僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

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第九話 身支度

9-2

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「ブレン。もう一度確認のために聞いておくわ。あんたの役割は?」
 アイーシャがソファに腰かけお茶を飲みながら聞く。

「役割か。前衛、だろう? 君と魔物の間に立ち、攻撃を引きつけ君を守る」

「そう。その辺の森でもダンジョンでもそれは同じ。練習したようにやればいい」

 ブレンが前衛。アイーシャが後衛。ブレンは具体的に何のための魔導人形か不明のままだが、しいて言えば剣使いの戦士職だ。元々の防御力も高いし、今は鎧の他に兜と盾も身につけている。防備は万全だ。

 そして僧侶の資格を持つアイーシャは後衛。ブレンは人間のように回復魔法を受け付けないようなので、主に補助と攻撃魔法を使うことになる。

 その事を念頭に二人は森の魔物を相手に練習した。と言っても、最近のブレンは滅法強くなってしまい敵になるような魔物がいなくなってしまっていた。

 火炎蜂や邪眼蝶は攻撃を当てにくいが、そんな魔物相手でもブレンは正確に斬撃を当てやっつけてしまう。あれから一度暴れ狼の群れを見つけたが、今度はアイーシャの助けなしでほとんど一方的にブレンがやっつけてしまう程だった。

「剣の使い方は大体思い出したと思う。一か月前のローリックとの戦いのおかげかも知れない。短い時間だったが、なかなか刺激的な経験だった」

「刺激的ねえ……」

 その言葉を聞けばローリックやベラウはどう思うのだろうか。怒るのか、はたまた喜ぶのか。アイーシャにはわからなかった。

「……あんたのおかげで、私も魔力切れの心配がなくなった。元々四回くらい使うのがやっとだったけど……回数の制限がないし、威力も上がっている」

 アイーシャは自分の左手の甲の紋様を眺める。思えば、全てはこれから始まったのだ。あの名無しの古いダンジョンでブレンを見つけ、いきなり主従関係を結ばされた。

 しかし、今日こうしてダンジョンに向かう用意をしているのも、すべてブレンのおかげと言ってもいい。一人でもやり切るつもりだったが、やはり僧侶一人では現実性が薄い。ブレンという前衛、それも飛び切り強くて頑丈な魔導人形がいればこそなのだ。

「あんたって本当に謎よね……ただの魔導人形じゃない。変な魔導人形……」

「変か。しかし僕はほかの魔導人形を知らないからな……君がそういうのならそうなんだろう」

「そもそも普通にしゃべれているのがおかしいのよね。魔導人形って普通決まったことしか答えられないのよ。古代の奴は多少融通が利いたらしいけど……あんたはもっと古代の魔導人形なのかしら?」

「僕の記憶は今も戻っていない。眠る前の状況を思い出せば具体的に何年経ったというのも分かるかも知れないが……現状では無理だ」

「まあいいわ。下手に昔のことを思い出して昔の主人を探しにでも行かれたら困るし……」

「そうだな。今は君と主従関係にあるし、それを破るようなことになっては僕も困る。特に過去の事を思い出す必要はないだろう」
 ブレンはアイーシャの目を見つめながら言った。

「ふうん……ところでさ……あんた、いきなり魔力が切れて止まったりしないわよね?」
 
 アイーシャの問いに、ブレンはしばらく考えるように首をかしげ答えた。

「自覚できる異常はない。僕の中のレンダリングエナジーはおおよそ一定で、それから生み出される魔力も一定だ。君が魔法を使うとその分僕の魔力は減るが、許容範囲内だ。魔力切れを起こすことはないだろう」

 その答えに、アイーシャは困ったように頬杖を突く。

「時々あんたは言うけどさ、そのレンダリングエナジーって何なの? 魔力とは違うものなの?」

「レンダリングエナジーが何か、か……さあ、何だろうな。レンダリングエナジーという言葉だけがぽつんと頭の中にあって、それに関連する知識が……恐らく存在しない。無いのか、忘れているのか、それも分からないが……とにかくレンダリングエナジーとしかいいようがない。魔力とはまた別のものだ」

「普通の魔導人形は定期的に魔力を注入する必要があるけど……あんたの場合はそれがない。私は魔力をあんたに注入してないし、それどころか逆にあんたからもらっている。本当に……あんたの中身はどうなっているのかしら?」

「さあ、どうだろう」
 言いながらブレンは自分の胸をつつく。硬い鎧の音が響く。

「内側にあるのは、何かとても危険な物のような気がする。僕の体が頑丈なのは、それを抑えるためかもしれない」

「あんたが……抑えてる……?! また訳の分からないことを。火が燃えてるとか……そういう事じゃなさそうだけど」

「似たような物かもな。この世界の法則とは全く別の、何か不可解な力なのかもしれない」

「不可解……ほんと、不可解ね。考えてても時間の無駄だわ」
 アイーシャはお茶を一気に飲み干し、テーブルの上に置いた。
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