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番組放送後 揉める会議室
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「大体、敵のだじづで人って何だよ!? くっそ、わかりづらいだろうが! バーカ!!」
「なんだとごらぁ! 面白いだろうが、だじづで人って響きが素敵だろうが!」
ここは異世界ブブテレビ、会議室の一角でコアラとラッコの醜い争いが行われていた。
パッと見は可愛い夢の対決だが、互いにスーツを着て、それを引っぱり取っ組み合うように戦っている。
実に見苦しい争いだった。
会議に同席しているスタッフも別にその争いを止めたりしない。
誰も彼もが疲れた眼をしている。
勝手に撮影されてそれをまとめるだけでいいと世間では思われている異世界テレビであるが、ドラマの撮影となるとそう言う訳にも行かない事情というものが合った。
と言うのも普通に生活していると、特に一週間、特出すべき事は何もありませんでした。なんてことが、そこそこあり得るからである。
ある意味それはそれでリアルなのだが、視聴者が求めているリアルはそう言うものではなく、日常の中でもちょっとしたイベントは必要なのだ。
そうしたイベントの準備や細工はいろいろ気を使うもので、そんな作業中に会議室へと連れてこられた面々は疲れから陰々滅々がデフォ。些細な事から殴り合いになるのも良くある話だった。
ラッコとコアラの言い争いも初期設定の話で、今更蒸し返してもしょうがない話なのだ。
だがイライラしない訳でもなく、スーツを着たカブトムシが死んだような瞳で立ち上がった。
「だーーうっせぇなぁ、そもそも最初の段階で武器を限定しなかったのがしくじりの原因で———! ぶべらばぁ!」
緊迫した会議の場で生産性の無いことを声を大にして言った愚か者がラッコの貝殻アタックを額にうけて沈んだ。
「そんな事を今話あってんじゃねんだよ! 誰が悪くて、何が悪かったって話じゃない! これからどうするって話だろう!!」
眼を回しているカブトムシに、ラッコは吐き捨てるようにそう言った。
何故コアラにはそうしなかったのか?
そうコアラは怪人作成班の人員で管轄が別だからだ。立場に寄って対応を変える、それが社会人である。
暖房も入れてないのに妙な熱気がこもったその部屋でスーツを着た人間じゃない連中が真剣に話し合っているのはヒーロー番組の今後に関してだった。
その中央、一番偉い人が座っている席は空白だった。
そんな折、会議室の扉が開く。
入ってきたのはライオンのキリマンで、部屋から抜けていく熱気に顔をしかめながら部屋に入る。
「ちょっとは換気しろ。淀んだ空気で倒れるぞ」
その言葉に従い、幾人かのスタッフが窓を開ける。
幾分か熱気の抜けた会議室でキリマンは席に腰掛け、全員を見渡した後で口を開く。
「別件の会議で遅れてすまなかった。それで、話し合いはどうなっている?」
その言葉で、場を仕切っていたメインの作家のラッコが答える。
「どうしたもこうしたも、ありませんよ。どいつもこいつも文句しか言わない」
「いちいちお前がつっかかるからだろうが!!」
コアラを始めとした怪人作成班の代表がそうだそうだと声を合わせる。
「なんでこんな事になってるかなんてのはどうでもいいが。怪人作成班としちゃ、あんまり即効性を求められても困る。怪人はバイオ生産で、すぐ出来上がりってわけにも行かないんでね!」
「すぐやれとは言ってないだろ!?」
「ファイバーソードとブラスターしか効かない敵のアイディアを考えろって言ったのがそれだよ。そんな要望、ホイホイ叶えられるわけねーだろうが!? もっと具体的な案を出せよ!?」
椅子に座ったキリマンは自分が居なかった間の会議の様子に思いを馳せて、地面に横たわっているカブトムシを見る。娯楽作品を作るのも大変だ。
「まてまてまて、言い争いは無しだ。それこそ時間がないんだからな。おおよそ、どういう方向性で解決できるかの案はあるのか?」
キリマンが声を上げて、ラッコにそう尋ねる。元々メインの脚本家としてファイバーズを一から立ち上げた男だ。多少荒っぽいのが玉にきずだが、決して無能な訳ではないとキリマンは彼を信用していた。
荒くなった鼻息を深呼吸で整えて、ラッコは口を開く。
「現状、方向性は二つです。ファイバーソードとブラスター以外の武器を失くすか、あるいはファイバーソードとブラスターが有効な敵を出すか」
その言葉になるほど、とキリマンは頷いた。
ラッコは言葉を続ける。
「裏から圧力を加えて、ファイバーソードとブラスターをなんとか使わせようと言うのは無理だと言うのが今までやってきた事からの結論です」
「それなんだが、向こうの調整用に人造人間を送り込んだだろ。M98がブルーの上司だからそいつに命令させればいいじゃないか」
スタッフの一人から上がった声にキリマンは「それが無理なんだ」と声を上げた。
「先日話したが、戦闘に関する事はブルーが取りしきっている。送り込んだ人間は裏方だから、戦いにはノータッチだった。強引に進めれば、ブルーが彼をこちら側の人間だと気づくかもしれない」
むぅと声が上がる。だがそれでも納得できなかった誰かが声を出した。
「でも上司からの意見なら聞くんじゃないですか?」
会議室に居た全員が黙った。上司の意見は聞かなくては行けない。それが社会人である。
「聞かないんだろ、ブルーは」
誰かがぽつりとこぼし、会議室はザワザワする。
誰かが更に呟いた「うらやましい」と言う言葉が耳に入り、キリマンは口には出さずに同意した。
うらやましい。確かにうらやましい。
そんなちょっとがやがやした会議室で怪人制作班のひとり、カタツムリが触手を伸ばす。
「そもそも、なんでこっちの用意した武器を使わないので?」
その言葉に会議室全体がちょっと静かになる。カタツムリはあんまり空気が読める子じゃないのだ。
ラッコは静かにポケットから貝を取り出し始めたが、それをキリマンが止める。
「まてまて、その辺の分析も必要だ。現状を打開するのに必要なのはアイディアなんだぞ。アイディアを出すには数が重要だ」
その言葉に、ラッコは口をへの字に曲げつつも、貝をポケットに戻す。
「では、私の分析ですが……二つの武器の特製と不信感が主な原因です」
そう言って、ラッコは机の上に置いてあったファイバーソードを手に取る。ファイバーズが持っているものと見た目は同じだが、これは市販されているおもちゃのものだった。
「画面映えも考慮して、我々が当初想定していたのは近接戦闘でした。ですが、ファイバーズが選んだのは現地の武器である鉄砲を用いた、中距離戦闘でした。これは確かに想定の甘さにも理由はあるでしょう」
キリマンはその言葉に頷く。たしかに放送前の段階では現在の戦闘スタイルは想定されていなかった。
当初のイメージはこんな感じだ。
敵が現れる。ファイバーズが駆けつける。
『悪の怪人め、ファイバーズが相手だ!』
決めポーズ、シュバッ!
雑魚怪人と戦う。ポコポコ、カキンカキン。
今週の上位怪人登場。
戦う、ピンチ。
『なんて強いの!? リーダー!』
『そうだな! みんな集まれ、あれをやるぞ!』
ファイバーブラスターを連結! ファイバーキャノン!
ドカーン!
