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26.同志
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ニーナ伯爵夫人がの顔は青ざめ、手を震わせながら涙を流す。
「えっ、えっ!?」
「わだじ、ひぃっぐ……うぅっ」
なぜ彼女が泣いているのか混乱するが、すぐに唇が腫れてくる異変に気づく。
「まさか、アレルギーをお持ちなのですか!?」
「ア……アデドゥギー?」
口の中も腫れているのだろう。上手く喋れない彼女の様子に心当たりがある。東洋の本の中で、身体の免疫が過剰に反応することで痒みや腫れを引き起こすと書いてあったことを思い出す。
すぐになんとか飲み込もうとする彼女の手を取ると、ナプキンに吐き出すよう声をかける。
「飲みこまずに、早く吐き出してくださいっ!!」
「ううっ」
なかば強引に口の中に残っていた残りをぬぐうと、彼女の背中をさすりながら声をかける。
「大丈夫ですわ、落ち着いて……息は出来ますか?」
ゆっくりと声をかけ、彼女が落ち着くのを待つ。涙をぬぐうと、ようやく落ち着いたのか、静かに頷く。
「良かったですわ。すぐに医師を呼びますわ」
気兼ねなく話せるよう侍女達は下がらせていた為、急いでミクリを呼ぶ。部屋に入ってきた彼女はニーナ伯爵夫人の腫れた唇にすぐに気づき、一瞬目を見開くがヤドラ医師を呼びにいく。その間に、他の侍女達が割れたお皿を片付け、怪我をしないよう綺麗にする。
「失礼します」
今日ほどヤドラ医師を頼もしく思った瞬間はない。普段走るなんてことしないだろう彼が、息を切らして部屋にかけつける。深呼吸をして瞬時に呼吸を整えたかと思えば、ニーナ伯爵夫人に膝まずき、口の中を確認する。
「侍女頭ちゃん、伯爵夫人の口を指で軽く開いてくれる?」
「はいっ」
医師といえど、夫の許可なく身体に触れることは御法度だ。まだ新婚の彼女の評判に関わる可能性がある。
「うん、大丈夫。すぐに食べるのをやめたから、身体の中に入ったのはごく少量のようですね。腫れも口の中だけのようですし。侍女頭ちゃん、念のためこれで胸がヒューヒューと音がしないか確認してくれる?」
「分かりました」
渡された聴診器を教えられたとおりに使い、音の確認を行う。
「音は聞こえないようです」
「ありがとう。助かったよ」
「いえ」
本来なら助手役がするのだろうが、あいにく医療班は解散している為、ヤドラ医師の指示でミクリが対応しことなきを得た。
「念のため口をゆすいで、30分は飲食を控えて下さい。次期公爵夫人が口の中の残物を取り除いて下さったおかげで、この程度で済んだようですね」
カレンが手に持っていたナプキンに目をやると、まるで誰かに言い聞かせるように話す。
「カレン様、あ、ありがとうございます」
少し腫れが落ち着いたのか、ニーナ伯爵夫人がお礼を言う。
「大事にならなくて良かったですわ……せっかくお招き致しましたのに、まさかアレルギーがあるなんて……ちゃんと確認すべきでしたわ。ごめんなさい」
「っ!? いっ、いいえっ!! その……アレルギー? というのは初めて知りましたが……幼い頃から、菓子を食べますと、体調を崩すので……お茶会では怖くて固まってしまうことが多くて……好き嫌いだと……それが原因で他の方と上手くなじめませんでしたので」
だからあんなに不安そうでしたのね。きっと、エル様のお役に立とうと頑張って来てくれたんですわ。なんて立派な方なのかしら。同じくエル様の幸せを応援する一員として、これほど心強い妻役はいませんわ。知らなかったとはいえ、命に関わるアレルギーにすら立ち向かうなんて……
そっとニーナ伯爵夫人の手を握りしめる。
「ニーナ伯爵夫人……いいえっ、ニーナさん!! あなたのその妻としての覚悟、大変ご立派ですわ。ニーナさんさえ良ければ、是非今後とも仲良くさせていただきたいですわ」
そうっ、エル様の幸せを願う同士として。
「カレン様……もちろんでございます。私、せっかくのご招待を台無しにしてしまいましたのに……宜しいのですか?」
「当たり前ですわ。それに、ニーナさんには私も助けてもらっていますもの」
「私が、ですか?」
あなたをこの屋敷に呼べる程度の仲になれれば良いと思っていましたが、大きな間違いでしたわ。
ニーナさんが笑う=エル様が幸せになる=私の眼福が増える、かつ、ウェイド様もニーナさんの幸せを喜ぶ=私の役割成功、ですわ。
私だって、いくらエル様に会う機会が増えてもお辛そうな姿はこの身が引き裂かれる思いですもの。
実際に、ニーナ伯爵夫人の前で幸せそうに微笑む姿は一瞬で顔面が崩壊しそうになるほどのパンチ力があった。
「それにしても、たった一口でこんなに症状が重いのであれば、今までも危なかったのでは?」
思わぬ形で友情を深めていたところ、ヤドラ医師が口をはさむ。
「えっ、えぇ。お茶会に呼ばれなくなったので、お菓子を口にする機会が減ったのもありますが、大人になってからは練習で何度か食べてもここまでひどくなることもなかったのですが」
そう言って、改めて申し訳なさそうにする彼女にヤドラ医師はさりげなく吐き出したお菓子のかけらを包んだナプキンを回収すると
「体調やアレルギーの原因となる物質の量にもよりますので、どうか今後もお気をつけてください。それと、練習しても治るものではありませんので、今後はそのような行為はお控え下さい」
ヤッ、ヤドラ医師がちゃんと医師の仕事をしています
