狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより

文字の大きさ
43 / 49

43.綺麗だ

しおりを挟む
 公爵は言いにくそうに話を続ける。

「それと、アイリン殿下との一件で、エル伯爵の身動きを取れなくした方がいいだろうと……」

「まさか、あの子どものことですか!?」

 足止めをされ、困って動けない様子だったが、エル様も演技をしていたというんじゃ……

「いや、彼に演技は無理だろう。事実は伝えていない上での仕掛けだ。きっと真っ直ぐで正義感の強い彼なら子どもを突き放すなど出来ないだろうとふんでな。実は陛下の訪問も僕が事前に呼んだものだ……君の安全を最優先しての強行手段だったが……まさか彼女があそこまで危険な振る舞いをするとは。相談もせず、悪かった」

「…………」

 まさか、あんなに大勢の前で割れた破片で手を挙げようとするなど、さすがの公爵も予想外だったのだろう。

 でも、あの時ヤドラがすぐに取り押さえたってことは、それさえもリスクに入れていたのかしら。なら、彼が謝っているのは、私に怖い思いをさせてしまったから、ということでしょうか。

 こういう時、ウェイド様が薄情だと思う人も多いのでしょうね、きっと。

 公爵家に嫁ぐことの重さを知る。

 私だって、ウェイド様に言ってないことがたくさんありますし。

「いえ、驚きましたが、ウェイド様が謝ることはありません」

 そう、ウェイド様が謝ることはないですわ。仮にも主人の為とはいえ、ウェイド様とこの私を平気な顔で欺くあざむくのは家臣としてどうかと思いますけどね。

 いつか、あの医師を手玉にとってやろうと心に誓う。


「はぁっ、良かった。いや、本当に申し訳ないことはしたと思っている。自白剤入りのお酒を飲ませたことには変わりないからな」

 カレンの返事を聞くと、やっと公爵も息が出来たように大きなため息をつく。ようやく2人での食事を楽しむ。

「もしかして、それを言う為に2人に?」

 なぜ公爵が使用人ですら遠ざけ、わざわざ2人きりにしたのか。

 せっかく、ニーナ夫人とも過ごせる機会でしたのに。

 ずきっ。

 自分で思った考えに、思わず息苦しさを感じる。

 ???? おかしいですわ。今、心臓が重くなったような。


「…………そうだな。だが、王都に行く時があれば、君をここに連れてきたいと思っていた」

「っそ、そうですか。とても、素敵なところですわ」

 実際、屋敷の外の花の美しさにも目を引いていたが、ロビーの飾り付けや料理の鮮やかさには公爵家と互角なレベルだ。食事をするこの部屋にも、温室で育てたのか、この時期には見ない花が贅沢に飾られている。

「綺麗だな」

「はい?」

「ここには、特別な商談相手と話をする為に何度か利用したことがあったが、その時は花に気づかなかったが……本当に綺麗だ」

「そうですね」

 花のことを言っていると分かっているのに、間をおいてこちらを見る公爵の視線が、なぜか自分に向けて言っているのではと錯覚してしまう。

 私ったら、先ほどから心臓がおかしいですわ。もしかして、薬が合わなかったのかしら。

 以前に飲んだ時も身体が熱くなる感覚だったが、今回はそれ以上に頭がくらくらとする。

「どうかしたか?」

 手が止まったカレンの様子に、公爵が気づく。

「いえ、もうお腹がいっぱいで……」

「そうか。では、少し散歩しよう」

「散歩、ですか?」

「殿下の件は陛下にお願いしたし、ここには誰も入れないはずだ」

 警備の心配をしたのでなく、パーティでの目的を果たし、大勢に2人の仲を見せつけた今、誰もいないのであれば仲の良いフリをこれ以上する必要もないのでは……とは言いにくい。

 先ほどからその甘い微笑み全開でいらっしゃるのはなぜですか!? しかも、手ぇぇぇぇぇえっ!!?? 立ち上がってからも握り続けているこの手はなんですのっ!!??

 どの反応が正解なのか分からず、されるがまま庭を歩く。

「わぁっ!!」

 敷地の中には贅沢にランプが置かれ、夜の空間に光の道が作られている。

「足もと、気をつけて」

「あ、ありがとうございます」

「やはり夜は少し冷えるな。寒くないか?」

「いえ、大丈夫ですわ」

 そういえば、パーティの時、アイリン殿下に言われたとはいえ、公爵かずっと羽織っておくよう言われた上着を脱ぎ捨ててしまった。

「ウェイド様、上着……すみません。あの場の勢いとは言え、お約束を破ってしまいましたわ」

「問題ない……いや、そうだな……これからはもっと護衛を増やした方がいいかもしれないな……」

「えっ、まだ他にも刺客が?」

 当然、正式な夫婦になるまではいつ何があってもおかしくはない。だが、これ以上の増衛をするとなると、終始監視下での生活になることになる。

「いや、そうではなくて……君に下心を持つ者が増えるだろう」

「え、したご……え?」

「せっかく上着で公爵夫人だと分かるように牽制していたというのに」


 公爵が着る服には全てリドル家の家紋が刺繍されている。

「……あれは、私の格好が変だからなのかと」

「まさか!! そんなわけないだろうっ!! 隠したくなるほど綺麗だったから上着を着せていたに決まっているだろう!!!!」

「っ!?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

そして鳥は戻ってくる

青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。 同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。 3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。 そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。 その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。 *荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。 *他のサイトでも公開します *2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...