今日も勝利だ、ファイバーズ! 次週へ続く。
と言う感じがそもそもの想定だった。
それがなんだかんだで、硝煙と爆発が毎度のお約束の戦場丸出しの雰囲気になってしまった。
それはそれで面白い、さすがは異世界TV思ったようには行かないな。だが映像としてはこれはこれで……と思ったのが確かに間違いだったのかもしれない。しかし時間は巻き戻らないのだ。
放送してしまった番組を視聴者の頭から消す事だって勿論出来ない。
「武器の性能を上げるとか、今使ってる武器に寄せたりは出来ないのか?」
当然、そうなると出るであろう質問にキリマンは首を振る。
「無理なんだ。予算がそこまで無い。二つの武器は拡張性がほぼ無い……スポンサーに別の武器を作れと言うのも当然無しだ。ファイバーソードとブラスターはそのまま。それも条件だと思ってくれ」
「そんなに簡単にどうにかなるなら、もうしてるっての……」
余計な事にラッコがそう吐き捨てるように言ったものだから、先ほどのコアラが立ち上がった。
「てめぇ等の尻拭いでこうして会議してるんだろうがよぉ!?」
「だとこらぁ! 最初の方に上位怪人が準備できなくて泣きついてきた事を忘れやがって!」
「それもてめぇのシナリオが遅いからだろうが!」
「うそこけ、雑魚怪人の生産が追いつかなくて、見ないフリしてただけだろうがぁあ!」
ぎゃんぎゃん言いながら、取っ組み合いを始める二人。
娯楽作品を作るのも大変なのである。
「止めないか! 我々はチームだ! こんな状況で作っているなんて子供達が知ったら悲しむぞ!」
キリマンの怒声で、二人は互いに舌打ちをしながら、元の席に帰る。
そんな二人に溜め息をついて、キリマンは続けて言った。
「とにかく、ファイバーソードとブラスターはそのまま。武器の追加は無しだ。それらを使ってもらうにはどうしたらいいか? が問題だと思ってくれ」
それに対するスタッフの反応はいまいち悪かった。とりあえずなにか特殊な状況でなければならないが、それがまた大掛かりでも予算の都合で無理なのは何となくわかるからだ。
「もう一つの不信感というのはなんなんですか?」
そう言って、カマキリが質問する。
「ブルーが不信感を持ってる。ファイバーソードとブラスターの出所が異世界だと勘づいてるらしい」
ラッコが不機嫌そうにそう答える。
その言葉に対する反応は様々だった。こちらの存在を怪しむブルーに感心するもの、それを危ぶむもの、それが理由ならなにしても無駄じゃないかと話すもの。
自分の言葉に対する皆の反応にラッコは言葉を付け足す。
「無駄ってことは無いはずだ。ブルーはスーツは使ってる。あれは優秀だからってことだ。絶対使わないってわけじゃないんだ」
なるほど、いわれてみればそうだそうだと声が出る。
まあ、そうなると逆説的にファイバーソードとブラスターは優秀じゃないから使われないってことになるわけだが、それは先ほどキリマンが言ったようにもう本当どうしようもないのだ。
「そんなわけでシナリオでどうにかするか、敵の能力でどうにかするか。そう言う事だな」
キリマンはそう言って話を戻しラッコは頷く。
「そうなります。前者であれば……そうですね。例えば、二つの武器が無くなる。ファイバーズがそれを探す……と言った方向性です。ただ日曜の午前中と言うルールの都合がありますから、もう少しアイディアを煮詰めないと厳しいですが」
それがネックになるよなーとスタッフの一部が呟く。
異世界TVは異世界の演者に本気の対応をさせることが肝となる。
その為にはあまり連続で何かをさせないと言うのが”お約束”として存在しており、ファイバーズでは地球時間の日曜の午前中に敵が出てくると言うのが、まさにこのお約束に相当した。
このお約束が守られている間、何も知らない役者達も日常を謳歌する事が出来る。
ファイバーズのように長期的な撮影を行う場合はこうしたノウハウを厳守する事はとても大切だった。
例えば日曜の午前中と決まっているファイバーズのメンバーはそれを基準に生活リズムを整える。
具体的には日曜の戦いが終わった後、月曜日に反省会。そして訓練となり、金曜日、土曜日は軽く体調を整えて、日曜日に万全の形で戦いに挑むのだ。
だがこれらの決まりを守らなかった場合、きっとファイバーズのメンバーはいつ来るかわからない襲撃に備えることになる。
