28 / 40
第七話 身につけるべきもの
7-4
しおりを挟む
「さ、次はここよ」
アイーシャがブレンを連れてきたのは、冒険者用の武具の店だった。標準体形に合わせた既製品が多く置いてある。隣には鍛冶屋とは提携しており、特注の鎧や剣を作ることも可能だった。
「ふうん。色々置いてあるんだな」
店の壁際にはスタンドに立てられた剣や槍や斧等が並んでいる。店の中央には棚が三つあり、そこに兜や鎧が置いてあった。店の奥には全身鎧や盾が置いてあり、隣には鏡まで置いてあった。
「しかし、僕は既に鎧を着ているぞ」
「そうね。だから鎧は買わないけど、盾と兜を買うわ」
「盾と兜か。盾はあると便利そうだな。しかし、兜は……必要なのか? 僕は、よく分からないがかなり頑丈らしい。暴れ狼に噛まれても傷一つつかなかったし、君の魔法でも無傷だった」
盾に関しては、相手の攻撃を阻んだり、盾で押して攻撃することも出来る。暴れ狼に腕を噛まれて姿勢を崩されたが、そういった攻撃を防ぎ反撃しやすくなる。
しかし兜は、本来弱点となる頭部を守るものだが、守る必要を感じないほどブレンの体は非情に頑健だ。鎧は着ているが、それだって必要ないと思えるほどだ。
「確かにあんたの防御力は高いみたいだから防具はいらないかもしれないけど、そう言う慢心が危険なのよ。例えばスライムの粘液を顔にかけられたら視界が塞がる。でも兜があれば多少は防げるし、脱げば粘液の除去もしやすい。戦いには、単に強度だけが必要なわけじゃない」
「ふむ、なるほど。確かにそう言った場合には役に立ちそうだ」
「分かった? じゃ、なんか適当に買っていくわよ。すいませーん」
「はーい」
奥のカウンターから店員の返事が聞こえ、こちらに歩いてくる。若い男性の店員だった。
「この魔導人形用に兜と盾が欲しいの。おすすめってある?」
「魔導人形に……? 飾るんですか?」
店員はブレンを見ながら聞いた。
「違うわ。狩りでこの魔導人形を使うから、防具をつけさせたいのよ」
「狩りで? へえ、この魔導人形はそんな事が出来るんですか? 性能がいいんだな」
「別に。ほとんど囮よ。だから簡単にやられないようにしておきたい」
店員は少し考えこみ答えた。
「……戦い方によって盾の機能は大きく変わります。前衛として防御主体になるのか、攻撃役として素早く動くのに邪魔にならない程度の最低限の盾か、とかね。ずっと立たせておくだけなら大盾でしょうね。大きいものは背丈ほどもありますが」
「ある程度動き回れる奴がいいわね」
「なら普通サイズですね。あとは受けるだけか、突起をつけて攻撃にも使えるようにするか。打突を弾きやすい曲面の盾もあります」
「ふうん……そうね……とりあえず普通のでいいわ」
「では……ここにある奴だと二つですね」
店員に案内され、二人は店の奥の盾コーナーに移動する。そこには、先ほど店員が言っていた背丈ほどもある四角い盾や、小さな丸い楯、表面に突起のついたスパイクシールドなどがあった。
その中でから店員は二つの盾を取り床に並べる。片方は四角で、片方は丸い盾。どちらも六〇から七〇セントメットル程の大きさだ。四角い盾は青く塗られ、丸い盾は赤く塗られていた。
「四角と丸は何が違うの?」
「一般的に、丸いと攻撃を逸らしやすいですね。四角いと攻撃を辺で受けてしまい衝撃も大きい。ただその場に留まって防御するのなら、面積の大きい四角の盾の方が優れています。どちらも一長一短ですね。動きやすさを重視するのなら丸い盾の方がいいと思いますが」
「ちょっと考えるわ……」
「分かりました。決まったらお呼び下さい」
そう言って店員はカウンターに戻っていった。
店員の言葉を反芻しながら、アイーシャは思案する。しかし僧侶の学校では盾の使い方は習わなかった。それは戦士職の技能だからだ。だから、アイーシャには判断がつかない。
ブレンはアイーシャが決めるのを待っていたが、アイーシャからの視線に気付く。目が合うと、アイーシャは顎で盾を示す。どうやら自分で選べと言っているようだ。
ブレンは無言のまま盾を見つめる。どちらが自分の戦いに適しているだろうか? 動きやすい丸い盾か、防御に優れる四角い盾か。さっぱり分からない。
だが脳裏にちらつくものがあった。それは記憶のようだった。自分はかつて、盾を持って戦っていた。その時はどんな盾だったのか……霞がかかったように記憶はおぼろげで、その形をはっきりとは思い出せない。
だが――。
ブレンは屈みこむと、腕を陳列してある盾の隙間に入れ、奥に収納されている盾を引っ張った。ガラガラと周りの商品が倒れて埃が舞う。
「あっ! ちょっとちょっと! 困りますよお客さん!」
店員が慌てて駆け寄ってくるが遅く、商品の山は崩れてしまっていた。そして、ブレンは奥から一つの盾を取り出していた。銀色で特に塗装のされていない盾だった。
ひし形の上の角を丸めて低くし、下の角を押し下げたような形をしている。いわゆるカイトシールドと呼ばれる種類の盾だった。
これだ。これが僕の盾だ。
ブレンは頭の中で歯車が噛み合うのを感じていた。
