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3.お屋敷へようこそ
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んん……これはいったいどうしたことかしら……頭がすごく痛いですわ。
「あぁ、おはよう。まさか、君がこんなにお酒に弱いとは……ワインを渡してきたのは、てっきり面倒な相手から僕を引き離してくれる作戦だと思っていたが」
「作戦……ですわよ?」
「…………」
「……っ!? ウェッイド……公爵様?」
頭痛でぼやけていた頭が一気に覚醒する。てっきりいつもの侍女たちかと思っていたら、ウェイド公爵が水を片手に立っているではないか。
「誰かと勘違いでも?」
「いえ……いえあの、私の部屋かと。ここは……」
「…………薬を持ってこさせよう」
そのまま公爵が出ていくと、侍女達がすぐに頭痛薬と着替えを持って入ってきた。
そうだわ、ここは新しいお屋敷だったわね。リドル家の領地は遠いから、家族と離れないですむよう専属の侍女達とは皆お別れしてきたんでしたわ。
「あの、奥様? ご体調はいかがでしょうか?」
「……もう大丈夫よ」
1人背の低い侍女が心配そうにこちらを見ている。
侍女が話しかけてくるなんて珍しいわね。
使用人は空気のような存在だ。
貴族社会ではそれは当たり前の感覚だが、外では気を張ってばかりのカレンにとっては、年の近い侍女たちは唯一、探り合いのない会話のできる相手だった。
それでもエル様への想いを悟られないよう注意していたけどね。
エル様が正式に祝言を挙げたと聞いた時、重なるように突然リドル家から婚約の申し出があった。
きっと、ウェイド公爵様もニーナ夫人の祝言に躍起になったのね。私もヤケになって先に申し出のあった方へ嫁ごうとしていましたもの。お父様が公爵家の縁談をと言われるがままにこちらに承諾の返事をしましたが……一目見て分かりましたわ。ウェイド公爵様も誰かを一途に愛する方だと。そして婚約パーティの招待リストにエル様達を入れると提案された時、私には分かりましたわ。そのお相手こそ、彼女だと。
急な婚約披露パーティの準備で慌あわただしく、予定よりも遅れて到着してしまったこともあり、この屋敷には昨夜のパーティ当日になんとか到着したばかりだった。
主にウェイド公爵が首都に近いカレンの屋敷を訪ね、急ピッチに婚約の準備をしてきた。
それでも、躍起になって婚約を決めた割には豪華なドレス、青を基調としながらそろえられた高価なアクセサリーが十分に用意されていた。
たまたま私の瞳の色と同じ宝石で助かりましたわ。もしかしたら、ニーナ夫人のために? ドレスはサイズを合わせるだけですぐに完成できるようになっていましたけれど、あんなに丁寧な造り、すぐに出来る代物ではないですものね。
……分かりますわ。私も、エル様の名前をしたためた刺繍入りのスカーフを縫ってはほどいての繰り返しを致したり、エル様人形を1人でつくっては人目に触れる前に解体する日々を悶々と過ごしていましたもの。
決して誰にも知られてはいけない想い。
パーティ中に意識を失ってしまうなんてとんだ失態ですわ。これからもエル様に会えるかもしれないと思うと、思わず気分が高揚してしまったんですわ……エル様にもとんだ醜態をお見せしてしまいましたわ。
パーティでの失態を思い出し、急に背中が冷たくなるのを感じる。
「奥様、やはりお加減がまだ……」
「本当に大丈夫よ。少し緊張してしまっていただけよ。それより、ええとあなたは?」
「はいっ、公爵様から本日奥様のお世話をするようにと仰おおせつかりました、侍女頭のミクリと申します」
「侍女頭……」
背は小柄でまだかなり若く見える。自分と年が同じくらいにも見える彼女だが、侍女頭であれば体調を気遣って話しかけてくるのも納得だ。
「公爵家の侍女頭にしては若すぎるのではとご心配ですか?」
「いいえ。まだ屋敷に来たばかりの私の体調を他の侍女達を下がらせた後に確認する気遣いに感謝するわ。それに、ウェイド公爵様なら、年齢ではなく実力で評価するのも分かるわ」
