俺はまだ君を忘れられない。

渚の明日葉

文字の大きさ
5 / 10

5話 大阪

しおりを挟む

4月12日

ちょうど遅れ組の桜が満開を迎える頃だった。川沿いの桜は散ってしまったが俺はそんな事に気を向ける余裕もなく車を走らせ学校に向かっていた。免許をとって4日目。両手がハンドルから離せない。足も少し震えている。まるで生まれたての子鹿のようだろう。約束していたラーメンフェスタに行くために親を説得し車を準備して家から学校まで約30分何とか無事に辿り着いた。

ー学校でこんなだったら大阪はどうなるんだー

「今日大丈夫なの?」

「えっ、.........あ、安全運転で頑張るよ」

今日の同行者、彩が不安そうにこちらを見ながら去っていく。はっきり言ってお前の方が何をしても不安だと思う。
とにかくど天然としか言いようがない彩にまつわるエピソードはこの2年間で数え切れないほど存在する。

ーあのやろうー


「よし、今日はこれで終わり」

練習を15分早めに切り上げた。今は16時半、準備して学校を出ればちょうどいいな。相変わらず時間設定は完璧だな。そう思っていた。

「何で今日早く終わんの?」

一つ上の先輩が背後から俺の胸をえぐる。一瞬の動揺を必死に抑え真面目に返答する。

「最近、学校が始まって忙しいですし今日くらい少し早めに終わってもいいかと、ほら、詰めすぎても良くないですし」

なんとか笑顔で押し通しその場から逃げ去った。危ない。正直苦手な透先輩を軽くあしらう。

ーラーメン食べに行きます。なんて言えない。一応先輩だし。ー

30分後2人を乗せて俺は車を走らせた。初めて友達を乗せて走るのだから当然緊張する。大阪までの道のりは遠い。

「怖いな、死にたくない」

助手席で元彼女がつぶやく。

「大丈夫だって、これでも教習所じゃ結構優等生だったから」

こちらの不安を悟ったのか。慌てて言い返したせいか、ガタッとブレーキを踏んだ際に車が揺れる。横から冷たい視線が送られるのが分かる。

「......すいません」

「ぷっ、ははは大丈夫。全然心配してないから」

少し照れを隠す様に目を細め遠くを見つめた。後部座席では既に彩が夢の世界を満喫していて完全に2人っきりの空間になっていた。かなり気まづい。そう感じていたのは俺だけだったのかもしれない。先に口を開いたのは向こうだった。

「最近どう?」

とっさに体が強張る。

「どうって別に普通さ」

「そっか」

「お前こそどうなの?」

わずかな間

「私も普通、今は」

ー今は?ー

「飯とかちゃんと食べてる?」

「食べてないかな」

「その割には...」

信号で止まりちらりと視線をお腹に落とす。

「もう、見ないでよ」

少し遅れてお互い目を見合わせ笑った。これが普通だった。こんな感じにいつも笑ってたのに。でも。

ーもうあの時間は戻らないんだー

そう思うとさっきまで感じていた暖かさが一気に消えた。そこからはずっと無言が続いた。話す気が全く起きなくなったと言えばいいのか。

「音楽かけていい?」

うん、それだけ答えるとすぐ沈黙の空間を歌声が支配した。ただの歌。そう思って聞いていた歌が今は何より救いだった。

ーこんなに辛かったなんて、一緒にいるのー

会場に着く頃には彩も目を覚ましまた別の賑やかな空間になっていた。


「これ、塩」

ラーメン鉢の模様が描かれたカップを手に3人で立ちながらラーメンをすする。交換しながらスープを飲むが元々ラーメンがとても好きというわけではないが腹が減っていれば何でも食べる。もちろんラーメンもだ。正直地元のラーメンの方が上手いと思った。

「美味しいね」

「うん、これ美味しい」

2人は満足そうだ。逆に俺は麺をすすり終えると残った汁を眺めた。

ーこれで800円は高いな、ちょっと不満だったー

時間も時間って事もありラーメンを食べ終えるとコンビニでアイスを買いさっさと車に戻った。

「しゅっぱーつ!」

2人の声が車に響いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...