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18.秘密の研究
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ヤドラ医師が東洋に関心があることに驚く。まだ未発達な地の為か、文化そのものを卑下する者が多い。まして医療に携わる者なら余計にだ。
「東洋のお茶、と言ったかしら?」
「えぇ。この茶葉には身体を温め安眠効果があったりとかなり優れものなんですよ。もし、嫌であればカモミール茶もありますが……」
「いいえ、そちらの茶葉の方をいただくわ」
入れ物も本でしか見たことがなかった取っ手のない容器に入れられている。不思議と熱くはなく、そのまま素手で持てる。
「ん、落ち着く味だわ」
「おおっ、分かってくれますか!! 実は私、世界中の医術を研究するのが趣味と言っても過言ではないてのですが、最近は東洋にハマっておりまして。知れば知るほど奥の深いものなんですよ。医学とは少し外れるのですが、ほら!! こちらは何に使うと思いますか?」
ヤドラ医師は興奮したように白い塊を差し出す。
「ええと、塩かしら」
「なんと!? そのとおりでございます。まさか東洋の文化にご興味が!?」
「少しだけ……本で読んだ程度だけど」
「いいえっ!! この場合、皆さん砂糖と思うのが一般的です。東洋と聞いてすぐに塩を思いつく方はめったにいらっしゃいません。まさかリドル家の次期奥様が東洋にご理解ある方だとは……この家にお仕えして以来最大級の喜びを感じております」
それはそれでいいのかと思いながらも、茶葉よりも塩にヤドラ医師が興味を示していることに気づく。昼間も散らかっていた部屋だったが、今はそれよりも更に、机いっぱいに『はかり』や様々な種類の塩、紙の束が置かれている。
「そっ、そう。でも、なぜ塩なのかしら」
「そうですね。最初は薬草や茶葉に手を出していたのですが、興味深いことに東洋ではこの塩が様々な症状に効くようなんです」
「塩が?」
「えぇ、こちらの医学でも塩のとりすぎは問題視されていますが、不足もまた体調不良の一因になります。特に暑さの厳しい東洋では汗をかく量が多く、水と塩をなめることで身体のバランスを保っているのだとか」
「それは面白いわね」
「えぇ。ですがもう一つの役割はご存知でしょうか?」
ヤドラ医師は少し声のトーンを下げ、まさにこれが趣味の真骨頂だと言わんばかりの笑みを浮かべている。
「清めるでございます」
「清める?」
「えぇ、私は医学を学ぶ身ですが、世の中にはまだ解決出来ない病は山ほどございます。そのうちの1つに、霊障というのがあるのはご存知でしょうか?」
ヤドラ医師の言葉にカレンは首を横にふる。初めて効く言葉だ。
「簡単に言いますと、体調不良の原因が病によるものではなく、目には見えないものだった時、塩で清めるようなのです」
「それは、幽霊ってことかしら」
「そうですね。ただ、最近私が調べていますのが、生き霊でございます」
生き霊? 霊なんて死んだ者の話ではないのかしら? それに、さすがにそこまで非科学的な話は理解が難しいですわね。
「おっと、失礼。つい同士を見つけ感動のあまり少々深いところまでお話ししてしまったようで……ご心配されなくても大丈夫です。私が研究するのはあらゆる可能性から診る為の知識集めに過ぎません。何しろこのリドル家は、いえ旦那様はかなり不特定多数の女性ファンがいらっしゃるようですので、その執念に害がないかの検証といったところですよ。ハハハ」
カレンの反応を見て話し過ぎたと気づいたのか、ヤドラ医師はすぐに話題を終える。先ほど飲んだお茶と相性のいい安眠効果のある薬を渡すと、寝室まで送り別れた。
生き霊って……生きた人間が取り憑くってことなのかしら。執念って強い想いってことですわよね。それが本当なら、私のエル様への想いが害を与えているなんて可能性は……
そこまで考えたところで、強い睡魔とともに眠りについてしまった。
「カレン様、そろそろ起きられますか?」
いつもは自然と目が覚めるが、昨夜は夜更かししたからか、ミクリに声をかけられるまで眠ってしまっていた。
「う……ん、えぇと、ウェイド様は……?」
少し頭がぼやけるが、すぐに公爵がいないことに気づく。いつもならカレンが起きるのをソファに腰かけながら待っているが、今日は見当たらないようだ。
「旦那様はいつもよりも早く仕事の塔に行っております。カレン様をあとで起こすようにと承っております」
「そう、お願いするわ」
最近では着替え以外の朝の身支度は公爵が手伝ってくれていたが、今日はミクリが動く。
「ウェイド様のご様子はどうだったのかしら?」
「なんでも久しぶりにスッキリしたからと、朝イチで書斎に向かわれています」
良かったですわ。昨日のマッサージがお役に立てたようですわね。
いつもより遅めの朝食には、豪勢な食事が運ばれる。
「ええと、これは?」
「腕によりをかけてお作りさせていただきました」
「でもこんなに……」
「旦那様よりカレン様のお口に合うようにと我々精神誠意、心を込めてお作りさせてもらっています」
「あの、ウェイド様は……」
「それが、今日は先に召し上がっておりまして。カレン様との夕食には必ず間に合わせるとの言伝でございます」
