狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

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41.本音と恋心

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 そのまま出口に向かおうとしたその時、アイリン殿下が叫ぶ。

「待ちなさいよっ!!」


 これには内心驚いた。まさか、陛下もいるこの場で人目もはばからずに声を出されるとは。

 ウェイド医師を押し除けるように立ち上がると、カレンたちの方へと近づいてくる。その右手からは出血したのかいつのまにか白い布が巻かれている。

「……私のパーティだというのに、会場に入る前から上着を羽織ってくるなんてどういうつもり!?」

「? あの、これは私の上着ではなく、ウェイド様の服ですので、コートでは……」

 女性の場合、上着は入り口で使用人に預けるのがマナーだ。だが、殿方のジャケットはコーデそのものであり、それを脱ぎ着してもマナー違反にはならないはずだ。

「ふざけないで!! 私への当てつけでしょうっ!! 恋仲まで噂された私とウェイド様が絵になるからって、嫉妬でもしたんでしょうけど。だからって会場入りからそんなあからさまな見せつけ。侮辱としか思えないわ!!」

「???」

 興奮しているのか、殿下の呼吸が荒い。

 ……殿下が、何を言っているのか分かりませんわ。なぜそのような勘違いを? むしろ、私がエル様のジャケットをニーナさんが着ていようものなら、どうにかしてそれを触らせてもらえないかとか、私物が見れて嬉しいとか、むしろ有頂天になりそうですのに。
 
「……ウェイド様、降ろしてくださりますか?」

「しかし……」

「大丈夫ですわ」

 このまま放置すれば、何をされるか分からない。

 次の作戦なんて言ってられません。

「畏れ多くも、殿下……誤解でございます」

「なんですって」

「確かにこの上着はウェイド様よりお借りしたものですが、決して他意はございません。もし殿下がこの上着が気にいらないとおっしゃるのでしたら、すぐにでも脱ぎます」

 そう言って、すぐに上着を脱ぐ。陛下がいる手前、周りは一定の距離をとって離れているが、ずっと上着で隠れていたカレンの格好に思わず感嘆の声が上がる。

「まぁ、リドル家の婚約者とはどんな方かと思っていたましたがこんなに……」

「いやはや、噂とは信じられませんな。婚約パーティに参加した者からは公爵夫人にしては冴えないと聞いていたが……」

「お美しいですわ……」

「ねぇ、アイリン殿下より目立ってないですこと? それも、こちらの方が品が良いような」

「しぃっ、聞こえるわよ」


 周りの声など聞こえていないが、カレンの報告書よりも輝く華やかなドレス姿に、アイリン殿下は唇を噛みしめる。自分よりも身分も、資産も、容姿さえ下だと見下していた彼女がまさかこんなに目立つとは。


「あなた……っう」

 嫉妬が大きくなるほど、殿下は苦しそうに胸をおさえる。うずくまる殿下に、思わず駆けつけそうになる。

「殿下!?」

 真っ青な顔をしている。ヤドラ医師も動こうとするが、すぐに断られる。

「近づかないで!!」

 そう言うと、もはや平静など保てない形相でカレンの目の前まで来る。

「分かっているわよ。あなた、彼を好きなフリしているのでしょうっ」

「っ!?」

「愛なんて分かっていない貧乏貴族が、お金欲しさに近づいたなんて調べはついているんだから」

「なっ、私だって愛がなにかくらい分かっていますわ。殿下こそ、本当に愛されているのなら身を引くべきでは?」

 先ほどの飲み物に入った毒が効いているのか、気持ちがいつもよりも高ぶっていくのが分かる。殿下の方も、呼吸があらく、声こそ抑えているが、感情を表に出している。

「身を引く? 私は高貴な王族よ。むしろ私こそ彼にふさわしいの。彼から来るべきなのに、どうしてこんな愚かな判断をしたのかしら。男としてはひ弱なのかしら」

「っ!! ウェイド様を悪く言うなんて許しませんわ。彼は立派な方なんです。愚かな判断なんてしませんっ!! それに、誰よりも行動派なんですから、ひ弱なんかじゃありませんわ!!!!」

「私を手に入れたい男なんてどれほどいると思うのよっ!? 彼はそのチャンスを物にできなかったまぬけな男よ。だから、あなただって彼を愛しているふりをしているのでしょう」

「いい加減にしてくださいっ!! いくら殿下でもこれ以上ウェイド様を非難するのは私が許しませんっ!! ウェイド様は……いつも冷静で、でも時には情熱的で、公爵として辛い判断をする時も躊躇などせずいつでも最善の判断を下さる方です。それに、いつも私のことを考えて配慮して下さいますし、たまにみせる笑顔が本当はとても可愛らしい方なんですよ!! それに、私はウェイド様のことをとてもっお慕いしてっ……」

 ここまで言って自分でも驚く。

「カレン」

 後ろから呼ぶ公爵の声で我にかえる。

 私、今……なんて言おうと? お慕いしているって、思っているなんて……

 気まずそうに名前を呼ぶ公爵の顔に、全身から火が出そうになる。

「わた、わたわたわた私……何を……」

 公爵が右手を出すと、そのまま頭をそっと胸に引き寄せる。

「……陛下、詳細は後日ご報告致します。殿下も……婚約者フィアンセも疲れている様子ですので、一旦失礼致します」

「そのようだ。だが、いいものを見させてもらったな。ウェイド公爵」

「…………失礼致します」







 外には顔を真っ青にさせたミクリが待っていた。

「カレン様!!」

「先に宿に戻っている。エル伯爵夫妻へのケアと、ヤドラを頼む」

 公爵のその言葉で、ミクリが気持ちを切り替えたのが分かる。

「かしこまりました」

 元々乗る予定だった馬車にのり、ニーナ夫人はエル伯爵に支えられるように、エスコートされているのが見えた。

「宿はすぐ近くにとってある。殿下が用意していた部屋は……使いたくないだろう?」

「はい」

 ダメですわ。顔を上げられません。

 消え入りそうな声で返事をするのがやっとだ。隣に座る公爵に、先ほどから心臓が壊れるそうなほど脈打つ。

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