44 / 49
44.誤解
しおりを挟む「ウェイド様、一体……急にどうされたのですか?」
その穏やかな表情も、温かい手も、甘い言葉全てが経験したことのない気持ちになりそうになる。
これ以上は危険です。なぜか心臓がはりさけそうですわ。
「どうとは……何かおかしいことでも?」
「ここは完全にプライベートが守られているのですよね?」
公爵がここまで無防備になるのは、開放感からくるとのなのかもしれないと、確認する。
「そうだ。全方位が崖で覆われ、広い敷地には無数のトラップと凄腕の監察官が警備している。その顔ぶれも、何十年と変わらないから潜入も不可能だ」
「そうですか。では、ウェイド様がいつもよりもリラックスされるのもごもっともですわ。ですが、それならば私のことは気遣われなくて大丈夫ですわ」
「……気遣う?」
「パーティでの件は、本当に申し訳ないなどと思わなくて大丈夫です。ですから、無理に褒めたり、仲の良いフリをなされなくても」
本当は、これがフリだと思う自分が耐えられなくなってしまったのだ。舞い上がりそうになる自分を抑えきれなさそうになる。
「ちょっと待て。無理にとか、フリというのは一体……」
両腕をそっとつかむ公爵に、カレンの理性が切れる。
「私とは形だけの結婚ですよね?」
「えっ……」
「私は、別に想う方がいます。ウェイド様もそうなのですよね? だから、私とは世間体だけの結婚だと理解しております。お慕いしていると、パーティで思わず声に出してしまいましたが……それを気にされているのなら……」
「ちょっと待ってくれ。君に……他に好きな人がいるのは……理解するつもりだ……急な婚姻であればその可能性も考えていた。だが、僕が他に好きな人がいるというのは一体どうしてそう思ったんだ!?」
「それは、リドル家当主である公爵様が、何のメリットもない名ばかりの侯爵家の私を選ばれたのは、それくらいしか理由が思いつきません。それに、ウェイド様が誰かを愛していることくらい分かりますわ。婚約パーティで用意された宝石、特注品で、婚約の話が出る前から注文しなければあのような芸術品は出来ません。身につけた宝石を見た時の眼差しも、とても愛情深いものでしたわ。誰か、他に想う方が……いらっしゃるのでしょう?」
公爵は完全に固まってしまった。
侍女頭に言われたことを思い出す。
言わなければ伝わらない。まさにその通りだ。
なんてことだ。思わぬカタチでこんな大きな誤解をされていることに気づいていなかったとは。
彼女がアイリン殿下に僕を愛しているフリをしていると言われても、構わなかった。自白剤入りのお酒を飲んだ彼女が好きだと言ってくれたのだから、それ以外はどうでも良かった。
あの時、彼女のすぐ後ろでその言葉を聞いた時、人前だというのに思わず赤面してしまった。それを見た殿下はなぜか戦意を喪失してしまったようだが、ひそかにヤドラは親指を立てていた。
だが、思わず喜びでうかれ過ぎてしまった……
まさか、そんな誤解があったなんて。いや、確か最初の頃にそんなことを言っていたような……あの時の言葉は、なるほど。それご原因だったのか。
どうすればいいっ!? 実はずっと前から想っていて、つい瞳の色と同じ宝石の一級品が手に入るたびに彼女をイメージしたドレスやアクセサリーを注文していただなんて。ひかれないかっ!?
そもそもっ、慕っているってのは誰だ!? 気にしないなんてつい強がってしまったが、気になる。そんな気配まったくなさそうだったのに。まさか、最初に婚約を受け入れる予定だった男か!? それとも……まさかヤドラ!? 妙に距離が近い気がしているが……どうすればいいっ。何から返すのが正解なんだ!?
「…………」
「すみません。出過ぎた発言でした」
そう言うと、カレンは1人先に屋敷へと戻ってしまった。
あぁ、最低ですわ。その話題は暗黙の了解だと最初に学んだことですのに。どうしてあんな困らせることを……
「それにしても、勢いで戻ってきてしまいましたが、どうしましょう……」
顔を上げると、小さな呼び鈴が置いてあるのに気づく。
「こう、すれば良いのかしら」
チリン……チリン……
こんな小さな音であの老夫婦のどちらかが? これなら声を出して探した方が早いのではと想ってしまう。
「いかがなさいましたか?」
「っ!? えっ、いつのまに?」
女性の方がいつのまにか後ろに立っている。
「ご安心ください。私どもはその呼び鈴だけはこの敷地内のどこにいても聞こえる訓練をしておりますので。それ以外のお話は耳に入りません」
「いえ、そうではなくて……」
「ウェイド様は呼び鈴を鳴らすときは一度切り、それも少し高めの位置からでございますので、きっと奥様の方かと思い、私が来させていただきました」
「なるほど?」
「それで、いかがなさいましたか?」
「えぇ、あの……お風呂へ入りたいのだけど……」
「ご案内いたします」
1人でいることに触れることもなく、部屋へ案内してくれる。
「これは……」
広々とした空間には、数種類のお風呂が設けられていた。
「この土地の地下からは熱いお湯が湧き出ておりますので、それをちょうど良い湯加減になるようひいてございます。いつ入っても温かいですので、どうぞ外でも中でも、お好きなところをお使いくださいませ。必要であればお手伝いもいたしますが?」
「お願いします」
14
あなたにおすすめの小説
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
そして鳥は戻ってくる
青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。
同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。
3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。
そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。
その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。
*荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。
*他のサイトでも公開します
*2026/2/26 番外編を追加でアップしました。リネットの父親視点です。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる