僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

文字の大きさ
22 / 40
第六話 酔いの代償

6-2

しおりを挟む
 小川の水を飲んでいた暴れ狼の背に、ブレンは剣を突き立てた。鈍い剣先だが毛皮と肉を貫き、剣は地面にまで刺さっていた。暴れ狼は断末魔の吠声を上げ、抵抗することも出来ずに絶命した。

「うおお!」
 ブレンは雄叫びを上げ、剣を引き抜いて上段に構える。

 周囲の暴れ狼は既に戦闘態勢に入っていた。食事中だったやや大きめの個体はリーダー格だったのか、ブレンから離れ後方へと下がった。赤みを帯びた濁った瞳でブレンを睨みつける。

 残るは九頭。ブレンは群れに突っ込みながら、近くにいる暴れ狼に次から次へと斬りかかっていく。構えは無茶苦茶で、動きに無駄が多い。しかし剣は暴れ狼の体を切り裂いていく。

 だが、浅い。ほとんど刃のついていない剣で与えられる傷などたかが知れていた。四匹目を斬ってその事を理解したブレンは、攻撃を突きに切り替える。

 暴れ狼達は突然の襲撃者に対しても冷静に対処していた。前衛が動きを抑え込み、そして背後にも回って牽制する。攻撃を受けたものは後衛と入れ替わり、ブレンに考える時間を与えずに攻撃を繰り返していく。

 ブレンの振るう剣の長さがブレンの間合いだった。最初はその間合いの分だけは暴れ狼も近づけなかったが、単調な突き攻撃の連続になってから徐々に間合いが狭まっていく。

 暴れ狼達は思考し、ブレンの動きを読み、対応していった。

 ブレンは疲れる事を知らないが、徐々に押されていった。突きの為には剣を引かねばならないが、その予備動作の合間に腕や脚に噛みつかれる。それ自体は傷にもならないが、その度に姿勢を崩され、攻撃の調子を乱される。

 暴れ狼の包囲はいよいよ狭くなる。ブレンはまともに突きを入れることも出来ず、手足に群がる暴れ狼を振りほどくので精一杯になってきた。

 殺すことが出来た暴れ狼は最初の一匹だけ。他はかすり傷を与えただけだ。
 残る九頭、いや、リーダー格をのぞく八頭の攻撃になす術もなくブレンは翻弄されていく。剣だけは離すまいと強く握りしめるが、ついに背後からのしかかられ膝をついてしまう。

「くそ! こんなはずじゃ!」

 ブレンはもどかしかった。もう少しで何かが分かりそうだった。自分の中に眠っている何かが目覚めそうな感覚があった。しかし、それはいつまでも眠ったままだった。それともその感覚は全て思い違いなのだろうか。

 ブレンはうつ伏せに倒され、その全身を暴れ狼に噛みつかれ、爪で引っかかれ、もう立ち上がることも出来なかった。

爆裂閃ブラスト!」

 アイーシャの詠唱と共に強大な魔力が炸裂した。ブレンは自分の体を叩く強い力を感じ、思わず目をつぶった。

 目を開けると周囲には煙が立ち上っている。自分の体からもだった。
 アイーシャの魔法だ。どうやらバラバラにならずに済んだようだ。

「狼は……?!」
 ブレンは間髪をいれず立ち上がる。

 周囲に群がっていた暴れ狼達はすべて地面にひっくり返り、立っているものはなかった。見れば頭や手足など体の一部が吹き飛んで、まともな状態のものは一頭もいない。ただ生きてはいて、血や涎を垂らしながらブレンを睨み、立ち上がろうとその体を震わせていた。周囲には血と肉が飛び散り凄惨な状況になっていた。

 ただ、一頭をのぞいて。

 リーダー格の暴れ狼はアイーシャの魔法から離れていたため、吹き飛ばされたがほとんど無傷だった。そして仲間たちが攻撃を受けたことを理解し、怒りにより襲いかかった。

 ブレンではなく、アイーシャへ。魔法を使ったものが誰なのか、その暴れ狼は理解したのだ。

「逃げろ、アイーシャ!」
 ブレンは叫ぶ。だがアイーシャは立ち尽くし動けないようだった。

 アイーシャはさっき隠れていた場所より前に出て立っていた。魔法の射程まで近寄ったようだったが、暴れ狼からすればほんの一息の距離だ。ブレンが飛んでも跳ねても追いつけない。

「魔法を撃て!」

 ブレンは倒れている暴れ狼達を避け、走りながら叫んだ。だがアイーシャの体はぐらりと横に傾く。様子がおかしかった。目の焦点が合っていない。

 アイーシャが危ない。

 ブレンの右手の甲が熱を帯びる。暴れ狼に襲われてさえ感じなかった感覚、痛みが走った。
 その痛みは、ブレンの中に強い感情を生んだ。

 守らねばならない。

 敵を討たねばならない。

 あらゆるものを滅ぼさねばならない。

 眠っている何かが目覚めた。暴れ狼は飛び跳ねてアイーシャに襲いかかる。この距離では間に合わない。
 いや、違う。この力ならば、何ものをも滅ぼすことが出来る。距離も、時間も、世界の理さえも関係なく、滅ぼすことが出来る。

 剣に、力を。パーティクルを開き、エミッターを解き放つのだ。

 光芒。閃き。光刃が飛ぶ。それは矢のように放たれ、宙に浮いた暴れ狼の体を飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...