そうなれば訓練も何もなく、日常も無くなり、待機の連続。誰が何曜日に何時間待機という勤務のシフト表が作られる事になるだろう。
これでは番組としては面白くない。ファイバーズは日常があり、戦いがある事で話が面白くなる構成なのだ。
「後者の都合を言わせてもらえば、アイディアが欲しいところです。単純にファイバーソードとブラスターしか効かないってのは無理です。第一、それが出来たとしてもそもそも使われない武器がどうして有効だってわかるってんですか?」
手を挙げたコアラの発言にもキリマンは頷いた。
怪人制作班の彼等は、シナリオを考えて敵を作ると言う事はそもそもしない。
シナリオがあって、どんな怪人が必要かわかってから要望に合ったものを作るのが彼等なのだ。
「怪人作成班を始めとした直接シナリオに関わってこなかった皆には苦労をかける。敵ありきでシナリオを考えると言う事は想定してないし、してこなかった……だが今はファイバーズの番組そのものの危機だ」
キリマンはそう言って、もう一度全体を見渡す。
「改めて全員に言おう。我々の頑張りもあって、確かにファイバーズの視聴率は悪くない。だが現在の状況を何とかするには皆の知恵が必要だ。自分の仕事ではないからと、考えるの止めないでくれ。そして同時に、誰の意見であっても耳を傾けるのを止めないでくれ」
そのキリマンの言葉に、スタッフの面々は頷いた。
ファイバーズ立ち上げから、今までずっと関わってきたメンバーだ。
番組への愛着は強く、問題であると言われれば何とかしたいとも当然思う。
だが同時に、それが中々難しいこともスタッフ全員が把握していた。
ここまで問題だ! と声が大きくなったのは最近だが、問題自体は……ずっと言われている事だったからだ。
そもそもファイバーソードとブラスター使わないのまずくない? とは、ほぼほぼ全員が思っていたのだ。
今声を上げているキリマンもそうだし、ラッコだって思っていたし、その他のスタッフも思っていた。
なにせ、ファイバーズのおもちゃである。
変身キットとその武器。これがおもちゃになっているのに、番組で使われないってことはどう考えてもまずいのである。
だが異世界の番組と言う構成上、それだけ使えと指示を出す事は出来ない。
この辺の制約があるからこそ、異世界TVはリアルなのだ。
なのでことあるごとに策を巡らし何かしらやってきた。けれども効果を出す事はなく、結果こうなっている。
できないのでは? とは無論誰も言わないが、何となくじっとりとした……良くない予感のようなものがスタッフの不安となって漂っていた。
「なんだとごらぁ! 面白いだろうが、だじづで人って響きが素敵だろうが!」
ここは異世界ブブテレビ、会議室の一角でコアラとラッコの醜い争いが行われていた。
パッと見は可愛い夢の対決だが、互いにスーツを着て、それを引っぱり取っ組み合うように戦っている。
実に見苦しい争いだった。
会議に同席しているスタッフも別にその争いを止めたりしない。
誰も彼もが疲れた眼をしている。
勝手に撮影されてそれをまとめるだけでいいと世間では思われている異世界テレビであるが、ドラマの撮影となるとそう言う訳にも行かない事情というものが合った。
と言うのも普通に生活していると、特に一週間、特出すべき事は何もありませんでした。なんてことが、そこそこあり得るからである。
ある意味それはそれでリアルなのだが、視聴者が求めているリアルはそう言うものではなく、日常の中でもちょっとしたイベントは必要なのだ。
そうしたイベントの準備や細工はいろいろ気を使うもので、そんな作業中に会議室へと連れてこられた面々は疲れから陰々滅々がデフォ。些細な事から殴り合いになるのも良くある話だった。
ラッコとコアラの言い争いも初期設定の話で、今更蒸し返してもしょうがない話なのだ。
だがイライラしない訳でもなく、スーツを着たカブトムシが死んだような瞳で立ち上がった。
「だーーうっせぇなぁ、そもそも最初の段階で武器を限定しなかったのがしくじりの原因で———! ぶべらばぁ!」
緊迫した会議の場で生産性の無いことを声を大にして言った愚か者がラッコの貝殻アタックを額にうけて沈んだ。
「そんな事を今話あってんじゃねんだよ! 誰が悪くて、何が悪かったって話じゃない! これからどうするって話だろう!!」
眼を回しているカブトムシに、ラッコは吐き捨てるようにそう言った。
何故コアラにはそうしなかったのか?
