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第6話 バーゼルは変わってる男の子
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ガミガミとクルーガ様に説教を受けていたその男の子は、バツの悪い顔を一応つくろっていたけれど、私には分かる。
全然コタエテない。懲りてない。
あの神妙な顔つきは、私もよくやる手だからね。
そう思って彼の横顔を眺めていたが、涼し気で凛とした睫毛の長い綺麗な目。
緑色なんだ。
毛先がちょっとクルッと跳ねていて、見事な銀色の髪の毛。短くスッキリとした髪型で、うへえ。こっち見た。
お人形みたいに顔が整ってる。ニヤッと私に笑って来て、ダメだよ。ほれ。また真面目に聞いてないって雷を落されてる。
「クルーガ様…… もうそろそろ。バーゼル様も悪気のあっての事では」
ベルネットお母様が取りなして、やっとクルーガのお爺ちゃんもホコを治めるみたい。
「み、水をくれないかね。ベルネット。喉が」
「大丈夫ですか? 大お爺様」
「誰のせいじゃと思っとるっ! バーゼル!」
「ええ~? まだあ?」
ソフィアからお水をもらって、一息ついてからクルーガ様は改めてバーゼルの風体を確かめると、とほほっと情けない顔になった。
「見つからんわけだ。何だそのみすぼらしい身なりは。まったく、アズガン侯爵にあまりに無礼な礼節を欠いた振る舞いに、わ、私は…… 俺はっ!」
額に手をやってからクルーガ様は泣きそうな顔なので、心配になってジッと見つめていたら目が合って気がつかれた。
「おいで。エルザ」
呼ばれて足元に寄っていくとクルーガ様に抱き上げられてしまった。
「バーゼル。見よ。お前より小さなこの子が、今日自分の役目を立派に果たして、そればかりか、並み居る貴族連中の度肝を抜き、大衆の心を掴み 胸を大きく打ったのだぞ?」
「僕にはあんな事は無理です」
褒められてるのかな。実はあの後結構大変だったのよね。お父様と一緒に大勢の人に囲まれちゃって。 お父様は私の顔にヒゲをこすりつけてくるし、泣きっぱなしだし。今はどうされてるのかしら?
お父様の凱旋のパーティーが始まってもう二時間くらい。大広間で、まだお客様のお相手かな。
「待て。バーゼル、どこに行く気だ?」
「お腹空いちゃって、大広間のテーブルに行って何かつまんできます。もう逃げませんよ」
「着替えてからにしろっ! 平民の服で城内をうろつくなっ。ああ……」
「……」
私には分かるわ。真近にあるそのお顔を見て、クルーガ様は本気にこの男の子を嫌っていたり、それで怒っているのではない。ソフィアやシングスが私にするのと同じだ。
「さっ。エルザもお腹が空いていないかね? ずっと良く頑張っている。何か美味しい物を食べて少し休むといい。しかしこの後にもエルザが主役のパーティーがいよいよあるのだぞ。大丈夫かな?」
「クルーガ様…… 私のお爺ちゃまみたいね」
ポソッと言った私の言葉に、クルーガ様が本当に嬉しそうにした。私のお爺ちゃま。ベルネットお母様のお父さん達は今、大広間にいるはずだ。
「わはは。そうか! うむ。それでいいぞ。ったくバーゼルと取り替えてエルザを連れて帰ろうかな」
バーゼルって男の子に話していた時とうって変わって上機嫌になってしまったクルーガ様の足元に、私の背後からヌッと大きな影が差して来た。振り向くとお父様…… 。眉間にしわが寄っている。
「お前は何を言っているんだ?」
「むっ、アズガン。いいのか? 来賓の客を放っぽらかして」
「エルザが見えんからつまらん。それで来てみたらクソじじい。俺の娘を連れて帰るだと、この野郎! 挨拶の口上がすんだらすぐ引っ込みやがって。テメエこそ大広間で客の相手をしやがれ」
「誰がクソじじいだ。昔のように、ちっと手荒に揉んでやろうか。小僧?」
「年を考えろよ。三年見なかったらとうとうボケが始まってんのか。あ?」
何だろう。凄まじい闘気を放つ二人の間に挟まれて困ってしまい、そうしたらお母様が助けに来てくれて降ろしてくれた。でも顔がくっくほど睨み合ってる二人には構わないみたい。クルーガ様もゴツイ体なのよねえ。
「ソフィア。バーゼル様のお着換えのご用意を」
「あっ。服は持っています。馬車の中だけど、取って来なきゃ」
冷めた目で、さて自分はどうしたらとお父様達のいがみ合いを見ていたバーゼルが、お母様の言葉に身を直した。
「馬車のお荷物は御者に断って、ウチの者にこちらのバーゼル様のお部屋にお運びさせておきました」
「そうなのですか。ありがとうございます。では自分で参ります」
不遜な態度から一変、礼儀正しいのか、どっちか本当か分からない。でも……悪い子じゃないみたい。
私はすごくこの男の子が気になり始めていた。
「……お母様」
「えっ」
「この子のお部屋はどこ? 私が案内してあげるっ」
「まあエルザ」
私の申し出にお母様はびっくりされて、ちょっと考えていたけれど、お父様を見たらクルーガ様と胸ぐらを掴み合っていて、そっと顔をそらして頷いた。
「ではバーゼル様。よろしければ娘のエルザベットがご案内いたしますわ」
「分かりました。じゃあ。お願いしようかな。よろしく…… エルザ」
「いいわよ。えっと…… バーゼル!」
この子はやっぱり私に似てるタイプだ。任せなさい。逃げる事なら私の方が得意かも。