貴族は体裁を重視する。婚約中とはいえ、まだ正式な夫婦になっていない2人が同じ寝室から出てきたとなれば、公爵様にあらぬ噂が立ってしまう。
ウェイド公爵には今までつけ入る隙がなかっただけに、常にあら探しをしている者がいてもおかしくない。身の回りの使用人は特に信頼出来る者で固めるのが自然だろう。侍女頭の若さには一瞬驚いたが、彼が当主なら驚くことでもない。
「そうですよね!! リドル公爵家は代々格式を重んじて身分の確かな者を側に置いてきましたが、ご主人様はそこを尊重しながらも適材適所、私どものような使用人一人一人を個人として評価してくださる素晴らしき方でして!!」
「えっ、えぇ。そうね……」
「っ!! こほんっ、失礼致しました。興奮のあまりつい……」
「いいのよ。それくらい正直に話してくれた方が私としても助かるわ」
「奥様!!」
「でもそうね……まだ私は婚約中の身ですから、まだ奥様と呼ぶのは……」
「はっ!! 申し訳ありません。ご主人様の長年の想いが叶うと思うと思わず……いえ、先走った呼び方失礼致しました」
あれだけウェイド公爵の素晴らしさを興奮気味に話していたにも関わらず、なぜか今回は途中ボソボソと小声になる。
「いえ、いいのよ。それより、今何を……」
「式のあとには正式に専属の侍女を専任致しますのでそれまでは何なりとこのミリアにお申し付けくださいませ」
「え、えぇ」
侍女頭だけあって、ミリアは仕事が出来る。頭痛薬を飲んだあとには薄めのスープ、食事もお粥に野菜の添え物を中心とした胃に優しいものを手配してくれていた。
「食事のあとには屋敷をご案内させていただきます」
そう言っていたので、てっきり彼女がするのだと思っていたのだが、軽く身支度を整えてもらうとウェイド公爵が待っていた。
「公爵様?」
「あとは僕がしよう、君は下がってくれてていい」
「え……」
「あっ、はい!! 失礼致します」
「えぇ?」
返事をしたかと思うとすぐにミリアの姿は見えなくなっていた。代わりにウェイド公爵がじっと立っている。
「…………」
「…………?」
「手を……」
「えっ、あ……お願いしますわ」
驚いたわ。まさか人前でなくてもエスコートしてくれるなんて。いつ屋敷の者にすれ違うか分かりませんものね。私の配慮不足でしたわ。
「あぁ、おはよう。まさか、君がこんなにお酒に弱いとは……ワインを渡してきたのは、てっきり面倒な相手から僕を引き離してくれる作戦だと思っていたが」
「作戦……ですわよ?」
「…………」
「……っ!? ウェッイド……公爵様?」
頭痛でぼやけていた頭が一気に覚醒する。てっきりいつもの侍女たちかと思っていたら、ウェイド公爵が水を片手に立っているではないか。
「誰かと勘違いでも?」
「いえ……いえあの、私の部屋かと。ここは……」
「…………薬を持ってこさせよう」
そのまま公爵が出ていくと、侍女達がすぐに頭痛薬と着替えを持って入ってきた。
そうだわ、ここは新しいお屋敷だったわね。リドル家の領地は遠いから、家族と離れないですむよう専属の侍女達とは皆お別れしてきたんでしたわ。
「あの、奥様? ご体調はいかがでしょうか?」
「……もう大丈夫よ」
1人背の低い侍女が心配そうにこちらを見ている。
侍女が話しかけてくるなんて珍しいわね。
使用人は空気のような存在だ。
貴族社会ではそれは当たり前の感覚だが、外では気を張ってばかりのカレンにとっては、年の近い侍女たちは唯一、探り合いのない会話のできる相手だった。
それでもエル様への想いを悟られないよう注意していたけどね。
エル様が正式に祝言を挙げたと聞いた時、重なるように突然リドル家から婚約の申し出があった。
きっと、ウェイド公爵様もニーナ夫人の祝言に躍起になったのね。私もヤケになって先に申し出のあった方へ嫁ごうとしていましたもの。お父様が公爵家の縁談をと言われるがままにこちらに承諾の返事をしましたが……一目見て分かりましたわ。ウェイド公爵様も誰かを一途に愛する方だと。そして婚約パーティの招待リストにエル様達を入れると提案された時、私には分かりましたわ。そのお相手こそ、彼女だと。
急な婚約披露パーティの準備で慌あわただしく、予定よりも遅れて到着してしまったこともあり、この屋敷には昨夜のパーティ当日になんとか到着したばかりだった。