そうコアラは怪人作成班の人員で管轄が別だからだ。立場に寄って対応を変える、それが社会人である。
暖房も入れてないのに妙な熱気がこもったその部屋でスーツを着た人間じゃない連中が真剣に話し合っているのはヒーロー番組の今後に関してだった。
その中央、一番偉い人が座っている席は空白だった。
そんな折、会議室の扉が開く。
入ってきたのはライオンのキリマンで、部屋から抜けていく熱気に顔をしかめながら部屋に入る。
「ちょっとは換気しろ。淀んだ空気で倒れるぞ」
その言葉に従い、幾人かのスタッフが窓を開ける。
幾分か熱気の抜けた会議室でキリマンは席に腰掛け、全員を見渡した後で口を開く。
「別件の会議で遅れてすまなかった。それで、話し合いはどうなっている?」
その言葉で、場を仕切っていたメインの作家のラッコが答える。
「どうしたもこうしたも、ありませんよ。どいつもこいつも文句しか言わない」
「いちいちお前がつっかかるからだろうが!!」
コアラを始めとした怪人作成班の代表がそうだそうだと声を合わせる。
「なんでこんな事になってるかなんてのはどうでもいいが。怪人作成班としちゃ、あんまり即効性を求められても困る。怪人はバイオ生産で、すぐ出来上がりってわけにも行かないんでね!」
「すぐやれとは言ってないだろ!?」
「ファイバーソードとブラスターしか効かない敵のアイディアを考えろって言ったのがそれだよ。そんな要望、ホイホイ叶えられるわけねーだろうが!? もっと具体的な案を出せよ!?」
椅子に座ったキリマンは自分が居なかった間の会議の様子に思いを馳せて、地面に横たわっているカブトムシを見る。娯楽作品を作るのも大変だ。
「まてまてまて、言い争いは無しだ。それこそ時間がないんだからな。おおよそ、どういう方向性で解決できるかの案はあるのか?」
キリマンが声を上げて、ラッコにそう尋ねる。元々メインの脚本家としてファイバーズを一から立ち上げた男だ。多少荒っぽいのが玉にきずだが、決して無能な訳ではないとキリマンは彼を信用していた。
荒くなった鼻息を深呼吸で整えて、ラッコは口を開く。
「現状、方向性は二つです。ファイバーソードとブラスター以外の武器を失くすか、あるいはファイバーソードとブラスターが有効な敵を出すか」
その言葉になるほど、とキリマンは頷いた。
ラッコは言葉を続ける。
「裏から圧力を加えて、ファイバーソードとブラスターをなんとか使わせようと言うのは無理だと言うのが今までやってきた事からの結論です」
「それなんだが、向こうの調整用に人造人間を送り込んだだろ。M98がブルーの上司だからそいつに命令させればいいじゃないか」
スタッフの一人から上がった声にキリマンは「それが無理なんだ」と声を上げた。
「先日話したが、戦闘に関する事はブルーが取りしきっている。送り込んだ人間は裏方だから、戦いにはノータッチだった。強引に進めれば、ブルーが彼をこちら側の人間だと気づくかもしれない」
むぅと声が上がる。だがそれでも納得できなかった誰かが声を出した。
「でも上司からの意見なら聞くんじゃないですか?」
会議室に居た全員が黙った。上司の意見は聞かなくては行けない。それが社会人である。
「聞かないんだろ、ブルーは」
誰かがぽつりとこぼし、会議室はザワザワする。
誰かが更に呟いた「うらやましい」と言う言葉が耳に入り、キリマンは口には出さずに同意した。
うらやましい。確かにうらやましい。
そんなちょっとがやがやした会議室で怪人制作班のひとり、カタツムリが触手を伸ばす。
「そもそも、なんでこっちの用意した武器を使わないので?」
その言葉に会議室全体がちょっと静かになる。カタツムリはあんまり空気が読める子じゃないのだ。
ラッコは静かにポケットから貝を取り出し始めたが、それをキリマンが止める。
「まてまて、その辺の分析も必要だ。現状を打開するのに必要なのはアイディアなんだぞ。アイディアを出すには数が重要だ」
その言葉に、ラッコは口をへの字に曲げつつも、貝をポケットに戻す。
「では、私の分析ですが……二つの武器の特製と不信感が主な原因です」
そう言って、ラッコは机の上に置いてあったファイバーソードを手に取る。ファイバーズが持っているものと見た目は同じだが、これは市販されているおもちゃのものだった。
「画面映えも考慮して、我々が当初想定していたのは近接戦闘でした。ですが、ファイバーズが選んだのは現地の武器である鉄砲を用いた、中距離戦闘でした。これは確かに想定の甘さにも理由はあるでしょう」
キリマンはその言葉に頷く。たしかに放送前の段階では現在の戦闘スタイルは想定されていなかった。
当初のイメージはこんな感じだ。
敵が現れる。ファイバーズが駆けつける。
『悪の怪人め、ファイバーズが相手だ!』
決めポーズ、シュバッ!
