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1話 ごめん
しおりを挟む3月15日
「ごめんね、本当にごめん」
彼女が続ける。
「友達にもどろう。」
目の前の彼女の頬を止め処なく涙が流れる。突然すぎて言葉が出なかった。ただ自分の心臓の音がどんどん大きくなっている事だけはしっかりとわかった。
そして今、自分がフラれた。という事も。
今日は約一週間振りに彼女に会う約束をしていた。しばらくお互いのバイトやなんやらでなかなか会えずにいたから会える、となってからは珍しくワクワクしていた。待ち合わせ10分前、携帯を片手に彼女を待った。いつもの事ながら彼女は約束の時間を少し過ぎて小走りで現れた。俺の前で止まるとペコリと頭を下げて謝る。
「ごめんなさい」
眉を細めて彼女の頭に手を置く。申し訳なさそうに見つめる彼女に微笑むと
「行こっか」
そう言って彼女の手を引き目的地を目指した。久し振りに会ったからか、いつもより会話が弾む。楽しかった。食事を終える。それから1時間後、彼女の家の近くのコンビニでホットコーヒーを買うとまだ寒い冬の公園に彼女に連れられた。珍しいな、そんなのんきなことを思いながら小さなベンチに腰をかける。
そしてあの告白を聞いた。
「何で?」
「私が悪いの。全部。」
ーどういうことー
「他に好きな人が出来たの?」
ーそれだったら浮気ってことかー
黙って彼女が首を横に振る。
ーならなんでー
「嫌いになった?」
「ううん、あなたの事は好きなの。でも今とっても忙しくて、あなたとの時間を大切に出来ないの。それが嫌なの。だから私が悪いの」
じゃあなんで、って言おうとした。が言葉が喉に引っかかる。これは言わない方が良いんだろう。
「そっか。」
ー終わりかー
少し安心したのか、彼女がゆっくりと顔を上げる。頬を赤らめずっと鼻をすすっている。そしてじっとこっちを見つめている。
何度俺は君を抱きしめただろう。付き合ってからはずっと君の事を考えて生きて来た。どうやって君を楽しませようか。今度の休みはどこに行こう。ただ好きだった。こんなに人を好きになったのは初めてだったから。ただ一緒にいたかった。それだけがあれば何もいらなかった。そう思っていた。そればかり考えた一年半。
でもそれが今終わった。
最後に彼女の頭に手を添えるとその場を離れた。
「またね」
背中からかすれ声で彼女が言った。黙って手を上げて俺は振り返ることなく夜の街に消えた。それから家に帰るまで必死に涙をこらえた。少し流れたかな、他の人に見られてたら嫌だった。でもそんな気をよそに彼女の事を思えば思うほど涙はどんどん目頭から飛び出そうとする。
ー止まれ、お願いだからー
3月16日
目が覚めると既に時間は10時を回っていた。今日のバイトは夕方からか、ベッドの上で携帯を眺めると画面の奥で微笑む彼女の姿があった。もう終わったんだ。枕元に携帯を戻すと再び布団に顔をうずめる。目が熱い。あんなに泣いたから、当然か。
「ごめん」
ーやめろー
言葉が浮かぶ。
止め処なく彼女の顔が浮かんでは消える。の繰り返しである。
「...はあ。」
ー寒いなー
布団から出ると冷たい空気が肌を刺した。ただでさえ冷え切った俺にこの寒さはとても辛かった。重い足取りで階段を降りてトイレに入る、これは日課だ、でも今日は昨日とは違う。言うならば心の中から何かがなくなった、なくなったはずなのに身体が重い。
ーこれが喪失感かー
今日は長くなりそうだな。リビングに入ると早々に靴下とイヤホンを手に取り足ばやに家を出た。朝から忙しそうに家事をしていた祖母に気付かれなかった事が幸運だった。もし会っていたら些細な事できっと言い合いになっていたはず。それだけは避けたかった。
家の外に出ると吐く息が白く空に消えていく。完全に日が昇っているのに外ってこんなに寒かったんだ。
ー昨日まではこんなに寒くなかったー
「変わったのは俺か」
イヤホンから流れてくる音楽さえも昨日とは違う。今まで何でもなかった歌詞の一つ一つが心に響く。かといって曲を変えるわけでもなく住宅街を走り抜け少し離れた山沿いのランニングロードへと行く坂を登りきった所で走りを止めた。10分も走っていないのに完全に息が上がっている。思わず手すりにもたれかかり空を見上げた。
ー体力落ちたなー
思えばこの一年、走った記憶がない。そんな時間はなかった。走る時間があれば彼女に会っていたから。携帯を見る。通知はない。いつもならおはよう、って来る。
ー来ないよなー
もう別れたんだから。
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