朝から重めのメニューが並ぶテーブルの横で、特に料理長の切実な視線を感じながら、あとでもう一度胃薬をもらわなくてはと覚悟を決めた。
「東洋のお茶、と言ったかしら?」
「えぇ。この茶葉には身体を温め安眠効果があったりとかなり優れものなんですよ。もし、嫌であればカモミール茶もありますが……」
「いいえ、そちらの茶葉の方をいただくわ」
入れ物も本でしか見たことがなかった取っ手のない容器に入れられている。不思議と熱くはなく、そのまま素手で持てる。
「ん、落ち着く味だわ」
「おおっ、分かってくれますか!! 実は私、世界中の医術を研究するのが趣味と言っても過言ではないてのですが、最近は東洋にハマっておりまして。知れば知るほど奥の深いものなんですよ。医学とは少し外れるのですが、ほら!! こちらは何に使うと思いますか?」
ヤドラ医師は興奮したように白い塊を差し出す。
「ええと、塩かしら」
「なんと!? そのとおりでございます。まさか東洋の文化にご興味が!?」
「少しだけ……本で読んだ程度だけど」
「いいえっ!! この場合、皆さん砂糖と思うのが一般的です。東洋と聞いてすぐに塩を思いつく方はめったにいらっしゃいません。まさかリドル家の次期奥様が東洋にご理解ある方だとは……この家にお仕えして以来最大級の喜びを感じております」
それはそれでいいのかと思いながらも、茶葉よりも塩にヤドラ医師が興味を示していることに気づく。昼間も散らかっていた部屋だったが、今はそれよりも更に、机いっぱいに『はかり』や様々な種類の塩、紙の束が置かれている。
「そっ、そう。でも、なぜ塩なのかしら」
「そうですね。最初は薬草や茶葉に手を出していたのですが、興味深いことに東洋ではこの塩が様々な症状に効くようなんです」
「塩が?」
「えぇ、こちらの医学でも塩のとりすぎは問題視されていますが、不足もまた体調不良の一因になります。特に暑さの厳しい東洋では汗をかく量が多く、水と塩をなめることで身体のバランスを保っているのだとか」
「それは面白いわね」
「えぇ。ですがもう一つの役割はご存知でしょうか?」
ヤドラ医師は少し声のトーンを下げ、まさにこれが趣味の真骨頂だと言わんばかりの笑みを浮かべている。
「清めるでございます」
「清める?」
「えぇ、私は医学を学ぶ身ですが、世の中にはまだ解決出来ない病は山ほどございます。そのうちの1つに、霊障というのがあるのはご存知でしょうか?」
ヤドラ医師の言葉にカレンは首を横にふる。初めて効く言葉だ。
「簡単に言いますと、体調不良の原因が病によるものではなく、目には見えないものだった時、塩で清めるようなのです」
「それは、幽霊ってことかしら」
「そうですね。ただ、最近私が調べていますのが、生き霊でございます」
生き霊? 霊なんて死んだ者の話ではないのかしら? それに、さすがにそこまで非科学的な話は理解が難しいですわね。
「おっと、失礼。つい同士を見つけ感動のあまり少々深いところまでお話ししてしまったようで……ご心配されなくても大丈夫です。私が研究するのはあらゆる可能性から診る為の知識集めに過ぎません。何しろこのリドル家は、いえ旦那様はかなり不特定多数の女性ファンがいらっしゃるようですので、その執念に害がないかの検証といったところですよ。ハハハ」
カレンの反応を見て話し過ぎたと気づいたのか、ヤドラ医師はすぐに話題を終える。先ほど飲んだお茶と相性のいい安眠効果のある薬を渡すと、寝室まで送り別れた。
生き霊って……生きた人間が取り憑くってことなのかしら。執念って強い想いってことですわよね。それが本当なら、私のエル様への想いが害を与えているなんて可能性は……
そこまで考えたところで、強い睡魔とともに眠りについてしまった。
「カレン様、そろそろ起きられますか?」
いつもは自然と目が覚めるが、昨夜は夜更かししたからか、ミクリに声をかけられるまで眠ってしまっていた。
「う……ん、えぇと、ウェイド様は……?」
少し頭がぼやけるが、すぐに公爵がいないことに気づく。いつもならカレンが起きるのをソファに腰かけながら待っているが、今日は見当たらないようだ。
「旦那様はいつもよりも早く仕事の塔に行っております。カレン様をあとで起こすようにと承っております」
「そう、お願いするわ」
最近では着替え以外の朝の身支度は公爵が手伝ってくれていたが、今日はミクリが動く。
「ウェイド様のご様子はどうだったのかしら?」
「なんでも久しぶりにスッキリしたからと、朝イチで書斎に向かわれています」
良かったですわ。昨日のマッサージがお役に立てたようですわね。
いつもより遅めの朝食には、豪勢な食事が運ばれる。
「ええと、これは?」
「腕によりをかけてお作りさせていただきました」
「でもこんなに……」
「旦那様よりカレン様のお口に合うようにと我々精神誠意、心を込めてお作りさせてもらっています」
「あの、ウェイド様は……」
「それが、今日は先に召し上がっておりまして。カレン様との夕食には必ず間に合わせるとの言伝でございます」
朝から重めのメニューが並ぶテーブルの横で、特に料理長の切実な視線を感じながら、あとでもう一度胃薬をもらわなくてはと覚悟を決めた。
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