ふたつ目の僕

ちより

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1.ふたつ目の子ども

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 もう何度も来ている研究所での検査。いつものように身体測定と心理士によるカウンセリングが行われた。毎回話す内容は同じようなものばかり。

「それでは歩くん、何か辛いことはない?」

 電子カルテを打ち込みながら、その眼は少し笑いかけるように細めている。

「いえ、ありません」

 僕はこの眼が苦手だ。自分にはないものだから、ひがんでいるのかもしれない。なぜソレは他の2つ目とは違う動きが出来るのか。笑うように見せるその眼とは対照的に、声には何の感情も伝わってこない。まるでソレに別の意思があるのではないかと思ってしまう。


「最近はその答えばかりね。でも、15才ですものね」

 うつむいている顔を見ようにも出来ない。2つ目しかない僕は、ソレから視線を外すことが出来ない。

「お疲れ様、あとはいつものように採血して帰ってね」

 結局、いつものように顔を見ることなくカウンセリングは終わった。僕が生まれた時、目が2つしかなかった。人類に3つ眼が出来てから長くなるというのに、極めて異例だった。奇病である僕は定期的に研究所に通い、こうして心身のチェックを受けている。

「じっとしていてね~」

 目が2つしかないこと以外、何も異常は出ていないらしい。両親の付き添いなく血を抜くことにも慣れてしまった。




「今日はどうだった?」

「別に……」

「もうっ!! その返事ばっかりね。心理士さんにしか話せないこともあるでしょう!! 母さん達には何も話してくれないから、せめてプロのカウンセリングには頼ってよね」

 母さんはいつもこの調子だ。よく喋る。気持ちを吐き出すのが大事と何度も言ってくる。だが、言えるわけない。みんなのソレが気持ち悪いだなんて。

「母さん……」

「えっ!! 何? 何?」

 自動運転の時ですら、母さんの2つ目はスマホを、そしてソレが前を見ている。バックミラーで眼が合うのも、ソレだ。

「なんでもない」

「気になるじゃない!! あっ、大変。お父さんが今日は早く帰ってくるんですって、夕飯どうしようかしら」


「肉でいいよ」

「……ダメよ。いつも言っているでしょう。少しでも目に良い魚を食べなさいって……そうだわ!! 時間もないし、カルパッチョにしましょう」

「…………」

 眼の価値は絶対だ。見た目や能力、社会的価値も全てソレで決まってくる。SNSでは、第3の眼をいかに綺麗に見せるかを配信し、視力の良さが就職にも有利になる。ただでさえ2つしか目がない僕は、視力を落とすことがあってはならないのだ。


「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」

「……おかえり」


 父さんは、僕が生まれてから仕事を変えたらしい。元々勝ち組と呼ばれる眼の医師として働いていたが、今は最先端の研究チームにいる。いつも帰りは遅くなることが多いが、今日はどうしたのだろう。

「歩、話がある」

「何?」

「まだ試作品だが、移植用の眼が出来た」

「えぇっ!! そうなの!? それって神経にもつながるのかしら?」

 母さんは思わず立ち上がり、前のめりになる。

「理論上では可能だ。だが、手術に耐える為には歩の体重がもう少し必要になるだろうな。それと、運動して体力をつけておきなさい」

「え、手術するの?」

 2人の会話が止まる。

「……しないつもりか?」

「もう少し……考えたいんだけど」

「どうしてっ、歩。やっと、普通になれるかもしれないのにっ!?」

 母さんの言葉を最後に、自分の部屋へと閉じこもった。

 『普通』ではない。初めて母さん達が口にした。




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