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17.夜中の訪問
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予想もしていなかった公爵からの提案に驚く。
「お話ですか?」
「眠れないのだろう? 朝は……ゆっくり話す時間もなかったからな」
「ですが、ウェイド様は明日も早いのでは?」
「どうせ眠れないからな、気にしないでいい」
「えっ、ずっと眠ってらっしゃらないんですか?」
「あっ、そういうわけでは……」
そういえば、目のクマがひどくなっている気がしますわ。元々忙しい方なのに、私の様子を何度も見にこられてはお世話をしようとされていたから……その分業務が詰まっているのでしょうか。
「今晩は私がお世話致しますわ」
「えっ、いや。お世話って何を……」
「横になって下さいませ」
言われるがままうつぶせになる。すると、カレンは公爵の腕から背中、腰へとなぞるように揉みほぐす。
「…………っ」
「肩が……はってらっしゃるようですね」
「分かるのか?」
「東洋の本をよく読んでいましたので。実践したのは初めてですが、痛くありませんか?」
「……っ大丈夫だ」
「身体を前にしてもらえれば力加減を……」
「いや、このままで良い。この姿勢で……頼む」
「はっ、はい」
くすぐったかったかしら。
いつかエル様にするかもしれないと、何度もイメージで練習してきた。もちろん、そんな日がくることはないと分かってはいたが、それでも人間の身体にはツボがあり、それらを刺激すると病まで治るその神秘的な文化に興味があった。
まぁ、他にも呪いやお守りなど、一時は読みあさっていたものですが……まさか、役に立つ日がくるなんて。
実際、公爵の筋肉に触れ、殿方の身体が自分と違うことを実感する。
以前に抱えられた時も思いましたが、骨ばって硬いですわ。やりすぎるともみ返しがあると書いてありましたし、これくらいにしておいた方が……
「ウェイド様、今日はこれくらいで、あ……」
寝室を共にして初めて、公爵の寝顔を見る。いつもカレンが寝入るまで起きており、朝にはベッドからいなくなっていた。
仮面の公爵様も、寝顔は可愛らしいのですね……ん? 私、今何を……。ウェイド様はいわば体裁の為の夫婦なんですから、そういう感情は不要。そもそも、エル様というものがありながらなんてことを……寝なければ、これはきっと、夜中のテンション的なアレですわ。
そのまま公爵を起こさないよう、こっそりと部屋を出る。
「カレン様!? どうされたのですか?」
「いえ、少しヤドラ医師のところへ用が……」
「我々が呼んできますので、寝室でお待ちください」
当然、警備中の護衛がとんでくる。
「部屋には……ウェイド様が寝ているので、出来れば直接取りに行きたいのだけれど」
「ではお供いたします。危険ですので……」
まさか屋敷内の移動だけでも護衛がついてくるとは思わなかった。
でも夜中に医師だろうと男性のもとへ行くんですもの、ついてきてもらった方が助かりますわね。
医務室は少し離れたところにあり、夜遅くに1人で歩くには確かに物騒だ。ドアからは灯りがもれているのが分かり、まだヤドラ医師が起きていることにホッとする。
良かったですわ。わざわざ寝つきが悪い理由で薬をもらいに来たと起こすのはいかがなものかと思ってましたが、まだ大丈夫そうですわね。
「カレン様、こちらのドアは先に我々が開けますのでお下がりください」
「え?」
1人がドアの前に、もう1人が縦になるように前に立つ。
え、危険って道中ではなくて?
「ヤドラ医師は……この時間帯は趣味の時間でして……邪魔を防ぐ為にトラップを仕掛けていることが多々ありまして」
それは、どうなんですのっ!? 医務室が危険ってどういうことですの!?