雑魚怪人と戦う。ポコポコ、カキンカキン。
今週の上位怪人登場。
戦う、ピンチ。
『なんて強いの!? リーダー!』
『そうだな! みんな集まれ、あれをやるぞ!』
ファイバーブラスターを連結! ファイバーキャノン!
ドカーン!
今日も勝利だ、ファイバーズ! 次週へ続く。
と言う感じがそもそもの想定だった。
それがなんだかんだで、硝煙と爆発が毎度のお約束の戦場丸出しの雰囲気になってしまった。
それはそれで面白い、さすがは異世界TV思ったようには行かないな。だが映像としてはこれはこれで……と思ったのが確かに間違いだったのかもしれない。しかし時間は巻き戻らないのだ。
放送してしまった番組を視聴者の頭から消す事だって勿論出来ない。
「武器の性能を上げるとか、今使ってる武器に寄せたりは出来ないのか?」
当然、そうなると出るであろう質問にキリマンは首を振る。
「無理なんだ。予算がそこまで無い。二つの武器は拡張性がほぼ無い……スポンサーに別の武器を作れと言うのも当然無しだ。ファイバーソードとブラスターはそのまま。それも条件だと思ってくれ」
「そんなに簡単にどうにかなるなら、もうしてるっての……」
余計な事にラッコがそう吐き捨てるように言ったものだから、先ほどのコアラが立ち上がった。
「てめぇ等の尻拭いでこうして会議してるんだろうがよぉ!?」
「だとこらぁ! 最初の方に上位怪人が準備できなくて泣きついてきた事を忘れやがって!」
「それもてめぇのシナリオが遅いからだろうが!」
「うそこけ、雑魚怪人の生産が追いつかなくて、見ないフリしてただけだろうがぁあ!」
ぎゃんぎゃん言いながら、取っ組み合いを始める二人。
娯楽作品を作るのも大変なのである。
「止めないか! 我々はチームだ! こんな状況で作っているなんて子供達が知ったら悲しむぞ!」
キリマンの怒声で、二人は互いに舌打ちをしながら、元の席に帰る。
そんな二人に溜め息をついて、キリマンは続けて言った。
「とにかく、ファイバーソードとブラスターはそのまま。武器の追加は無しだ。それらを使ってもらうにはどうしたらいいか? が問題だと思ってくれ」
それに対するスタッフの反応はいまいち悪かった。とりあえずなにか特殊な状況でなければならないが、それがまた大掛かりでも予算の都合で無理なのは何となくわかるからだ。
「もう一つの不信感というのはなんなんですか?」
そう言って、カマキリが質問する。
「ブルーが不信感を持ってる。ファイバーソードとブラスターの出所が異世界だと勘づいてるらしい」
ラッコが不機嫌そうにそう答える。
その言葉に対する反応は様々だった。こちらの存在を怪しむブルーに感心するもの、それを危ぶむもの、それが理由ならなにしても無駄じゃないかと話すもの。
自分の言葉に対する皆の反応にラッコは言葉を付け足す。
「無駄ってことは無いはずだ。ブルーはスーツは使ってる。あれは優秀だからってことだ。絶対使わないってわけじゃないんだ」
なるほど、いわれてみればそうだそうだと声が出る。
まあ、そうなると逆説的にファイバーソードとブラスターは優秀じゃないから使われないってことになるわけだが、それは先ほどキリマンが言ったようにもう本当どうしようもないのだ。
「そんなわけでシナリオでどうにかするか、敵の能力でどうにかするか。そう言う事だな」
キリマンはそう言って話を戻しラッコは頷く。
「そうなります。前者であれば……そうですね。例えば、二つの武器が無くなる。ファイバーズがそれを探す……と言った方向性です。ただ日曜の午前中と言うルールの都合がありますから、もう少しアイディアを煮詰めないと厳しいですが」
