狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

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4.あなたを愛さないと誓います

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「執務室だ」

「はい」

「応接室だ」

「はい」

「書斎だ」

「……はい」

「会議室だ」

「……えぇ」

「第2執務室だ」

「…………」

「第7応接室だ」

「ちょっと……ちょっとだけ休みませんか!?」

 嘘でしょう……どれだけ仕事部屋があるのかしら。事業ごとに分けているみたいだけど。リドル家が……ウェイド公爵様が複数の事業を手がけているにしても、まさかこの塔丸ごと仕事関係なんじゃ……これじゃあエル様がいらしてもどこにいるか分からな……いいえ。私ったら何を贅沢なことを考えてしまっているのかしら。たとえお姿が見えなくても、エル様と空気を共有しているかもしれない、それだけで十分じゃない。あの方の歩いた痕跡こんせきの残る城に住めるなんて、この上ない幸せだわ。

「……疲れたか?」

「あっ、いいえ。少し数の多さに驚いただけですわ。もうだいじょうぶえぇっ!?」

 答える間もなく、軽々と抱えられる。

「何か問題が?」

「あ……歩けますから……重いですし……」

 それに、あなたも想い人がいらっしゃるのでしょう? そこまで徹底してフリをなさらなくても。

「問題ない。ドレスでは階段も歩きにくいだろう」

「ですが……」

「……このあと打ち合わせが残っている」

 なるほど、時間に余裕がないからこの方が効率が良いというわけですね。さすがですわ、思いがけず思ったよりも身体つきがたくましいとか、ウェイド公爵様からいい匂いがするとか、余計なことを考えてしまった自分が恥ずかしいですわ。私も公爵夫人としての役割をしっかり務められるよう気を引き締めなければですわね。

「お願い致します。それと……パーティではご迷惑をおかけしてごめんなさい」

 レディの失態を蒸し返す必要はないが、実際に酔い潰れてしまった謝罪とお礼がまだだったことが気がかかりだった。婚約パーティでは初めの挨拶こそするがあとは基本自由であり、終わらせることは縁起が悪いとされる為、主役である2人は頃合いをみて退散し、それを合図に少しずつ周りが帰っていくのがルールだ。図らずしも、その流れに沿った流れになり、パーティ自体は問題なく行えたが、まさか本当に酔ってしまうとは。


 しょっぱなから公爵様のお手をわずらわせるなんて、これでは面目が立ちません。

「いや、急なスケジュールで無理をさせてしまっていたのだろう。僕のミスだ、こちらこそすまなかった」

 意外、ですわ。公爵様が謝るなんて。

 貴族は簡単に頭を下げてはならない。まして、婚約中とはいえ公爵である彼がそのような発言をするなど驚きだ。


「……それとも、君が酔ったのは別のことが原因か?」

「はい?」

「…………ここが第11会議室で異国の……」

 一瞬、公爵様の声が不機嫌になった気がしたけど、やっぱりがっかりしたのかしら。ここは、しっかり挽回しないといけないですわ。

「公爵様、2人の契約内容について、今夜確認しておきたいのですが」











 あんなに応接室があったっていうのに、なぜ公爵様の寝室で待たされているのかしら。いくら自分の屋敷とはいえ、2日も続けて寝室に2人きりだなんて。

「遅れてすまない……身体は冷えていないか?」

「大丈夫ですわ。ミリアが暖炉と飲み物を用意してくれましたので」

「もう使用人の名を覚えたのか?」

「侍女頭ですし、今私のお世話をしてくれているのは彼女ですので」

「そうか」

 気のせいかしら、公爵様の機嫌が良いように見えるわ。まだ1人しか覚えていないのに。何にしても、とりあえず良かったわ。

「それで、婚約披露も終わったことですし、そろそろ本題の契約についてお話ししたいのですが……」

「それなら君の両親を通して話は終わっているはずだが?」

 公爵家からは、十分な婚約金と一部の領地の権利が贈られ、カレンの家にとって利益となるばかりの取り決めが既に交わされている。だが、それは父との契約にすぎない。

「それとは別の、ですわ。私の屋敷では人払いが出来ませんでしたので」

 なぜか公爵様は2人で寝室にいることを気にしてないようですが、さすがに嫁入り前に2人きりになるなんて出来ませんでしたから。

「それは、君と僕とで個人的な契約を結びたいと?」

「はい」

「……聞こうか」

「公爵様がどうして私を選んだのかは心得ているつもりです。公爵家の妻としての責務はきちんと果たしたいと思っていますわ」

「……そうか」

「ですが、それ以上は私も求めませんのでご安心ください」

「…………それ以上とは?」

 ウェイド公爵様にはそれこそ王室からいつお声がかかってもおかしくないくらいの婚姻の話があったはずだわ。でも、私を選んだ理由はちゃんと理解していますわ。

「公爵様のお気持ちを望むことはありません」

「何?」

「大丈夫ですわ。もちろん、口外など致しませんし、使用人たちにも気づかれないよう細心の注意をはらいます」

「……一体何を」

「ですから、公爵様が誰を想っても問題ありませんわ」

 まさに、公爵様が求める妻への要望はコレですわよね!! しっかり伝えておけば安心なさるはず。大丈夫です。私もエル様へのこの想いを決して外に出すなんて愚かなことは致しませんわ。

「他の誰かを想うだと……?」

 ん? なんだか思っていた反応と違う気が……

「あの……」

「はぁ……そのような取り決め無意味だ」

 ミリアが呼ばれると、すぐに客間へ案内するようにと体ていよく追い出される。

 いや、まだ婚姻前なので客間それで良いのですが。怒ってらっしゃるように見え……まさか、わざわざ口に出してしまったことがアウトでしたの!? 黙って察するのが正解でしたの!!?? うっ、ダメですわ。これでもし婚約破棄などされてしまったら……

 もう既に公爵様からは返しきれないほどの莫大な婚約金を渡されており、新事業を立ち上げるための資金に使われてしまっている。

 ここは……何がなんでもお役に立つことを証明しなければなりませんわ。


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