外向きの顔でミクリを当たり前のように助手で使うなど、気になる点は多いが、ちゃんとした医師の対応に驚いてしまう。
私には初めから図々し……フランクだった気もしますが。
「えっ、えっ!?」
「わだじ、ひぃっぐ……うぅっ」
なぜ彼女が泣いているのか混乱するが、すぐに唇が腫れてくる異変に気づく。
「まさか、アレルギーをお持ちなのですか!?」
「ア……アデドゥギー?」
口の中も腫れているのだろう。上手く喋れない彼女の様子に心当たりがある。東洋の本の中で、身体の免疫が過剰に反応することで痒みや腫れを引き起こすと書いてあったことを思い出す。
すぐになんとか飲み込もうとする彼女の手を取ると、ナプキンに吐き出すよう声をかける。
「飲みこまずに、早く吐き出してくださいっ!!」
「ううっ」
なかば強引に口の中に残っていた残りをぬぐうと、彼女の背中をさすりながら声をかける。
「大丈夫ですわ、落ち着いて……息は出来ますか?」
ゆっくりと声をかけ、彼女が落ち着くのを待つ。涙をぬぐうと、ようやく落ち着いたのか、静かに頷く。
「良かったですわ。すぐに医師を呼びますわ」
気兼ねなく話せるよう侍女達は下がらせていた為、急いでミクリを呼ぶ。部屋に入ってきた彼女はニーナ伯爵夫人の腫れた唇にすぐに気づき、一瞬目を見開くがヤドラ医師を呼びにいく。その間に、他の侍女達が割れたお皿を片付け、怪我をしないよう綺麗にする。
「失礼します」
今日ほどヤドラ医師を頼もしく思った瞬間はない。普段走るなんてことしないだろう彼が、息を切らして部屋にかけつける。深呼吸をして瞬時に呼吸を整えたかと思えば、ニーナ伯爵夫人に膝まずき、口の中を確認する。
「侍女頭ちゃん、伯爵夫人の口を指で軽く開いてくれる?」
「はいっ」
医師といえど、夫の許可なく身体に触れることは御法度だ。まだ新婚の彼女の評判に関わる可能性がある。
「うん、大丈夫。すぐに食べるのをやめたから、身体の中に入ったのはごく少量のようですね。腫れも口の中だけのようですし。侍女頭ちゃん、念のためこれで胸がヒューヒューと音がしないか確認してくれる?」
「分かりました」
渡された聴診器を教えられたとおりに使い、音の確認を行う。
「音は聞こえないようです」
「ありがとう。助かったよ」
「いえ」
本来なら助手役がするのだろうが、あいにく医療班は解散している為、ヤドラ医師の指示でミクリが対応しことなきを得た。
「念のため口をゆすいで、30分は飲食を控えて下さい。次期公爵夫人が口の中の残物を取り除いて下さったおかげで、この程度で済んだようですね」
カレンが手に持っていたナプキンに目をやると、まるで誰かに言い聞かせるように話す。
「カレン様、あ、ありがとうございます」
少し腫れが落ち着いたのか、ニーナ伯爵夫人がお礼を言う。
「大事にならなくて良かったですわ……せっかくお招き致しましたのに、まさかアレルギーがあるなんて……ちゃんと確認すべきでしたわ。ごめんなさい」
「っ!? いっ、いいえっ!! その……アレルギー? というのは初めて知りましたが……幼い頃から、菓子を食べますと、体調を崩すので……お茶会では怖くて固まってしまうことが多くて……好き嫌いだと……それが原因で他の方と上手くなじめませんでしたので」
だからあんなに不安そうでしたのね。きっと、エル様のお役に立とうと頑張って来てくれたんですわ。なんて立派な方なのかしら。同じくエル様の幸せを応援する一員として、これほど心強い妻役はいませんわ。知らなかったとはいえ、命に関わるアレルギーにすら立ち向かうなんて……
そっとニーナ伯爵夫人の手を握りしめる。
「ニーナ伯爵夫人……いいえっ、ニーナさん!! あなたのその妻としての覚悟、大変ご立派ですわ。ニーナさんさえ良ければ、是非今後とも仲良くさせていただきたいですわ」
そうっ、エル様の幸せを願う同士として。
「カレン様……もちろんでございます。私、せっかくのご招待を台無しにしてしまいましたのに……宜しいのですか?」
「当たり前ですわ。それに、ニーナさんには私も助けてもらっていますもの」
「私が、ですか?」
あなたをこの屋敷に呼べる程度の仲になれれば良いと思っていましたが、大きな間違いでしたわ。
ニーナさんが笑う=エル様が幸せになる=私の眼福が増える、かつ、ウェイド様もニーナさんの幸せを喜ぶ=私の役割成功、ですわ。
私だって、いくらエル様に会う機会が増えてもお辛そうな姿はこの身が引き裂かれる思いですもの。
実際に、ニーナ伯爵夫人の前で幸せそうに微笑む姿は一瞬で顔面が崩壊しそうになるほどのパンチ力があった。
「それにしても、たった一口でこんなに症状が重いのであれば、今までも危なかったのでは?」
思わぬ形で友情を深めていたところ、ヤドラ医師が口をはさむ。
「えっ、えぇ。お茶会に呼ばれなくなったので、お菓子を口にする機会が減ったのもありますが、大人になってからは練習で何度か食べてもここまでひどくなることもなかったのですが」
そう言って、改めて申し訳なさそうにする彼女にヤドラ医師はさりげなく吐き出したお菓子のかけらを包んだナプキンを回収すると
「体調やアレルギーの原因となる物質の量にもよりますので、どうか今後もお気をつけてください。それと、練習しても治るものではありませんので、今後はそのような行為はお控え下さい」
ヤッ、ヤドラ医師がちゃんと医師の仕事をしています
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