僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

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第九話 身支度

9-1

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「ほら、ブレン! こっちの道具も詰めておいて! あーもう、軽いものから入れないでよ! 重くて大きいものが先だって!」

 アイーシャはあれこれとブレンに指示をしながらリュックに荷物を詰めていた。食料、応急手当用の道具、テントなど床に並べられ、それを一つずつリュックに入れていく。

「乾燥ビスケットに、干し肉……日帰りの予定なのにこんなに必要なのか? 君は大食漢だな」

 紙に包まれた干し肉の塊を見ながらブレンが言った。替えの服なども入っているが、ざっと三日分だった。明らかに多い。

「日帰りって言ったって相手はダンジョンなんだからね? 何があるか分からないから、最低でも三日分くらいは持っていくのよ。別に私が大食いだからじゃないの!」
 言いながらアイーシャは毒消し草の束をブレンに投げつけた。

 ブレンはそれを掴み、しばらく眺めてからリュックに詰めていく。ブレンのリュックは、この様子だと三十キルグレムになりそうだった。

 向かう先はもちろんアストラダンジョンだった。毎日のように狩りをしてお金を貯め、ようやくダンジョン管理組合に入るために必要な金額が用意できたのだ。

 今日は旅立ちの日。と言っても日帰りの予定だが、その為にアイーシャは山のような荷物を用意し、その中から選り分けて支度を整えているのだ。

 アイーシャの荷物の大半をブレンが背負うことになっているが、一人で行くことになっていたら、アイーシャは一体どうする気だったのだろうか。ブレンはふとそんなことを思った。

「ほうほう、随分な大荷物じゃな。もう少し身軽な方がいいんじゃないのか?」

 エルデンはお茶の入ったカップを手に二人の様子を見に来た。反対の手には盆があり、ティーポットとカップが乗っていた。

「一段落したらお茶でもどうじゃ?」

「ありがとう、おじいちゃん。終わったらもらうわ。テーブルに置いといて」

「うむ……よくもこれだけ冒険の道具を集めたもんじゃ。わしの物もあるが……半分くらいは新しい奴だな」

「うん。おじいちゃんの道具を使っていいって言われたけど、ずっとほったらかしで虫に食われたりしてたのよ。皮製品とか木とか。だからちょっとずつお金をためて買い足していったのよ。ようやく日の目を見る日が来たわ」

「ああ……そうじゃな……」
 エルデンはお茶をすする。その表情が優れないのは、お茶のせいではなかった。

「じゃあ最後にこれを詰めて……終りね! よし、と」
 アイーシャはリュックのベルトを締めて荷物を固定する。ブレンも同じように荷物を詰め終わり、出発の準備が整った。

「ああ疲れた。まだ何にもしていないのに一仕事やり終えた感じ……」

「実際大仕事だった。荷物を入れるだけなのにこんなに面倒とは。まるでパズルのようだった……」

「しょうがないでしょ! 中に入ってからあれがない、これが足りないって鳴ったらどうしようもないんだから……おじいちゃん、お茶をいただくわ」
 アイーシャはテーブルのポットからカップにお茶を注ぎ、一口飲んで息をつく。

 ブレンはお茶を飲めないので恨めしそうに……いや、いつものぼんやりとした表情でこちらを見ている。

 狩りでは随分役立つようになった。あの一か月ほど前のローリックとの試合から、ブレンは更に強くなったように思える。

 あの時、試合が終わった後にローリックは言っていた。勝ったのにもかかわらず悔しそうな表情をしながら。

「あれは俺の剣が魔導人形の剣を折ったんじゃない。彼の剣速に木剣が耐えられなかっただけだ」

 聞けば、ローリックはあの時、霞という技を使ったのだそうだ。剣を振る途中で引き戻し、再度振り下ろす。相手の虚をつく業だ。

 剣に合わせて押さえてくるブレンをひっかけるための技だったが、ブレンはそれにも的確に反応した。突きを途中で薙ぎに変えてローリックの剣を受けようとした。

 しかしその途中でブレンの木剣は限界を迎えて折れてしまったのだ。
 まともに打ち合っていればどちらの剣が勝ったかは分からない。だがローリックは……恐らく自分が負けたと思ったのだろう。そうでなければあんな表情は見せないはずだ。

 アイーシャには剣の事がよく分からない。ローリックも強いとは聞いているが、それがどれほどの物かはよく知らない。しかり少なくともこのヨラディの町では一番強いはずだ。

 そのローリックが負けたと思ったのだから、ブレンはすごく強いのだろう。

(このポンコツがねえ……)

 狩りの手際を間近で見ているから強い事は分かる。しかしどこか薄ぼんやりとした普段の様子を見ているから、なんだか素直に褒める気にならない。

 もはや売り飛ばそうとは思わないし、一応家族の一員とまで思うようにはなっていたが、最初の頃の印象はなかなか変わるものではなかった。

 しかし実質そのブレンに自分の背中を預け、命を預けようとしているのだ。何だか癪だが、この自分もブレンを認めてしまっているのだ。

 そのことを思うと、なんだか鼻の奥がむずがゆくなってくる。そんな気持ちだった。
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