僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

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第四話 名前と記憶

4-3

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「えっ?! 何?」
 エルデンの声にハッとしてアイーシャは顔を上げた。いつの間にか俯いて皿を睨んでいたのに気付いた。

「さっきから何か浮かない顔じゃが……お金も手に入ったし、人形くんも中々の高性能じゃし……まだ何か不満なことがあるのか? やっぱり鶏肉の味が……?」
 不安そうにエルデンが聞く。魔導人形はそんな二人の様子をぼんやりと見つめていた。

「べ、別に! 何も無いわよ。ただ、こいつでどうやれば一番金が稼げるかって考えてただけよ」
 不安をごまかすように、アイーシャはまた鶏肉を食い千切る。

「ふむ。さっきも言ったが、普通に狩りの相棒ではいかんのか。たまに狂い猪を獲るだけで生活していけるぞ。まあ獲りすぎると毛皮の価値も下がるかも知れんが……」

「安定した生活を考えるなら、やっぱりダンジョンに行く方がいいわ。幸いお金が出来たから組合の登録料も払える。後はこいつがダンジョン攻略に役立つか……剣の腕は良くっても、それだけじゃダンジョンは務まらない」

「ふむ……本職の狩人ではない我々があまり狩りすぎると狩人組合に目を付けられるかもしれんしな……確かに長く安定した仕事としてはダンジョンだな。しかし……生活するだけなら、最低限の狩りで済む。なんなら人形くんにだけ行ってもらってわしらは家で内職でもしておればいいんじゃないか?」

 そのエルデンの考えは、アイーシャにも理解できた。魔導人形が一人で狩りを行えるのであれば、アイーシャ達は安全な家から出る必要がない。魔導人形をこき使うことになるが、本来人間に使役されるのが魔導人形のあるべき姿という物だろう。エルデンの言いたいことは理屈では分かる。

 だが……ダンジョンに行かないという考えは、アイーシャには持てなかった。その理由はエルデンには話せない。言えば必ず反対されるだろうからだ。

「……ダンジョンには行く。せっかく僧侶の資格を取ったし、ダンジョンに潜ればいい経験になるわ。いずれどっかのパーティに入るにしても潰しが効く。それは……変えない」

「うむ……そうか。まあお前がそう決めたのならそうすればいいさ。どちらにしても人形くんがいればいい前衛になるじゃろう。 狂い猪が倒せるのなら大抵の魔物は問題にならんしな!」
 エルデンはそう言いながらワインを飲み干し、更にボトルからなみなみと注いでいく。

「しかし……そうなると名前を決めないといかんな。いつまでも人形くんではいかんだろう」

「名前ね……」

 アイーシャは魔導人形をじっと睨む。どこかとぼけたような顔。細い腕と脚。胴体は人間並みに太いが、鎧の下は意外とスカスカなのかも知れない。見た目からは、これと言って思いつく名前はなかった。

「ポンコツ。ポンコツでいいわよ、別に」

「ポンコツ?! それはちょっと……あんまりじゃな。のう、人形くん?」

「ポンコツですか……それはちょっと……どうしてもというなら従いますが」

 魔導人形は小首をかしげる。

「名前……何か思い出せそうな気がする」

「ふーん。記憶が戻ったの?」
 あまり興味なさそうにアイーシャが言う。アイーシャも空になったカップにエールを注ぐ。

「何か聞き覚えのある言葉があったような。確か、ブ……」

「ブ?」
 エルデンが聞き返す?

「不細工、ぶきっちょ、無精者」
 肉をかじりながらアイーシャが茶々を入れる。魔導人形は惑わされず、何かを思い出そうとする。

「ブ……ブ……ブレ……ブレン……? ブレン、だ」

「ブレン? それがあんたの名前なの?」

「そうだ。ブレン。間違いない。僕はブレンだ」

 何だかすっきりしたような表情で、魔導人形、ブレンは言った。

「ほう、そうか! 自分の名前を思い出せたのは良かったな! この調子なら他のことも思い出せそうじゃな。昔何をしていたとか」

「そうかも知れない。ふむ……ぼくはブレン。従者だ」

「ブレン、ね。パッとしない名前。でもま、ポンコツよりはいいか。一文字短いし。じゃあブレンって呼んであげる。しっかり働くのよ」

「ああ。我が命数の尽きるその時まで」

 仰々しい言葉でブレンは答え、右手を胸にかざす。

 その手の甲の目玉のような模様がうっすらと光っていた。そしてアイーシャは自分の左手の甲の同じ模様が熱を帯びたのを感じた。確かに、自分とブレンは繋がっているらしい。アイーシャはそれを再確認させられた。
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