咲く桜 散る桜

渚の明日葉

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1話 出会い

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ようやく桜も咲き始めてきたな

窓から微かにピンクのつぼみをつけ始めた桜の木がふと目に止まる。去年は引っ越しやら何やらでこんなにまじまじと桜を見た記憶がない。
社会人2年目の春、ようやく仕事も身につき心に余裕が出来てきた。渚の水曜日は午後出勤、ささっと荷物をまとめ、まだ9時にもかかわらず家を出た。高校卒業後は都会出たさに実家を離れて下宿をしながら都市部の大学に通っていた。学業はほどほどにほとんどは遊びとバイトに費やした4年間だった。いざ就職となると戸惑いもあったが、なんとか地元の大手である広告会社に内定を決めた。それにより4年ぶりの地元暮らしとなるわけだった。
地元に帰ったからといって実家には戻らず会社に近いアパートを借りて住むことにした。
学生時代に貯めたお金が功を奏して納得のいく部屋を選べた。窓から見える公園の桜並木には徐々につぼみが付き始め後数週間もすれば満開だろうと予測していた。今年はお花見とか出来るかな、高校の友達とか会いたいな、そんな事を考えながら大通りを曲がり狭い路地に足を踏み入れるとそよ風に乗って少し懐かしい焼き魚の匂いが鼻をくすぐった。
お腹減ったな
少し早足になりながら住宅街を抜けると景色がパッと開けた河原に出た。平日の朝は出勤するサラリーマンや高校生がちらほら歩いている。少し視点を変えるとここにも川に沿うように桜が植えられていて家の前の桜並木よりつぼみが膨らんでいた。

「おはようございます」

カランカラン、とベルの音を立て渚は道なりを進んだところにある喫茶店に入った。白髪頭の店主がお湯を注ぎながら渚に向かって微笑んだ。いつものカウンターに座るとすぐにコーヒーが出てきた。

「はぁー良い香り、いただきます」

チラッと店内を見渡すが渚以外の客の姿は見えない。一口コーヒーをすすり味わってから喉を通した。週に1回、午後から出勤する際は必ずここに寄ってから会社に向かうようにしていた。学生の頃は気付かなかったが去年偶然発見してからはすっかりと顔馴染みになっていた。

「今日は何にする?」

「さっきものすごくいい焼き魚の匂いがしたんですよね」

「ははっ、ここは定食屋じゃないから焼き魚のはないけど君の好きなたまごサンドならあるけど?」

「はい、ありがとうございます」

ここの店主は優しくて好きだ、店の雰囲気もいいし料理やコーヒーも美味しい、きっとこういう所を穴場と言うのだろう。
ある程度コーヒーを飲むとカバンから紙の束を取り出しカウンターに広げた。落ち着いたとはいっても仕事が減ったわけではなく、まだまだ仕事に追われていた。家に帰るのは遅いし決して楽ではないデスクワークをこなす日々が続く。

「はい、お待たせ」

5分程でカウンターの向かい側から作りたてのたまごサンドが目の前に置かれる。香ばしく焼かれたトーストに絶妙な配分で混ぜられた卵とマヨネーズの具、ペンを置き、手を合わせるとたまごサンドを頬張った。サクッとした食感の後に

「んーっ美味しいです!」

ニコッと微笑む店主は、何も言わず新しいカップにコーヒーを注いでくれていた。その時だった。入り口からベルが鳴り1人の男性が入って来た。渚の背後を通り窓際のテーブル席に腰を下ろす。

「コーヒーをお願いします」

か細い声が店内に響きそれに反応して店主はコーヒーの入ったカップを運んだ。ここに来て長いが始めて見る顔だった。しかし店主の接し方からして彼も常連だという事が渚には分かった。少し彼に嫉妬を覚える。
たまごサンドを食べ終えお手洗いのために立ち上がった渚は帰りに彼の顔を確かめようとして観葉植物の隙間から顔を覗かせた。そこには白いシャツを着た少し細身で同じ年齢くらいの男性がコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた。男性の顔を見た時、渚は胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。席に着くとやけに落ち着かず、一気にコーヒーを飲み干した。あの雰囲気はどことなく高校の時の初恋の相手に似ていた。慌ててスケジュール帳を取り出し挟んであった1枚の写真を手に取った。5年前の自分と男子生徒がぎこちない顔でピースをしている。

「三上くん、元気かな」



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