殊な紋様や刻印を使ったとも聞くが、これもその一種なのだろうか。

(こいつが悪魔の手先……?)

 アイーシャはブレンを見るが、この間抜けそうな顔はとても狡猾な悪魔のイメージとは一致しない。そういう戦略なのかも知れないが……いずれにせよ契約は結ばれてしまっている。

 そのうち解く方法も調べた方がいいかも知れないが、今の所は実害はないようだし、とりあえずこのままでいいだろう。それにブレンをこき使うのなら、契約はこのままの方が都合がいい。

「……それにしてもあんたって……ほんと、よく分からない魔導人形よね」

 アイーシャは立ち上がり、対面のブレンの後ろに回る。壁に立てかけてあったブレンの白い剣を手に取ると、少し鞘から引き抜いて刃の部分を見る。

 やはり刃は付いていない。剣先も同様だろう。とても狂い猪の毛皮や骨を断ち切れるようには見えなかった。だとするならば……。

 アイーシャは剣を置き、ブレンの細い腕を掴む。

「何だ」

「ほっそい腕……剣がなまくらでも、怪力で無理やり斬ったのかしら。とても力が出るようには見えない」
 剣に仕掛けがないなら、剣を使ったブレンに仕掛けがあるに違いない。そう思ったアイーシャだったが、見るからに細いこの腕から怪力が出るようにはとても見えなかった。

「力か。自分の力がどの程度か分からないが……あれは力によるものではない。一種の魔力操作で、魔力を噴出して刃のようにしている。だから斬れたんだ」

「何? 魔力を……噴出?! そんな高度な魔法が……使えるの? あんたは」

「使える……ようだ。不思議だな。何故そんなことを知っているんだ、僕は。しかし、知っている。あれは魔法剣の一種で、その剣もその為の特殊なものだ。レンダリングエナジーを扱える。パーティクル剣だ」

「れん……だりん、ぐ? 何それ」

 アイーシャに言われ、ブレンは今度こそ首をかしげる。

「何だろう? 言ってはみたものの、自分でも意味が分からない。虫食いの本を読んでいるような気分だ。何かが……欠落している」

「まあいいじゃないか、アイーシャ、ブレン! まだ本調子ではないんじゃろう。 そのうちおいおい思い出すさ」

 愉快そうにエルデンが言う。大分ワインの酔いが回ってきているようだった。

「ふむ。そうだといいのですが」

「別にどっちでもいいじゃない、過去の事なんか。剣が使えるならそれだけでいいわ。そんな事より……」

 ブレンの後ろに立ったまま、アイーシャは自分の左手の模様をさする。

「あんたから私に魔力が来てるのよね……変な感じ。体は疲れても、内側でずっと何かが燃えているような感覚……」

「そうらしいな。僕の内部の余剰魔力が君に送られている」

「余剰魔力……? 何で魔導人形のくせに魔力を作れるのよ。ほんと、訳分かんない。そんなもん作れるのなら、魔導人形なんて無限に動けるじゃない。魔法だって使い放題……」

 通常の魔導人形は人間から魔力供給を受けることで活動が可能となる。それは古代の魔導人形も、近年になり再現された魔導人形も同じだ。人間が食事をするように、魔導人形は魔力供給を受けなければその機能を発揮できない。

 だがブレンは、奇妙なことにその内部で魔力を生み出しているらしい。それだけでも異常だが、更に魔力をアイーシャに送っている。まるっきり逆の状態だった。まるで竈から薪が吐き出されてくるようなものだ。あり得ない。

「あんたの中に……強大な魔力があらかじめ封入されているって事?」

「違う。機序は不明だが、魔力は随時生み出されている。本来はこれが僕に必要な最低限の量で、それでも不足する分を更に契約者から受け取るんだろう。今は僕の消費量が少なく、君の魔力も少ないから、余剰魔力が君に充填されているようだ」

「ふうん……まあいいわ」
 アイーシャは口を押さえ欠伸をする。

「飲み過ぎた……眠くなってきちゃった」
 お金が手に入ったこともあって、調子に乗ってエールを飲み過ぎた。度数は低いが酒であることには違いない。アイーシャにとって四杯は、ちょっと飲み過ぎの量だった。

「片付けはわしがやっておくよ。今日はいろいろあったしな、疲れが出たんだろう。無理せず休みなさい」

 エルデンにそう言われ、アイーシャは頷く。

「ちょっとひと眠りする……お休み、おじいちゃん。それと、ブレン」

「お休み、アイーシャ」
「ああ。分かった」

 ブレンの事にはまだまだ分からないことが多いが、とりあえずの金が手に入ったので不安が消えた。酒も回っていい気分だった。
 悩みは忘れ、今日は早めに寝ることにしよう。アイーシャはもう一度欠伸をし、自分の部屋に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...