溺愛の花

一朶色葉

文字の大きさ
12 / 18
番外編

other4

しおりを挟む

*サイトの生存確認で上げた小ネタ2本詰め。


●●猫の日小ネタ●●

「ふと思ったんだけど、ルレインって猫っぽいよね」
  始まりは、そんなナーシェの一言だった。
  終業間近の時間帯。業務は大抵終わり、一息つく憩いの時間だ。
  小首を傾げるルレインの横で、二杯目のコーヒーをカップに注ぎながらファイが頷く。
 「たしかに持ってる色が黒猫に近いわよね」
 「ファイ室長もそう思います? ルレインの目って琥珀だけど色味が黄色に近いからますます猫っぽいというか」
 「……そうかなぁ」
  いまいち納得がいかないのはルレインだけだ。うんうん頷き合いながら「中身もちょっと似てるわよね」と言われてしまえば、ますます納得しがたい。
 「ファイ室長だって犬か猫かで言えば猫でしょう」
 「あら、そう?」
 「ナーシェは犬」
 「えぇ……」
 「犬は犬で可愛いじゃない。わかりやすい甘え方してくれるし」
 「それはそうですけど、どちらかと言えば猫派なんですよねぇ」
  ナーシェの言葉を皮切りに、話題はどちらが好きかに移行する。
 「私も猫派だけど、ルレインはどっちが好き?」
 「そうですね……どっちも好きですけどどちらかと言えば……」
  そこまで言ったところで、横からナーシェが口を挟んだ。
 「当てるわ。犬でしょ」
 「……なんでわかったの?」
 「だって飼ってるじゃない、“わんこ”」
 「?」
  なんだそれは。今現在犬はもちろんのこと動物は一切飼っていない。
  それは何度か家に遊びに来たナーシェももちろん知っているはずなのに、さも当然というように断言されてしまい、困惑する。
  その横でファイが何かを察したように「ふふっ」と笑った。
 「確かに飼ってるわね、“わんこ”。ルレインに対してだけ甘え上手な大型犬」
 「……」
  そこまで言われてしまえば、それが純粋に犬の話題じゃないことにさすがに気づく。
  ふつりと沈黙したルレインに、ファイとナーシェはにっこりと微笑みながら声を揃えた。

 「ノスコルグ師団長は猫派だと思うわよ」

  ──その晩。
  ルレインはどこか苦々しい顔でヴィスタに「好きな動物」を聞いた。犬か猫かという選択肢を与えなかったのは、少々小狡い手だったと自分でも思う。
  しかしヴィスタは、わずかに苦虫を噛み潰したような顔をするルレインに不思議そうにした後、彼女を数秒見つめ、ふわりと笑いながらこう答えた。

 「猫一択かな」







●●ホワイトデー小ネタ(本編より数年前の話)●●

 青果店の店頭で、りんごが叩き売りされていた。
  頬に当たる風が冷たい今の季節、りんごは正直旬ではない。だというのに声を弾ませた自分と同世代の少女たちや年若い男たちは躊躇うことなくりんごを手に取り買っていく。
 (何かのイベントごとか?)
  その疑問に答えるように、店主から声がかかった。
 「兄ちゃんトネアロラって知ってるか? 夏に旅の一座が演じた劇なんだが」
 「ああ」
  異国の神話を元に作られた脚本で、愛の女神に恋をした人間の青年がりんごに想いを彫って手渡したとかなんとか。
  基本的に興味を抱かないものにはとことん無関心不干渉なウォズリトが何故その演劇を知っているかというと、ひとえに同期の薬剤師からの情報提供があったからである。
  魔術書ばかりを読み耽るウォズリトとは違って大衆小説も嗜む彼女は、演劇自体は鑑賞していないが小説化された脚本は読んだと言っていた。
 「知ってるなら話は早い。トネアロラと言えばりんご、りんごと言えばトネアロラだ。つまりはだな、便乗して今まで秘めていた心の内を解き放っちまおうという一種のイベントなのさ」
 「儲けるための青果店の陰謀か」
  ぼそりと呟いたウォズリトに店主はからりと笑う。
 「まあそう言うな。儲けがあるのは確かに嬉しいが、一番は想いが叶うことだ。りんごは『選ばれた恋』っつーおあつらえ向きな花言葉も持ってるしな。どうだい、兄ちゃん。想い人にりんご、渡してみないかい?」
 「想い人……」
  売り文句にふと、ウォズリトは考え込んだ。思い当たる節がない。好きだの何だのというのは、彼にとって未だによくわからないものだった。
 (たしかりんごの花言葉には『誘惑』『最も美しいあなたへ』というものもあったな。…………美しいあなた、か)
  ふむ、と光沢を放つ赤い実を見つめ考える。恋だの愛だのはわからないが、美しいと思える人間はいる。
  自身の努力を魔力の属性のおかげだと言われてもへこたれなかった強さ。それでも少し落ち込んだように努力を認められないのは腹が立つとぼやいた弱さ。
  見目の綺麗さだけでなく、彼女は見せる感情の変化も美しい。

 「みっつ、包んでくれ」

  たとえば彼が、この時期外れのりんごでタルトタタンを作ったら。それを菓子に茶にでも誘ったら。
  最近何故か壁を作るようになってしまった彼女はどういう反応をするだろうか。
 (おそらく困らせるだろうな)
  それでも彼女は戸惑いつつも自分の誘いを断らないだろう。
  考えるだけで少し楽しくなってくる。

  恋だの愛だのはよくわからない。だから彼にとってのトネアロラはこれでいい。
  最も美しいあなたへ。──これからも君が変わらずにいることを願って。 

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...