職場は超ブルー

森山 銀杏

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番組放送後 悲しみ の しぼうこくち

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「納得いかんです!!」

案の定と言うべきか。

キリマンは何とも言えない表情でその言葉を受け止めた。

ファイバーズの番組打ち合わせ会議はひどい有様だった。

キリマンは命令としてスタッフ達に向かってブルーを亡き者にするように命じた。

それに対してスタッフ達は猛烈に反対してくる。

「ブルーはファイバーズの心臓部です! キリマンさんだってわかってるでしょう!?」

代表して声を荒立てているのは脚本家のラッコだった。キリマンと彼はファイバーズの番組を立ち上げたときに互いに頑張ろうと杯を交わした仲だ。その声には非難の色がありありと込められていた。

「自殺行為です!」

「……主張はわかる。わかるが、これは決定だ。局長命令なんだ」

キリマンとて、こんなことは言いたくないのだ。だが上司の命令である。

キリマン自身、良い作品を作りたいと思い、テレビ局に入った。

人を喜ばせたいと言う意思もあった。

ファイバーズの立ち上げ初期。子供達が興奮できるような番組を作ろうと思った事に噓は無い。

「局長は番組を作れんでしょう!」

「それを言うか!」

キリマンはキレた。そう言う事ではないのだ。

キリマンとてハマンディ局長の言葉は蹴り上げて、丸めて、ゴミ箱に放り込んでやりたい。

「言いますとも!」

「だが成果は出てない!!」

「視聴率はとってるでしょう!! 胸を張れる数字です!!」

「ああ、そうだな! そうだろう。認めよう! だがな、おもちゃが売れないんだ!」

「おもちゃがなんだって言うんですか! 俺たちは番組を面白く作るのが仕事です!」

顔を真っ赤にして怒鳴るラッコに、キリマンは怒りを通り越して泣きたくなる。

「俺も性急すぎると思いますよ。言ったら何ですが、この間に問題だって話になった訳じゃないですか」

怪人作成班のコアラも声を上げた。

いろいろ考えて実行し、成果は確かに出せていないが……何も殺す事は無いじゃないかと思う。

そうだそうだとスタッフ達が声を揃える。

それはスタッフ一同の思いでもあり、言ってしまえばキリマン自身もそう思っている。

だが、しかしである。

こんな事は言いたくない。だがキリマンは言わなくては何ともならない領域に入り込んで行くのがわかった。

興奮した彼らには、伝わらないかもしれない。それでもキリマンは口を開く。

「違う。間違いだ。面白い作品を作るのだけが、君等の仕事じゃない」

「何が違うって言うんですか!?」

「……君等の仕事は、”スポンサー”が喜んで、なおかつ視聴者が楽しむ番組を作る事だ。俺たちはその一つしかこなせなかった。わかるか? スポンサーは喜んでないんだ」

「で、ですが、ファイバーズは視聴率が取れてるんですよ!? それを」

「俺だって危険だとは思う」

「だったら!!」

「だがな。だめなんだ……ファイバーズは誰向けに作った番組だ?」

「……それは」

言いよどむラッコにキリマンは口元を悲しげに歪めて口を開く。

「言えないか? じゃあ、俺が言ってやろう。子供向けだ。子供向け番組だ。チャイルド……わかってるだろうな」

キリマンは黙っているスタッフ全員を見渡して、そう言い含めるように言う。

誰もがその言葉には反論できなかった。うすうす勘づいていた。見ない振りをしてきた。

キリマンは最後にラッコを見据えて言った。

「今の中心視聴者の大半は子供か?」

「……子供だって見ています」

そう返す返事には力が無い。

「ああ、見ているだろう! 言いにくいだろうから言ってやる。大人が見ているのが大半だ!!

キリマンはそう言って、握り拳を机に叩き付けた。

誰も彼もが悲しそうな顔をする。子供達のため、ヒーローの姿を見せる。そう言って番組を作り続けていたが……。

「認めたくないが、俺たちはしくじった。その先でたまたま成功しただけだ」

「ですが!」

「みとめろ! 俺たちは目的から離れた場所で別の鉱脈を見つけただけだ。目的は果たせなかった。路線変更は……仕方ないだろう」

キリマンの言葉尻は小さくなって行く。

脚本、演出スタッフも声には出さなかったし、誰も言わなかった。

正直な所、必ずしも子供向けだけの演出をしてきた訳じゃない。反応が良い事を理由に大人向けの演出をしてきた。

それは怪人作成班も一緒だった。

デザインが子供っぽいと反応が良くないので不気味でリアルな方面へ意識を傾けてもいた。

だから一概に……そう一概に誰が悪いとは言えないのだ。

そう悲しいかな、キリマンを筆頭にスタッフ達は失敗した。失敗したのだ。

それを認めるのは辛かった。

「そ、それでいいんですか!」

ラッコが憤りを向ける先すら見失ってそう叫ぶ。

だがキリマンはその目を見る事すら出来ず、机の上に握った拳をさらに握りしめて悲しそうな声で言った。

「良いわけないだろう。だけど、俺たちは大人なんだ。俺だって言いたかない。だが俺の立場じゃ、こういうしか無いんだ」

間を空けて、キリマンは頭を垂れる。

「仕方ないんだ。仕方が無いんだよ」

その悲しそうな声にラッコは頭を垂れる。

面白い番組を作ろう。そう言って杯を交わした。

そのときに抱いた思いや野望は形にならず消えて行く。

あきらめ。

それが反抗する為の口を動かなくし、抵抗する事も許してはくれない。

「ブルーは決まったタイミングで、一人で戦ってもらう。いろいろと工作も必要だろう……だがこれが決定事項だ。ブルーは……ブルーには死んでもらう」

誰もそれに反論はしなかった。この部屋には大人しかいなかった。

こうして暗い空気の中、ファイバーズの今後のシナリオは大きく変更する事になったのである。

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