アイーシャがブレンを連れてきたのは、冒険者用の武具の店だった。標準体形に合わせた既製品が多く置いてある。隣には鍛冶屋とは提携しており、特注の鎧や剣を作ることも可能だった。
「ふうん。色々置いてあるんだな」
店の壁際にはスタンドに立てられた剣や槍や斧等が並んでいる。店の中央には棚が三つあり、そこに兜や鎧が置いてあった。店の奥には全身鎧や盾が置いてあり、隣には鏡まで置いてあった。
「しかし、僕は既に鎧を着ているぞ」
「そうね。だから鎧は買わないけど、盾と兜を買うわ」
「盾と兜か。盾はあると便利そうだな。しかし、兜は……必要なのか? 僕は、よく分からないがかなり頑丈らしい。暴れ狼に噛まれても傷一つつかなかったし、君の魔法でも無傷だった」
盾に関しては、相手の攻撃を阻んだり、盾で押して攻撃することも出来る。暴れ狼に腕を噛まれて姿勢を崩されたが、そういった攻撃を防ぎ反撃しやすくなる。
しかし兜は、本来弱点となる頭部を守るものだが、守る必要を感じないほどブレンの体は非情に頑健だ。鎧は着ているが、それだって必要ないと思えるほどだ。
「確かにあんたの防御力は高いみたいだから防具はいらないかもしれないけど、そう言う慢心が危険なのよ。例えばスライムの粘液を顔にかけられたら視界が塞がる。でも兜があれば多少は防げるし、脱げば粘液の除去もしやすい。戦いには、単に強度だけが必要なわけじゃない」
「ふむ、なるほど。確かにそう言った場合には役に立ちそうだ」
「分かった? じゃ、なんか適当に買っていくわよ。すいませーん」
「はーい」
奥のカウンターから店員の返事が聞こえ、こちらに歩いてくる。若い男性の店員だった。
「この魔導人形用に兜と盾が欲しいの。おすすめってある?」
「魔導人形に……? 飾るんですか?」
店員はブレンを見ながら聞いた。
「違うわ。狩りでこの魔導人形を使うから、防具をつけさせたいのよ」
「狩りで? へえ、この魔導人形はそんな事が出来るんですか? 性能がいいんだな」
「別に。ほとんど囮よ。だから簡単にやられないようにしておきたい」
店員は少し考えこみ答えた。
「……戦い方によって盾の機能は大きく変わります。前衛として防御主体になるのか、攻撃役として素早く動くのに邪魔にならない程度の最低限の盾か、とかね。ずっと立たせておくだけなら大盾でしょうね。大きいものは背丈ほどもありますが」
「ある程度動き回れる奴がいいわね」
「なら普通サイズですね。あとは受けるだけか、突起をつけて攻撃にも使えるようにするか。打突を弾きやすい曲面の盾もあります」
「ふうん……そうね……とりあえず普通のでいいわ」
「では……ここにある奴だと二つですね」
店員に案内され、二人は店の奥の盾コーナーに移動する。そこには、先ほど店員が言っていた背丈ほどもある四角い盾や、小さな丸い楯、表面に突起のついたスパイクシールドなどがあった。
その中でから店員は二つの盾を取り床に並べる。片方は四角で、片方は丸い盾。どちらも六〇から七〇セントメットル程の大きさだ。四角い盾は青く塗られ、丸い盾は赤く塗られていた。
「四角と丸は何が違うの?」
「一般的に、丸いと攻撃を逸らしやすいですね。四角いと攻撃を辺で受けてしまい衝撃も大きい。ただその場に留まって防御するのなら、面積の大きい四角の盾の方が優れています。どちらも一長一短ですね。動きやすさを重視するのなら丸い盾の方がいいと思いますが」
「ちょっと考えるわ……」
「分かりました。決まったらお呼び下さい」
そう言って店員はカウンターに戻っていった。
店員の言葉を反芻しながら、アイーシャは思案する。しかし僧侶の学校では盾の使い方は習わなかった。それは戦士職の技能だからだ。だから、アイーシャには判断がつかない。
ブレンはアイーシャが決めるのを待っていたが、アイーシャからの視線に気付く。目が合うと、アイーシャは顎で盾を示す。どうやら自分で選べと言っているようだ。
ブレンは無言のまま盾を見つめる。どちらが自分の戦いに適しているだろうか? 動きやすい丸い盾か、防御に優れる四角い盾か。さっぱり分からない。
だが脳裏にちらつくものがあった。それは記憶のようだった。自分はかつて、盾を持って戦っていた。その時はどんな盾だったのか……霞がかかったように記憶はおぼろげで、その形をはっきりとは思い出せない。
だが――。
ブレンは屈みこむと、腕を陳列してある盾の隙間に入れ、奥に収納されている盾を引っ張った。ガラガラと周りの商品が倒れて埃が舞う。
「あっ! ちょっとちょっと! 困りますよお客さん!」
店員が慌てて駆け寄ってくるが遅く、商品の山は崩れてしまっていた。そして、ブレンは奥から一つの盾を取り出していた。銀色で特に塗装のされていない盾だった。
ひし形の上の角を丸めて低くし、下の角を押し下げたような形をしている。いわゆるカイトシールドと呼ばれる種類の盾だった。
これだ。これが僕の盾だ。
ブレンは頭の中で歯車が噛み合うのを感じていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる