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緑川くんと桃山ちゃんの強さってなんだ
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オレは地面に座って夕日の赤さに染まる訓練場を見ていた。
視線の先では青島さんがクレーンを使って俺たちが練習用に使った車のスクラップをトラックに積んでいる。
「なんだかなぁ……」
誰ともなしに呟いた声に対して、後ろから声がかかる。
「どうしたの、ミーくん」
振り返った先には名字と同じ桃色のジャージ姿の桃がいた。
オレにとってはファイバーズになる前から知っている唯一のメンバー。
近所に住んでいる年下の女の子、集団登下校で面倒を見ていた年下の一人だった。
肩まで伸ばした髪をおさげにしていることもある。決して活発ではなく、おとなしい子だ。
女の子らしい女の子。桃はそんな感じの子だった。彼女の同級生に意地悪されているのを助けた事もある。
戦える印象は無かった。始めに五人で戦うと言われて、思わず『無理だ』と声を上げるくらいに桃の印象はおとなしかった。
それがどうだ。
オレは車を五メートル吹き飛ばして、桃は九メートルも吹き飛ばしている。
どうやら桃にはオレより才能があるらしい。
仕掛ける爆弾の量にもためらいが無い。爆弾を仕掛ける位置も、その種類も桃の方が的確だ。
それに比べたら、オレは覚えも悪いし、てんで役立たずだ。
「なんだかなぁ。と思ってなぁ」
そう答えて、オレは自分の手のひらを見る。柔道で鍛えたその手がいやに小さく見えた。
「なんだか落ち込んでる?」
桃はそう言ってオレの横に腰掛けた。オレの肩より下のところに頭のてっぺんが来るくらいに桃は小さい。
「おーう。アンニュイってやつだ」
「アンニュイってなに?」
「しらねぇ。青島さんが使ってた」
「知らないのに使ってるの、ミーくん」
桃がおかしそうに口元を押さえてクスクス笑う。
それを見てオレは何となく、昔学校の教室で飼ってたハムスターを思い出す。
「……なあ、桃」
「なに、ミーくん?」
「強さって何だと思う?」
オレは桃にそう訪ねていた。
ただオレは強くなりたかった。
強くなって、何かしたくて、何かするには強くなれば良いと思ってた。
でもだ。オレはオレの信じていた強くなり方じゃ、車を投げ飛ばす事は出来ない。
周囲を囲んだ敵をぶっ飛ばす事も出来ない。
例えば桃がオレの敵だったとして、オレは桃の敵には弱すぎる。
爆弾一発でボンだ。
オレの親父も、柔道の先生も、柔道のチャンプだって、爆弾で死んじゃうんだ。
なら強さってなんだ? それが最近のオレの疑問だった。
オレは桃より弱いのか? そうとはとても思えない。
でも桃はオレを……オレより強い人を爆弾で簡単にぶっとばせる。
青島さんだってそうだ。
青島さんは強い。ファイバーズの最初の頃は青島さんだけがほぼ戦っていた。
オレを含む四人は青島さんの指示に従っていただけだ。
それが悔しくて、何とかしたくて……でもなんとかなってる感じもしない。
銃を撃ったり、爆弾仕掛けたり、出来ることは確かに増えたけど……一緒の時期に始めた皆よりオレは全部ヘタだ。
強さの単位がオレの中でおかしくなっていた。
だから、桃なら……オレより爆弾の使い方が上手くて強いと思っている桃がどんなふうに考えているかを知りたかった。
桃はオレの言葉に少し考えて、軽い口調で言った。
「わかんない」
本当にあっさりと桃はそう言った。
「……わからないのか?」
それは意外な答えだった。
桃がオレよりも爆弾を使いこなせる事もそうだけど、桃はよく考えている子だったから、わからないとあっさり口に出した事も本当に意外だった。
「わかんないよ。ミーくんみたいにわたし強くないもん」
あっさりと、そう簡単に言われてオレは驚く。
「でもお前の方が爆弾の使い方、うまいじゃないか?」
「……あんなの強さじゃないよ。青島さんが言ってた。臆病な人間がそれでも勝ちたくて罠を作ったんだって」
そんな話は初めて聞いた。
「爆弾は卑怯だから強くないもん。でもミーくんは違うでしょ?」
「お、オレだって、爆弾使ってるぞ?」
「でも爆弾使わなかったら、ミーくんの方が強いよ?」
「……でも爆弾があれば」
「ファイバーズの時しか、爆弾は使えないよ?」
桃の言葉にオレは何も言えなくなる。
難しく考えすぎてたんだろうか? そう言われれば、確かにそうだ。爆弾が無ければ……オレの方が強い。
「……じゃあ、青島さんとオレ、どっちが強いと思う?」
なぜそう訪ねたかオレにもわからない。単純に思いつきだった。
桃は少し考えてオレに言う。
「わかんない」
もう一度そう言われて、オレは立ち上がった。
そうだな。わからん。わからんなら、やってみれば良い。
「ありがとな。桃」
起き上がるのに手を貸しながら、オレはお礼を言った。
◆
ミーくんは悩んでたみたい。
多分、前にミーくんが言ってたように罠は卑怯。
でも生き残る為には必要で、生き残る以外には使っちゃ駄目なんだと思う。
車を片付け終えた青島さんにミーくんは勝負を挑んだ。
青島さんはそれを受けた。いつも見たいに笑いながら。
よくわからなけど、青島さんが勝った。
わたしは弱いから、強いっていうのがなんなのかわからない。
でもミーくんは強いと思う。
負けて地面に寝転がって、ミーくんは楽しそうに笑ってた。
その笑い声が楽しそうなところがミーくんの強さだと思う。
頑張れ、グリーン、ピンク! 若さは振り向かないことだ!