バーゼルが助かったよ、と私にまたニヤッと今度はウインクして小さく笑った。うわっ。
ドキッとして何か、私は顔が熱くなってきた。
全然コタエテない。懲りてない。
あの神妙な顔つきは、私もよくやる手だからね。
そう思って彼の横顔を眺めていたが、涼し気で凛とした睫毛の長い綺麗な目。
緑色なんだ。
毛先がちょっとクルッと跳ねていて、見事な銀色の髪の毛。短くスッキリとした髪型で、うへえ。こっち見た。
お人形みたいに顔が整ってる。ニヤッと私に笑って来て、ダメだよ。ほれ。また真面目に聞いてないって雷を落されてる。
「クルーガ様…… もうそろそろ。バーゼル様も悪気のあっての事では」
ベルネットお母様が取りなして、やっとクルーガのお爺ちゃんもホコを治めるみたい。
「み、水をくれないかね。ベルネット。喉が」
「大丈夫ですか? 大お爺様」
「誰のせいじゃと思っとるっ! バーゼル!」
「ええ~? まだあ?」
ソフィアからお水をもらって、一息ついてからクルーガ様は改めてバーゼルの風体を確かめると、とほほっと情けない顔になった。
「見つからんわけだ。何だそのみすぼらしい身なりは。まったく、アズガン侯爵にあまりに無礼な礼節を欠いた振る舞いに、わ、私は…… 俺はっ!」
額に手をやってからクルーガ様は泣きそうな顔なので、心配になってジッと見つめていたら目が合って気がつかれた。
「おいで。エルザ」
呼ばれて足元に寄っていくとクルーガ様に抱き上げられてしまった。
「バーゼル。見よ。お前より小さなこの子が、今日自分の役目を立派に果たして、そればかりか、並み居る貴族連中の度肝を抜き、大衆の心を掴み 胸を大きく打ったのだぞ?」
「僕にはあんな事は無理です」
褒められてるのかな。実はあの後結構大変だったのよね。お父様と一緒に大勢の人に囲まれちゃって。 お父様は私の顔にヒゲをこすりつけてくるし、泣きっぱなしだし。今はどうされてるのかしら?
お父様の凱旋のパーティーが始まってもう二時間くらい。大広間で、まだお客様のお相手かな。
「待て。バーゼル、どこに行く気だ?」
「お腹空いちゃって、大広間のテーブルに行って何かつまんできます。もう逃げませんよ」
「着替えてからにしろっ! 平民の服で城内をうろつくなっ。ああ……」
「……」
私には分かるわ。真近にあるそのお顔を見て、クルーガ様は本気にこの男の子を嫌っていたり、それで怒っているのではない。ソフィアやシングスが私にするのと同じだ。
「さっ。エルザもお腹が空いていないかね? ずっと良く頑張っている。何か美味しい物を食べて少し休むといい。しかしこの後にもエルザが主役のパーティーがいよいよあるのだぞ。大丈夫かな?」
「クルーガ様…… 私のお爺ちゃまみたいね」
ポソッと言った私の言葉に、クルーガ様が本当に嬉しそうにした。私のお爺ちゃま。ベルネットお母様のお父さん達は今、大広間にいるはずだ。
「わはは。そうか! うむ。それでいいぞ。ったくバーゼルと取り替えてエルザを連れて帰ろうかな」
バーゼルって男の子に話していた時とうって変わって上機嫌になってしまったクルーガ様の足元に、私の背後からヌッと大きな影が差して来た。振り向くとお父様…… 。眉間にしわが寄っている。
「お前は何を言っているんだ?」
「むっ、アズガン。いいのか? 来賓の客を放っぽらかして」
「エルザが見えんからつまらん。それで来てみたらクソじじい。俺の娘を連れて帰るだと、この野郎! 挨拶の口上がすんだらすぐ引っ込みやがって。テメエこそ大広間で客の相手をしやがれ」
「誰がクソじじいだ。昔のように、ちっと手荒に揉んでやろうか。小僧?」
「年を考えろよ。三年見なかったらとうとうボケが始まってんのか。あ?」
何だろう。凄まじい闘気を放つ二人の間に挟まれて困ってしまい、そうしたらお母様が助けに来てくれて降ろしてくれた。でも顔がくっくほど睨み合ってる二人には構わないみたい。クルーガ様もゴツイ体なのよねえ。
「ソフィア。バーゼル様のお着換えのご用意を」
「あっ。服は持っています。馬車の中だけど、取って来なきゃ」
冷めた目で、さて自分はどうしたらとお父様達のいがみ合いを見ていたバーゼルが、お母様の言葉に身を直した。
「馬車のお荷物は御者に断って、ウチの者にこちらのバーゼル様のお部屋にお運びさせておきました」
「そうなのですか。ありがとうございます。では自分で参ります」
不遜な態度から一変、礼儀正しいのか、どっちか本当か分からない。でも……悪い子じゃないみたい。
私はすごくこの男の子が気になり始めていた。
「……お母様」
「えっ」
「この子のお部屋はどこ? 私が案内してあげるっ」
「まあエルザ」
私の申し出にお母様はびっくりされて、ちょっと考えていたけれど、お父様を見たらクルーガ様と胸ぐらを掴み合っていて、そっと顔をそらして頷いた。
「ではバーゼル様。よろしければ娘のエルザベットがご案内いたしますわ」
「分かりました。じゃあ。お願いしようかな。よろしく…… エルザ」
「いいわよ。えっと…… バーゼル!」
この子はやっぱり私に似てるタイプだ。任せなさい。逃げる事なら私の方が得意かも。
バーゼルが助かったよ、と私にまたニヤッと今度はウインクして小さく笑った。うわっ。
ドキッとして何か、私は顔が熱くなってきた。
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