主にウェイド公爵が首都に近いカレンの屋敷を訪ね、急ピッチに婚約の準備をしてきた。
それでも、躍起になって婚約を決めた割には豪華なドレス、青を基調としながらそろえられた高価なアクセサリーが十分に用意されていた。
たまたま私の瞳の色と同じ宝石で助かりましたわ。もしかしたら、ニーナ夫人のために? ドレスはサイズを合わせるだけですぐに完成できるようになっていましたけれど、あんなに丁寧な造り、すぐに出来る代物ではないですものね。
……分かりますわ。私も、エル様の名前をしたためた刺繍入りのスカーフを縫ってはほどいての繰り返しを致したり、エル様人形を1人でつくっては人目に触れる前に解体する日々を悶々と過ごしていましたもの。
決して誰にも知られてはいけない想い。
パーティ中に意識を失ってしまうなんてとんだ失態ですわ。これからもエル様に会えるかもしれないと思うと、思わず気分が高揚してしまったんですわ……エル様にもとんだ醜態をお見せしてしまいましたわ。
パーティでの失態を思い出し、急に背中が冷たくなるのを感じる。
「奥様、やはりお加減がまだ……」
「本当に大丈夫よ。少し緊張してしまっていただけよ。それより、ええとあなたは?」
「はいっ、公爵様から本日奥様のお世話をするようにと仰おおせつかりました、侍女頭のミクリと申します」
「侍女頭……」
背は小柄でまだかなり若く見える。自分と年が同じくらいにも見える彼女だが、侍女頭であれば体調を気遣って話しかけてくるのも納得だ。
「公爵家の侍女頭にしては若すぎるのではとご心配ですか?」
「いいえ。まだ屋敷に来たばかりの私の体調を他の侍女達を下がらせた後に確認する気遣いに感謝するわ。それに、ウェイド公爵様なら、年齢ではなく実力で評価するのも分かるわ」
貴族は体裁を重視する。婚約中とはいえ、まだ正式な夫婦になっていない2人が同じ寝室から出てきたとなれば、公爵様にあらぬ噂が立ってしまう。
ウェイド公爵には今までつけ入る隙がなかっただけに、常にあら探しをしている者がいてもおかしくない。身の回りの使用人は特に信頼出来る者で固めるのが自然だろう。侍女頭の若さには一瞬驚いたが、彼が当主なら驚くことでもない。
「そうですよね!! リドル公爵家は代々格式を重んじて身分の確かな者を側に置いてきましたが、ご主人様はそこを尊重しながらも適材適所、私どものような使用人一人一人を個人として評価してくださる素晴らしき方でして!!」
「えっ、えぇ。そうね……」
「っ!! こほんっ、失礼致しました。興奮のあまりつい……」
「いいのよ。それくらい正直に話してくれた方が私としても助かるわ」
「奥様!!」
「でもそうね……まだ私は婚約中の身ですから、まだ奥様と呼ぶのは……」
「はっ!! 申し訳ありません。ご主人様の長年の想いが叶うと思うと思わず……いえ、先走った呼び方失礼致しました」
あれだけウェイド公爵の素晴らしさを興奮気味に話していたにも関わらず、なぜか今回は途中ボソボソと小声になる。
「いえ、いいのよ。それより、今何を……」
「式のあとには正式に専属の侍女を専任致しますのでそれまでは何なりとこのミリアにお申し付けくださいませ」
「え、えぇ」
侍女頭だけあって、ミリアは仕事が出来る。頭痛薬を飲んだあとには薄めのスープ、食事もお粥に野菜の添え物を中心とした胃に優しいものを手配してくれていた。
「食事のあとには屋敷をご案内させていただきます」
そう言っていたので、てっきり彼女がするのだと思っていたのだが、軽く身支度を整えてもらうとウェイド公爵が待っていた。
「公爵様?」
「あとは僕がしよう、君は下がってくれてていい」
「え……」
「あっ、はい!! 失礼致します」
「えぇ?」
返事をしたかと思うとすぐにミリアの姿は見えなくなっていた。代わりにウェイド公爵がじっと立っている。
「…………」
「…………?」
「手を……」
「えっ、あ……お願いしますわ」
驚いたわ。まさか人前でなくてもエスコートしてくれるなんて。いつ屋敷の者にすれ違うか分かりませんものね。私の配慮不足でしたわ。
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