「ドアを開ける前には必ずノックを。カレン様のお名前を出せば大丈夫かと思いますが念のため……」
そう言うとドアを数回叩き、中に聞こえるように要件を伝える。
「…………………………なんですか? この時間帯は緊急性がなければたとえ公爵様でも依頼は控えていただくよう伝えているんですが」
日中とは異なり、明らかに迷惑そうな顔で出てくる。
「おや、まさか次期公爵夫人が来ていただいているとは。実に光栄でございます。ささっ、どうぞ中の方へ、あぁ野郎どもはさっさと持ち場へ戻ってくれてかまわない。というより、もう不要なので。私が責任持ってお部屋までお送りするので、帰ってもらえます? オフの時間まで男の顔を見るとどうにも脳によくありませんので」
「いやしかし、そういうわけには。あっ」
護衛の言葉を遮り、カレンの手をつかむとすぐに扉を閉めてしまう。
「あの、ヤドラ医師。勤務外の時間にごめんなさい。寝つきが良くなる薬をもらったら私もすぐにおいとまさせてもらうわ」
「いいえ、美しいレディの訪問はいつでも大歓迎でございますよ。あっ、寝つきを気にされているのであれば紅茶はやめて別のお飲み物をご用意致しますね」
「お薬だけで……」
「あっ!! そういえばちょうど東洋からこんなものを入手したのですが」
そう言うと、乾燥したお茶の葉を出す。
「独特な味と香りですが、茶葉によって効果も変わるなんて、東洋の魅力は奥深いものです」
「お話ですか?」
「眠れないのだろう? 朝は……ゆっくり話す時間もなかったからな」
「ですが、ウェイド様は明日も早いのでは?」
「どうせ眠れないからな、気にしないでいい」
「えっ、ずっと眠ってらっしゃらないんですか?」
「あっ、そういうわけでは……」
そういえば、目のクマがひどくなっている気がしますわ。元々忙しい方なのに、私の様子を何度も見にこられてはお世話をしようとされていたから……その分業務が詰まっているのでしょうか。
「今晩は私がお世話致しますわ」
「えっ、いや。お世話って何を……」
「横になって下さいませ」
言われるがままうつぶせになる。すると、カレンは公爵の腕から背中、腰へとなぞるように揉みほぐす。
「…………っ」
「肩が……はってらっしゃるようですね」
「分かるのか?」
「東洋の本をよく読んでいましたので。実践したのは初めてですが、痛くありませんか?」
「……っ大丈夫だ」
「身体を前にしてもらえれば力加減を……」
「いや、このままで良い。この姿勢で……頼む」
「はっ、はい」
くすぐったかったかしら。
いつかエル様にするかもしれないと、何度もイメージで練習してきた。もちろん、そんな日がくることはないと分かってはいたが、それでも人間の身体にはツボがあり、それらを刺激すると病まで治るその神秘的な文化に興味があった。
まぁ、他にも呪いやお守りなど、一時は読みあさっていたものですが……まさか、役に立つ日がくるなんて。
実際、公爵の筋肉に触れ、殿方の身体が自分と違うことを実感する。
以前に抱えられた時も思いましたが、骨ばって硬いですわ。やりすぎるともみ返しがあると書いてありましたし、これくらいにしておいた方が……
「ウェイド様、今日はこれくらいで、あ……」
寝室を共にして初めて、公爵の寝顔を見る。いつもカレンが寝入るまで起きており、朝にはベッドからいなくなっていた。
仮面の公爵様も、寝顔は可愛らしいのですね……ん? 私、今何を……。ウェイド様はいわば体裁の為の夫婦なんですから、そういう感情は不要。そもそも、エル様というものがありながらなんてことを……寝なければ、これはきっと、夜中のテンション的なアレですわ。
そのまま公爵を起こさないよう、こっそりと部屋を出る。
「カレン様!? どうされたのですか?」
「いえ、少しヤドラ医師のところへ用が……」
「我々が呼んできますので、寝室でお待ちください」
当然、警備中の護衛がとんでくる。
「部屋には……ウェイド様が寝ているので、出来れば直接取りに行きたいのだけれど」
「ではお供いたします。危険ですので……」
まさか屋敷内の移動だけでも護衛がついてくるとは思わなかった。
でも夜中に医師だろうと男性のもとへ行くんですもの、ついてきてもらった方が助かりますわね。
医務室は少し離れたところにあり、夜遅くに1人で歩くには確かに物騒だ。ドアからは灯りがもれているのが分かり、まだヤドラ医師が起きていることにホッとする。
良かったですわ。わざわざ寝つきが悪い理由で薬をもらいに来たと起こすのはいかがなものかと思ってましたが、まだ大丈夫そうですわね。
「カレン様、こちらのドアは先に我々が開けますのでお下がりください」
「え?」
1人がドアの前に、もう1人が縦になるように前に立つ。
え、危険って道中ではなくて?
「ヤドラ医師は……この時間帯は趣味の時間でして……邪魔を防ぐ為にトラップを仕掛けていることが多々ありまして」
それは、どうなんですのっ!? 医務室が危険ってどういうことですの!?
「ドアを開ける前には必ずノックを。カレン様のお名前を出せば大丈夫かと思いますが念のため……」
そう言うとドアを数回叩き、中に聞こえるように要件を伝える。
「…………………………なんですか? この時間帯は緊急性がなければたとえ公爵様でも依頼は控えていただくよう伝えているんですが」
日中とは異なり、明らかに迷惑そうな顔で出てくる。
「おや、まさか次期公爵夫人が来ていただいているとは。実に光栄でございます。ささっ、どうぞ中の方へ、あぁ野郎どもはさっさと持ち場へ戻ってくれてかまわない。というより、もう不要なので。私が責任持ってお部屋までお送りするので、帰ってもらえます? オフの時間まで男の顔を見るとどうにも脳によくありませんので」
「いやしかし、そういうわけには。あっ」
護衛の言葉を遮り、カレンの手をつかむとすぐに扉を閉めてしまう。
「あの、ヤドラ医師。勤務外の時間にごめんなさい。寝つきが良くなる薬をもらったら私もすぐにおいとまさせてもらうわ」
「いいえ、美しいレディの訪問はいつでも大歓迎でございますよ。あっ、寝つきを気にされているのであれば紅茶はやめて別のお飲み物をご用意致しますね」
「お薬だけで……」
「あっ!! そういえばちょうど東洋からこんなものを入手したのですが」
そう言うと、乾燥したお茶の葉を出す。
「独特な味と香りですが、茶葉によって効果も変わるなんて、東洋の魅力は奥深いものです」
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