僧侶アイーシャは生活費のために一人でダンジョンに挑むが不思議な魔導人形を手に入れる。そして彼女の運命が動き始める。

登美川ステファニイ

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第十話 向こう側へ

10-2

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「僕はずっと、あのダンジョンで眠り続けていたのか」
 ブレンが空を見上げながらアイーシャに聞いた。

「そう……なんでしょうね。何年なのか分からないけど」

「しかし過去にエルデンが入った時は何もなかったと言っていた。となると、エルデンが入った後に僕は安置されたのかな?」

「それは……どうかしら。単一型だって言ったけど、そうじゃなかったのかも。複層型ならたまたまあんたがいない穴に入ったってだけじゃない?」

「そうか。しかしその事を確認しようとしても……ダンジョンはもう閉じてしまったから二度と入れないんだな」

「そうね。ダンジョンは役目を終えたり人が通わなくなったら魔力が抜けて閉じてしまう。そうなったらもう二度と入ることはできない」

「……この場合、どちらなんだ?」

「どちらって、どういう事?」
 アイーシャはブレンの言葉に首をかしげる。

「役目を終えたのか? それとも人が来なくなったから閉じたのか?」

「そりゃあ……どっちなんだろう。私が入ったんだから、人は一応来ている。でも閉じた……役目を終えたんじゃない?」

「あのダンジョンの役目って、何だ?」

「役目……」
 ブレンに言われ、アイーシャは考える。

 通常、ダンジョンはいきなり発生する。そこに明確な理由を見つけることは難しく、何のためにダンジョンが生まれたのかははっきりとした答えがない。

 ただ、その最下層などにある財宝を拾得したり、強力な魔物を倒したりすると、そのダンジョンはしばらくして魔力を失い閉じてしまうことがある。

 それはダンジョンが役目を終えたと表現される。人間に征服されるために生まれ、征服されたからその機能が停止したという考えだ。他にも諸説あるが、一般的にはこの考えが支持されている。

 アイーシャは思い返す。ダンジョンの口は閉じていたから、あの時点でダンジョンは機能が止まる寸前だったと考えられる。
 しかしアイーシャが入りブレンを起こした。その後気絶してブレンに家に連れて行ってもらったので記憶はないが、後日アイーシャが再び訪れた時にはもうダンジョンは完全に閉じて岩と同化していた。

 その状況から考えると、そのダンジョンの役目とは一つだ。

「……あんたを目覚めさせることが目的だった?」

「アイーシャもそう思うか。僕もそう思う。あのダンジョンは僕を安置し守ることが目的だったんだろう。しかし、偶然か、それとも何か君でなければならない理由があったのか、それは定かではないが……君が僕を目覚めさせたことで、ダンジョンは役目を終えたんだ」

「偶然……なのかな? 私でなければいけない理由なんて思いつかない……」

 アイーシャは自分のこれまでの人生を振り返るが、ダンジョンに由来するようなことなど特に思い当たらない。エルデンが調達士だったことが関係するとも思えない。

「しかしそうだとしても、結局何も分からないな。堂々巡りだ。誰が僕を安置して守ろうとしたのか。そもそも僕は何のために作られたのか……家庭用の魔導人形としては不釣り合いな力を持たされている。違う用途だろう」

「そうね。鎧を着て剣も持っているから戦闘用っぽいけど……ひょっとしてダンジョン攻略用?」

「対魔物用ではなくか?」

 アイーシャは頷き、言葉を続ける。

「最初のあんたは弱かったけど、今は違う。かなり強い。この辺の魔物じゃ相手にならないくらい。でもダンジョンの下層にはもっと強い魔物がいる。おじいちゃんも何度か遭遇したことがあるらしいけど詳しい事は教えてくれない……でも、とにかくもっと強い魔物がダンジョンにはいるのよ」

「確かに……狂い猪や暴れ狼がこの辺では一番強い魔物らしい。他の地域でも同じような物らしいが……そうなると、僕がダンジョンの魔物を想定されて作られたというのは理屈に合う」

「太古の技術で作られた対ダンジョン攻略用の魔導人形……何だか仰々しいわね。その割には見た目はいまいちね」

「……そんな事を言われても、僕にはどうしようもない。作ったのは人間だ」

「ふむ……本当に人間が作ったのかしら……ひょっとして……」

 思案するアイーシャの耳に聞き覚えのあるだみ声が飛び込んできた。

「さぁさぁ行きましょう、兄さん! こいつらがいれば百人力、いや千人力だ! ダンジョンだろうがどこだろうが安心ってもんです! さぁ、あっちで契約を!」

 アイーシャが背伸びして人ごみの向こうを確認すると、そこには見覚えのある男がいた。やはりリューバンだ。主にダンジョンの初心者や素人をカモにしているケチな仲介屋だ。

 今も若い男の首に手を回して歩いている。その男は迷惑そうにしているが、気が弱いのか逃げられそうにはない。そしてその周囲には四人の冒険者がいた。

 名前までは憶えていないが、そいつらにも覚えがあった。かつてリューバンがアイーシャをカモにしようとした時に一緒にいた連中。仲間のごろつきだ。

「あいつ、まだ懲りずにあんなことをやっているのね……ブレン、ちょっと荷物を持ってて。あいつをとっちめてくる」

「何だって?! もうすぐ順番だぞ!」

「すぐ戻る!」

 そう言うとアイーシャはリュックをブレンに預け、メイスを握りしめてリューバンの方へと進んでいった。
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