行くんだ、ファイバーズ! 夕日に向かってダッシュ、ダーッシュ!
視線の先では青島さんがクレーンを使って俺たちが練習用に使った車のスクラップをトラックに積んでいる。
「なんだかなぁ……」
誰ともなしに呟いた声に対して、後ろから声がかかる。
「どうしたの、ミーくん」
振り返った先には名字と同じ桃色のジャージ姿の桃がいた。
オレにとってはファイバーズになる前から知っている唯一のメンバー。
近所に住んでいる年下の女の子、集団登下校で面倒を見ていた年下の一人だった。
肩まで伸ばした髪をおさげにしていることもある。決して活発ではなく、おとなしい子だ。
女の子らしい女の子。桃はそんな感じの子だった。彼女の同級生に意地悪されているのを助けた事もある。
戦える印象は無かった。始めに五人で戦うと言われて、思わず『無理だ』と声を上げるくらいに桃の印象はおとなしかった。
それがどうだ。
オレは車を五メートル吹き飛ばして、桃は九メートルも吹き飛ばしている。
どうやら桃にはオレより才能があるらしい。
仕掛ける爆弾の量にもためらいが無い。爆弾を仕掛ける位置も、その種類も桃の方が的確だ。
それに比べたら、オレは覚えも悪いし、てんで役立たずだ。
「なんだかなぁ。と思ってなぁ」
そう答えて、オレは自分の手のひらを見る。柔道で鍛えたその手がいやに小さく見えた。
「なんだか落ち込んでる?」
桃はそう言ってオレの横に腰掛けた。オレの肩より下のところに頭のてっぺんが来るくらいに桃は小さい。
「おーう。アンニュイってやつだ」
「アンニュイってなに?」
「しらねぇ。青島さんが使ってた」
「知らないのに使ってるの、ミーくん」
桃がおかしそうに口元を押さえてクスクス笑う。
それを見てオレは何となく、昔学校の教室で飼ってたハムスターを思い出す。
「……なあ、桃」
「なに、ミーくん?」
「強さって何だと思う?」
オレは桃にそう訪ねていた。
ただオレは強くなりたかった。
強くなって、何かしたくて、何かするには強くなれば良いと思ってた。
でもだ。オレはオレの信じていた強くなり方じゃ、車を投げ飛ばす事は出来ない。
周囲を囲んだ敵をぶっ飛ばす事も出来ない。
例えば桃がオレの敵だったとして、オレは桃の敵には弱すぎる。
爆弾一発でボンだ。
オレの親父も、柔道の先生も、柔道のチャンプだって、爆弾で死んじゃうんだ。
なら強さってなんだ? それが最近のオレの疑問だった。
オレは桃より弱いのか? そうとはとても思えない。
でも桃はオレを……オレより強い人を爆弾で簡単にぶっとばせる。
青島さんだってそうだ。
青島さんは強い。ファイバーズの最初の頃は青島さんだけがほぼ戦っていた。
オレを含む四人は青島さんの指示に従っていただけだ。
それが悔しくて、何とかしたくて……でもなんとかなってる感じもしない。
銃を撃ったり、爆弾仕掛けたり、出来ることは確かに増えたけど……一緒の時期に始めた皆よりオレは全部ヘタだ。
強さの単位がオレの中でおかしくなっていた。
だから、桃なら……オレより爆弾の使い方が上手くて強いと思っている桃がどんなふうに考えているかを知りたかった。
桃はオレの言葉に少し考えて、軽い口調で言った。
「わかんない」
本当にあっさりと桃はそう言った。
「……わからないのか?」
それは意外な答えだった。
桃がオレよりも爆弾を使いこなせる事もそうだけど、桃はよく考えている子だったから、わからないとあっさり口に出した事も本当に意外だった。
「わかんないよ。ミーくんみたいにわたし強くないもん」
あっさりと、そう簡単に言われてオレは驚く。
「でもお前の方が爆弾の使い方、うまいじゃないか?」
「……あんなの強さじゃないよ。青島さんが言ってた。臆病な人間がそれでも勝ちたくて罠を作ったんだって」
そんな話は初めて聞いた。
「爆弾は卑怯だから強くないもん。でもミーくんは違うでしょ?」
「お、オレだって、爆弾使ってるぞ?」
「でも爆弾使わなかったら、ミーくんの方が強いよ?」
「……でも爆弾があれば」
「ファイバーズの時しか、爆弾は使えないよ?」
桃の言葉にオレは何も言えなくなる。
難しく考えすぎてたんだろうか? そう言われれば、確かにそうだ。爆弾が無ければ……オレの方が強い。
「……じゃあ、青島さんとオレ、どっちが強いと思う?」
なぜそう訪ねたかオレにもわからない。単純に思いつきだった。
桃は少し考えてオレに言う。
「わかんない」
もう一度そう言われて、オレは立ち上がった。
そうだな。わからん。わからんなら、やってみれば良い。
「ありがとな。桃」
起き上がるのに手を貸しながら、オレはお礼を言った。
◆
ミーくんは悩んでたみたい。
多分、前にミーくんが言ってたように罠は卑怯。
でも生き残る為には必要で、生き残る以外には使っちゃ駄目なんだと思う。
車を片付け終えた青島さんにミーくんは勝負を挑んだ。
青島さんはそれを受けた。いつも見たいに笑いながら。
よくわからなけど、青島さんが勝った。
わたしは弱いから、強いっていうのがなんなのかわからない。
でもミーくんは強いと思う。
負けて地面に寝転がって、ミーくんは楽しそうに笑ってた。
その笑い声が楽しそうなところがミーくんの強さだと思う。
頑張れ、グリーン、ピンク! 若さは振り向かないことだ!
行くんだ、ファイバーズ! 夕日に向かってダッシュ、ダーッシュ!
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