狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

文字の大きさ
11 / 49

11.薬湯の効果

しおりを挟む

 仕事の早い彼女にしては、思ったよりも待たされたように思う。他の侍女達が先にお湯を運び、着替えの準備をしていったが、肝心の侍女頭がまだ来ていない。他の者に手伝いを命じてもいいが、医師に確認すると言った彼女の気遣いを無下にも出来ない。

 やっぱり身体が疲れているのかしら。早くお湯で温まりたいですわ。

 そう思いながら、彼女が戻ってくるのを待つ。

 コンコンッ

「入って。時間がかかったの……ね」

「ぐぬぬ、カ……レン様……お待たせしてしまい、申し訳……ありません」

「えっ、あの、それは……」

 カレンは見たこともないほど巨大な瓶を、なんとか両手でふらつきながら運んでくる。

「ハァハァ……あの男のっ、いえ、ヤドラ医師のご指示で、お湯にこちらのっ、ハァ……薬を混ぜ薬湯にするようにと」

 息を切らしながらも、緑色の液体をドバドバとお湯に入れていく。

「そう、それで……こんな重いものを1人で?」

 リドル家には多くの使用人がいるはずだ。こんな重たい瓶を、それも侍女頭が運んでいようものなら、誰かが声をかけるはずだ。それ以前に、ミクリが指示をすれば代わりに運ぶ者などいくらでもいるはずだ。

「はい。あのおとっ……ヤドラ医師がカレン様のもとへ持っていくと聞かないものですから……あの破廉恥男は!! ヤドラ医師は……絶対に下心があるはずです!!!! いいえっ、なくてもこれから入浴をするカレン様のお近くにあんなケダモノを近づけるわけにはいきません。私が運ぶといった手前、他の手伝いを頼むわけにもいかず……お時間がかかってしまい申し訳ありません」

「いいのよ。なんとなく分かるわ」

 あぁ、きっとなんとか振り切ろうとしたけど、ずっと着いてきて他の人に頼むに頼めなかったのね。

「…………それにしても、これは入っても大丈夫なのかしら?」

 なぜか少し冷えたはずのお湯が、瓶の薬を入れると温度が上がったように蒸気が増え、緑色のお湯からはハーブの香りとは別に、嗅いだことのない臭いがする。

「それは大丈夫です。ヤドラ医師は旦那様が認められたこの国でも指折りの名医ですから」

「っ!! ふふふ」

「どうされましたか?」

「いいえ、そうね。なんだか身体に良さそうだわ」

 
 冷えていたわけではないが、身体がお湯にじんわりとほぐされていくような気持ちになる。

 なるほど、確かに薬湯ですわ。身体中が温かくなっていくようですわね………というよりも、どんどん身体が熱くなってきたような……

「はぁ……はぁ」

「カレン様? どうかされたのですか?」

「なんだか、身体が熱いような……」

「まだ入ったばかりですが……っ!? カレン様!! お顔が真っ赤に!! すっ、すぐに上がりましょう」

 ミクリが慌ててタオルを持ってくる。








「カレン様のお薬に何を入れられたのですかっ!?」

「この私が悪いものなど入れるわけないだろう。疲労回復とお肌の美容効果、頭痛改善に便秘解消、食欲増進、安眠促進、それ以外にも高血圧、心労、胃もたれ、免疫向上……」

「分かりました。あなたの医師としての腕は信用しています。ですが、現にカレン様のご状態は苦しそうで……」

 慌ててお風呂から出た後も、カレンの状態は良くならない。それどころか胸を苦しそうに押さえている。

「うぅっ……」

「うーーーーーーん、薬の効果を抑え込んでいるのでは? まだカレン様の診察を直接したわけではあひませんので断言できませんが。ちょっとどいてもらっても……」

 ミクリに呼ばれるも、なぜか中に入らせてもらえない為、かろうじて横たわっている様子のカレンを遠目からしか確認出来ていない。もっと近くで診ようと足を入れようとすると、全身でミクリがそれを阻止する。

「ダメです!! まだ……旦那様にご報告していないんです。なので、たとえヤドラ医師であろうと、旦那様の許可なしにカレン様の診察は許されません」

「?」

 一瞬、侍女頭の言っていることが理解できなかった。真っ先に公爵様に報告するのでは? 当然、薬を提供した自分が責められるだろうが。そして、もし状態が良くならなければ地下牢に閉じ込められ、尋問にかけられる可能性もないことはない。公爵様の冷酷な部分なら理解しているし、身近な者からの暗殺に何度もあってきたのだから仕方がないことなのだろう。

「私を心配してくれたのか?」

「……違います。一刻も早くカレン様を診て頂きたかっただけです。それで、薬の効果を押さえ込んでいる、とはどういうことですか?」

「効能の1つに自白剤が入っているんだ」

「はい? あなた……カレン様になんてものを……やはりすぐに旦那様に報告すべきでした」

 罪人に使われるそんなものを使うだなんてと、信じられない表情で侍女頭は睨んでくる。

「いや、待て。そうじゃなくて!! ほら、まだここに来たばかりらしいから、きっと言いたいことも言えないだろうかなと思ってね? 自白剤って言ったけど、そんな強制的なものではなくて……ほんの少し気をゆるめられたらなぁ的な? ほら、心を開いてくれたら早くこの屋敷に打ち解けられるんじゃないかという私の配慮的なね!?」

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

そして鳥は戻ってくる

青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。 同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。 3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。 そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。 その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。 *荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。 *他のサイトでも公開します *2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...