孤児で転生した私は侯爵家に拾われるが優しさを裏切り続けて傾国の魔法令嬢への道をいざ歩まん

照木たつみ

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第5話 空飛ぶウイチカ

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 私は今までに、これほどの大勢の知らない人を一度に見た事が無かった。

 城の正門の前に集まった町の人達の一部を、ベルネットお母様が庭園の広場へ招き入れたらしい。

 ベルネットお母様に手を引かれて石造りの広いテラスから、お城の眼下を、もうお父様がいらっしゃると、そればっかりが頭にあって望んで見たのだけれど、正面の庭園の広場を、真ん中だけ開けて残りを埋め尽くしている人達に驚愕してしまった。

 お母様と私がテラスの前面に進み出た瞬間にものすごい歓声が沸き起こって、初め何か私がこの人達を怒らせているのかと、お母様を見上げると、優しく私を見つめていらっしゃる。

 ああ、みんなお母様を見れて喜んでいるのだと分かった気になったが、みなの視線はやっぱり私に向かって集中していた。

 シ、シオレーネは? 思わず振り向いて、シオレーネはずっと後ろの人の陰に控えていた。よく顔が見えない。どうして隠れているの。今日この日にシオレーネは久しぶりに私の所に来てくれて、けれど一度話したきり、私とどこか一線を頑なに引こうとしていた。

 クルーガ様が私の横に並んで来て、肩に手を掛けてくださると、また一段と歓声が巻き起こる。
 クルーガ様も人気者みたい。すごい悪党みたいな顔なのに見かけによらないわね。

 お母様とクルーガ様はみんなに手を振って。クルーガ様はニコヤカだけれども、時折人の中を目を皿の様にしてすがめて確かめて、誰か知っている人を探しているのかしら。

「バーゼルめどこにいる。ブツブツ」

「エルザも、ほら、みんな貴方に手を振ってくれているのよ」
「……」

「エルザみなに応えてあげるんだ」

 こう……かしら。笑ってって言われても。ギコチナイ。
 私がよく悪戯の後に、ソフィアに見せる愛想笑いをやってみた。

「……ニコッ」

「…………おおおおおおおおお!」

 期待に……想像以上に応えられているみたいだ。チョコンと手も振ってみる。
 良く分からぬ高い声が、おば様方の一団から今度は聞こえて来た。

 ちょっと疲れるな。
 私はまた後ろを振り返った。

「シオレーネ!」

「!」

 私は今ここに自分が立ってやっている事の意味が理解出来てきた。
 これはたぶん。このドレイブルの家の家族の者が、帰って来るお父様を迎えてくれるたくさんの人に、姿を見せて感謝の気持ちを表しているのじゃないかしら。

 そしてお母様は言っていた。今日からあなたはドレイブルのアズガンお父様の娘として、正式に大勢の人達に紹介をされるのだって。

 だったら……私の側には、貴方もいるべきなのよ。いて欲しい。もう一人のお母さん。

 シオレーネは私の呼びかけに一瞬驚いたが目を伏せている。頑として出て来ない。シオレーネの横にはソフィアもいて二人は手を握り合っていた。

「ソフィア! 来なさい!」

「エルザ様……」
 ソフィアも首を横に振る。
 どうして…… 。

「今ここには私の家族、貴方とお母さんが必要なの」
 そう言ってから、私はベルネットお母様を見上げた。お母様が頷いた。

「エルザ。あなたをお披露目出来て、私は……今のあなたのしようとしている事にドレイブル家の娘としてあなたをシオレーネ達と育てて来た事を誇らしく思います」

 私はその言葉を聞いた瞬間に駆けていた。シオレーネとソフィアの側へ。

 私は二人の手を掴むとグイグイと引っ張って、ソフィアが前によろけそうになって、ふふっ。来ないとこけちゃうわよ。

 私が二人に挟まれてもう一度テラスの前に出たら、ベルネットお母様が二人を順に抱きしめて行き、それから私の後ろに回って立った。

 さあ! またみんなで手を振るわよ。張り切った私の遠く広場の向こうに、正門をくぐって、一頭の大きな馬にまたがった鎧と兜の大男が現れた。

 男の背中のマントがひるがえって、門を抜ける前から馬はもう全力疾走している感じだ。


 !!

 !!!

 私は頭が真っ白になって。あれは…… 。


 ……お父様。


「ベルネット! エ―――ールザ―――ー!!!」
 獅子の咆哮したような、太く響くその声は紛れもないお父様の声だった。

「お父様―――ー!!」

 私はテラスから宙に飛んだ。ドレスの後ろの裾に隠れてつけられているお守りが、何か音を発した気するけど、かまわない!

 もうお父様しか見えない。何も聞こえない。


 アズガンはパレードの隊列の後方から、気がつくと軍楽隊まで追い越して馬を全力で走らせて城に向かっていた。もう我慢が出来なかった。
 二年。いや三年も最前線で血生臭い斬り合いを、命の奪い合いを屈強な敵とやり続けていた。

 美しく優しい妻が恋しい。愛する娘を。一番目まぐるしく成長する時期の可愛らしい盛りの娘を、この目で一刻も早く見たい。そして抱き上げたい。

 門を疾駆して一気に抜けると庭園に突き進む。自分の城を攻め落とす気分だ。

 広場に入り居並ぶ貴族連中や群衆が両脇に見えて、それらの人が波のように馬のひずめの音にザッと左右に引いていった。見すえた城のテラスにベルネット。その前に…… 。

 青いドレスの黒髪の女の子が見えた!

 エルザ!

 大きくなった…… 。もっとよく確かめようとしたら視界がにじんでいた。しかしアズガンは涙を慌ててぬぐわねばいけなかった。テラスから跳ねた女の子が……翼が生えているように宙を自分に向かっている!

 必死にアズガンの後をついて追う彼の側近達に交じっていたエレメンも、馬上からエルザを見た。澄み切った青空のような色のドレスをはためかせて、小さな女の子が広場の上に浮いている。エレメンはうめいていた。

「……ウイチカ(女性賢魔導士)。いや……まるで天使じゃないか」


「お父様あ―――ー!」

 エルザは高いテラスから宙に舞い、驚嘆して見上げる人々の視線を引き付けたまま、空中を走るように飛び続けて行き、そして今度は、巨大な軍馬にまたがって広場に突っ込んで来た、完全武装の大男に人々は目を奪われてしまって、どっちを見ればと唖然としていたら、馬を急停止させた男の胸へ両腕を広げたエルザが飛び込んで、男はしっかりと愛娘を受け止めた。

 うおおおおおおおおお―――ー!!


「あの子飛んじゃった。本当にすごいな……」

 広場にいて、歓声の後にどよめいている人々の中に、うめいて呟いたのはエレメンの他にもいた。

 アクシュガルの王子。王位後継位、第三番。バーゼル・パシュラウトス。十三歳の男の子である。

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