それがネックになるよなーとスタッフの一部が呟く。
異世界TVは異世界の演者に本気の対応をさせることが肝となる。
その為にはあまり連続で何かをさせないと言うのが”お約束”として存在しており、ファイバーズでは地球時間の日曜の午前中に敵が出てくると言うのが、まさにこのお約束に相当した。
このお約束が守られている間、何も知らない役者達も日常を謳歌する事が出来る。
ファイバーズのように長期的な撮影を行う場合はこうしたノウハウを厳守する事はとても大切だった。
例えば日曜の午前中と決まっているファイバーズのメンバーはそれを基準に生活リズムを整える。
具体的には日曜の戦いが終わった後、月曜日に反省会。そして訓練となり、金曜日、土曜日は軽く体調を整えて、日曜日に万全の形で戦いに挑むのだ。
だがこれらの決まりを守らなかった場合、きっとファイバーズのメンバーはいつ来るかわからない襲撃に備えることになる。
そうなれば訓練も何もなく、日常も無くなり、待機の連続。誰が何曜日に何時間待機という勤務のシフト表が作られる事になるだろう。
これでは番組としては面白くない。ファイバーズは日常があり、戦いがある事で話が面白くなる構成なのだ。
「後者の都合を言わせてもらえば、アイディアが欲しいところです。単純にファイバーソードとブラスターしか効かないってのは無理です。第一、それが出来たとしてもそもそも使われない武器がどうして有効だってわかるってんですか?」
手を挙げたコアラの発言にもキリマンは頷いた。
怪人制作班の彼等は、シナリオを考えて敵を作ると言う事はそもそもしない。
シナリオがあって、どんな怪人が必要かわかってから要望に合ったものを作るのが彼等なのだ。
「怪人作成班を始めとした直接シナリオに関わってこなかった皆には苦労をかける。敵ありきでシナリオを考えると言う事は想定してないし、してこなかった……だが今はファイバーズの番組そのものの危機だ」
キリマンはそう言って、もう一度全体を見渡す。
「改めて全員に言おう。我々の頑張りもあって、確かにファイバーズの視聴率は悪くない。だが現在の状況を何とかするには皆の知恵が必要だ。自分の仕事ではないからと、考えるの止めないでくれ。そして同時に、誰の意見であっても耳を傾けるのを止めないでくれ」
そのキリマンの言葉に、スタッフの面々は頷いた。
ファイバーズ立ち上げから、今までずっと関わってきたメンバーだ。
番組への愛着は強く、問題であると言われれば何とかしたいとも当然思う。
だが同時に、それが中々難しいこともスタッフ全員が把握していた。
ここまで問題だ! と声が大きくなったのは最近だが、問題自体は……ずっと言われている事だったからだ。
そもそもファイバーソードとブラスター使わないのまずくない? とは、ほぼほぼ全員が思っていたのだ。
今声を上げているキリマンもそうだし、ラッコだって思っていたし、その他のスタッフも思っていた。
なにせ、ファイバーズのおもちゃである。
変身キットとその武器。これがおもちゃになっているのに、番組で使われないってことはどう考えてもまずいのである。
だが異世界の番組と言う構成上、それだけ使えと指示を出す事は出来ない。
この辺の制約があるからこそ、異世界TVはリアルなのだ。
なのでことあるごとに策を巡らし何かしらやってきた。けれども効果を出す事はなく、結果こうなっている。
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