狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

文字の大きさ
24 / 49

24.初めてのご招待

しおりを挟む
「ウェイド様!!」

 部屋に戻ると、一瞬満面の笑みを浮かべ、慌ててすぐに表情を戻す彼女が出迎える。


 あぁ、今の笑顔可愛かったな……

「どうした?」

「ふふっ、思ったよりも早くお返事がもらえたんですの」

 その手紙にはブラン家の紋章が入っている。

「ニーナ伯爵夫人がお茶に来てくださるんです」

「そうか」

「はい」

「…………」

「あの、ブラン家のお屋敷が近いこともあって、いつでも来てくださるみたいなんですけど」

「そうか」

「いつが良いかと思いますか?」

「?」

「あっ、いえ。ウェイド様にも是非ご挨拶をとお返事に書かれているのですが、ご都合はいかがでしょうか?」

「それならいつでも構わない」

「そう、ですわよね。では、さっそく週末にでも……いえ、明日にでもお呼びいたしますわ!!」

「そうか」


 なぜかこちらの表情を伺うように話す姿に、まだ客人として遠慮しているのではないかと気づく。

「カレン、この屋敷はもう自分の住まいだと思って過ごして欲しい。僕の妻は君だけだ」

「分かっておりますわ」

「そっ、そうか………分かっているのならいい…」

 思ったよりも肩すかしをくらったような返事が返ってきたが、彼女が遠慮していないのであればそれにこしたことはない。


 彼女がこの土地で親しい友人が出来ることは僕としても喜ばしい。ブラン伯爵はその仕事の能力で評価しているが、領地が近く同じ年頃の妻がいるという点も大きかった。


 しかし、明日呼ぶとは、よほど早急に話したいことがあったのか? 僕がエル伯爵に彼女との関係を相談しようとしたように、彼女も同じなのか?

 まずい。そんなに急ぐほどの深い悩みが!?

 なぜだ!? 婚約を急いだことか? 屋敷に匿ったというのに、不審者を入れる失態のせいか!? それとも、僕と同室で息が詰まっているとか……

「心当たりが多すぎる……」

 これは、すぐに対応しなければ。








「ミクリさん!! 明日にはニーナ伯爵夫人をお出迎えするから、頼んでいたお茶を出しててくれる?」

 まさか、こんなにすぐに返事が来るなんて。彼女からすれば大きな仕事を夫が任されたのだから、妻として付き合いをよくしようとするのも理解できますが。

 それでも、明日だなんて、急だったでしょうか……ですが、ウェイド様は婚約パーティでエル様を会わせて下さっただけではなく、何度も屋敷に来ても不自然ではない関係をすぐに構築されましたもの!! 私だって、いい加減ウェイド様のお役に立たなければ申し訳が立ちませんわ。


 そう、こんなに元気がもらえるのですから。

 エル様を初めてお近くで見た時、遠い地で1人で来た不安など飛び去った。2度目の拝顔では、この方に会う為ならどんな試練でも受け入れる覚悟が出来た。

 きっと、ウェイド様も公爵としての重圧の日々のプレッシャーを癒されたいと思っていられるはずですわ。私がウェイド様の妻として、しっかりその役割をこなさなければいけませんわね。


「そうと決まれば、あたためていた計画をさっそく実行ですわ」


 貴婦人たちを集めるお茶会は、まだ婚約者である立場で、リドル家に招待など出来るわけがない。まして、正式に夫婦になるまでは、暗殺者すら送られる可能性があるのだから、来客を呼ぶことも前例がない。だが、相手が既に公爵が領地の管轄を任せる契約をしたエル・ニシェード・ブランの妻であれば公爵の仕事をサポートする意味をなす。暗殺とまではいかなくとも、婚約者であるカレンの失脚を狙う者も多い。

 カレンがニーナ伯爵夫人を招待しても、外聞上でも問題ない。

 そこまで考えられているなんて、さすがですわ。当然、エル様の仕事ぶりあってのことでしょうけど。




「カレン様、そろそろお休みになられては?」

 話自体は急ではなく、以前から部屋の飾り付けやお茶菓子の取り寄せなどはしており、使用人達がそこまでばたつくことはなかった。だが、当のカレンが入念なチェックで遅くまで休もうとしなかった。

「そうね、もうこんな時間!? ありがとう。もう部屋に戻るわ」

 いつもなら公爵が部屋に戻るのを待つ側だったが、今夜は珍しく先に寝入っているようだ。


 さすが、公爵家ともなると心待ちが違うのですわね。私なら明日エル様に会えると考えるだけで寝れなさそうですのに。

 そのまま起こさないようにそっとベッドに入る。こうして公爵の寝顔を見るのはツボ押しをして以来だ。

「また落ち着いたら、触れてもいいのでしょうか」

 前髪を少しだけつまんでみる。

「…………」

「明日は私、頑張りますから」

 張り詰めていた気持ちが一気にゆるむ。そのまま深い眠りについていた。




「うーーん」

 昨夜遅く寝入ったからか、いつもよりも遅めに目を覚ます。当然、公爵はいない。

「っ!! 寝過ごしましたわ……朝食……は食べている時間はないですわね」

 いつも朝食は一緒に食べる。約束したわけではないが、いつのまにか2人のルーティーンとなっていた。


「今日は、ウェイド様の為ですのでっ」

 そのままあらかじめ決めていた衣装、ヘアデザインをしてもらう予定だったが、どうやら侍女達が盛り上がってアレンジを加えたようだ。

「カレン様っ、とてもお綺麗ですわ」

 その完成の美しさに、いつもは表現の大きいミクリでさえも、息をのむ。



「……本当ね。でも、申し訳ないのだけど、もう少し落ち着いた感じに直してくれるかしら」

「どっ、どうしてですか? 本当に、リドル家の奥様としての気品と美しさが溢れ出ていらっしゃいますのに」

「私はまだ婚約者よ。ここまで着飾るのは気が引けるわ。それに、私だけ気合いの入った格好では、急に今日招待した伯爵夫人に嫌味に見えてしまうわ」

 それに、今日の主役はニーナ伯爵夫人ですもの。彼女より目立っては、ウェイド様にも合わす顔がありませんわ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

そして鳥は戻ってくる

青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。 同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。 3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。 そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。 その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。 *荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。 *他のサイトでも公開します *2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...