狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

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38.殿下と公爵

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「アイリン、こちらへ来なさい。お互い初めてではないだろうが、せっかくリドル家当主が来てくださったのだ。ご挨拶を……」

 娘が近づいてきたのが嬉しいのか、満面の笑みでこちらへと手招きをする。

「ウェイド様、お久しぶりですわ。お互い立場上なかなかお会いできず……こんな形での久しぶりの再会、本当に、タイミングが合えばその隣には私だったかもしれないですわっ、ふふっ。なんて、冗談ですけど」

 含みのある言い方で、あくまでも自分の方はそこまで興味はないと主張したいのだろう。

「えぇ、もちろん、分かってますよ。タイミングがどれほど重要か。僕は彼女と出会えたことに感謝していますから」

 そう言って肩を更に引き寄せる。

「…………」

 アイリン殿下の反応を見る限り、内心穏やかではないのが分かる。

「紹介が遅れ申し訳ございません。彼女は婚約者のカレンです」

「初めまして、お会い出来て光栄でございます」

 挨拶は簡潔に、あくまでも仲睦まじい様子を見せるのが目的だ。すぐに公爵の方へ視線を移し、ほほえみあう。

「ふーーん、あまり見ない顔ね。侯爵令嬢と聞いているけど、パーティでお会いするのは初めてだわ」

 うーーん、痛いところをつきますわね。でも、やっぱり私のことも調べているようですわね?

 貴族が無駄に増え、公爵より格下の貴族たちはその位にふさわしい生活を維持するのが難しく、実際はお取りつぶし限界の家が多い。カレンの実家である侯爵家も例外ではなかった。

 さすがに王族のパーティとなりますと、ドレスやアクセサリーの出費が桁違いですもの。私の家では、地方のお付き合いがやっとですわ。

「それはそうでしょう」

 公爵がすぐに切り返す。

「彼女は王都からかなり離れた地方に住んでいますし、何より、アイリン殿下のパーティのような華やかな場には僕でも恐縮しますから」

 華やか、という言葉に気を良くするが、実際、公爵自身もアイリン殿下の直接の招待状にはほとんど応じたことがなかった。その為、これ以上この話題は深掘りしない方が彼女にとっても良いはずだ。

「まぁ、いいですわ。出来ればご相談があるんですけど、お連れの方は遠慮してくれるかしら? まだ正式に公爵夫人ではない方には、重要な話し合いは聞かれたくなくて。ほら、お金目的での婚約関係なんて、実家の傾きのせいで破談になる、なんてよくある話でしょう?」

 そう言って公爵の反対側の腕を組む。

「リドル家の当主なら、リスク回避の為だと分かってくださりますわね?」

 そのまま横目でカレンを見ると、その腕から手を離すようにと圧をかけているのが分かる。

「…………」

「……失礼ですが、殿下」

 そう言うとアイリン殿下の手を離すと、そのままカレンとともに一歩下がる。

「今日は友人夫婦とともに参加しておりますし、政治の話であれば日を改めて陛下も交えてお話ください。このような人目の立つ場でそのような話は国家反逆の噂に発展することもございますから」

 陛下の弟といえど、王位継承権は高くない。元々ダガレ殿下は愛娘のアイリン殿下のことになると、金に糸目もつけず、あと先考えないことで有名だ。娘が皇女になりたい、なんてわがまますら叶えるのではと噂され、その甘さに、実際陛下にきつくお叱りを受けたほどだ。

「人の噂の怖さは良くご存知でしょう? ダガレ殿下?」

「そうだな。なに、大した話ではないのだ。ハハハ、久しぶりに会った君と少しゆっくり話したかっただけだろう? アイリン?」


 父からの思わぬ裏切りに、明らかに機嫌が悪くなる。

「っ、お父様……えぇ。そうですわね」

「そうですか、では僕たちはこれで失礼します。行こうか、カレン」

「えぇ」

「あぁ、そうだ。ダガレ殿下」

「なんだ?」

「式の許可がまだ降りてないようでして、陛下へ進言していただきますか? なぜか返信がない状況でして」

「……婚約を急がれたのですから、もう少しお時間を設けられた方がいいのでは? 女性には心身ともに時間が必要ではありませんか?」

 父であるダガレ殿下を遮って、アイリン殿下が頬をひきつかせながら答える。

「時間? それなら、十分に。だろう?」

「やだ、大勢の方がいますのに。そのような……止めてくださいませ」

 彼女の血管が一気に浮き出るところを見ると、完全にキレたのが分かる。

 きっと、体裁を重んじる公爵であれば、同じ屋敷にいても、正式な夫婦になるまでは手を出さないと信じていたのだろう。


 まぁ実際には何もされてませんが。何も……


 キスを思い出し、思いがけず顔が赤くなる。

 その様子に、アイリン殿下はますます血管が浮き出る。

「………………」

「では宜しくお願いします」

「あぁ……」

 愛娘の様子を気にするダガレ殿下に別れを告げると、エル伯爵夫婦のもとへ合流する。

「おかえりなさいませ」

「先に頂いています」

 ワインを片手に挨拶するエル様と、カレンが帰ってきたことに顔を輝かせるニーナ夫人。

 なるほど、味方がいるというのは精神的にも救われますわね。



 そのあとは何か起こる様子もなく、音楽が流れる中パーティを楽しむ。

「何っ? 陛下が来られる?」

 王家の紋章が入った急ぎの手紙を確認する。予定のなかった陛下の訪問に、ダガレ殿下が慌てて公爵を呼んだのだ。兄弟といっても、問題ばかり起こすダガレ殿下のパーティに来るなどありえない事態だ。少しでも機嫌を取るため、ウェイド公爵に声をかけたのだろう。

「だが……」

「大丈夫ですわ。人目のつく場所にいますし、陛下がいらっしゃるのであれば大人しくしているかと」

 紋章を見るが、確かに本物だ。陛下の手紙を偽ることがあればさすがのダガレ殿下もただではすまない。

「私がお2人をお守りします」

 エル伯爵の言葉に、ようやく公爵は案内についていく。


「さて、何か食べ物をとってきましょうか?」

「自分で選びますわ。だってこんなにも見たことのない食べ物がたくさんですもの!!」

「君はそう言うと思っていたよ。では、公爵夫人には何をお取り致しましょうか?」

「!!!!」

 エル様が私のエスコートをして……ダメよ。今日は集中しなければいけないのよ!! たとえエル様が私に食べ物をとってくれるとしても、そんな甘いエサに釣られちゃダメ……断るのよ。ニーナさんのように自然な雰囲気で!!

「けっ」

「け?」

~~~~っ、言うのよ、カレン!! 結構ですって伝えるのですわ!!

「……ケーキを少し」

「分かりました。あの辺りからでよろしいですか?」

「はい……」

 ダメでしたわ。だって、天使のような微笑みで見つめられて断るなんて出来ませんもの。

 指差したケーキはすぐのところの為、一瞬離れる。ニーナ夫人は興奮したように色とりどりの食材を美味しそうに口にし、幸せそうだ。



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