33 / 41
放送終了後 ジョンダー帝王
しおりを挟む
異世界、ブブテレビ。
「五人の勇者 ファイバーズ」のスタッフの間にはどんよりとした空気が漂っていた。
その重苦しい空気の中、作業服を着たコアラが口を開く。
「ほんとにやるんですか?」
それに答えるのはキリマンだ。彼自身も沈んだ気持ちを隠そうともせず、口を開く。
「しょうがないだろう。局長命令なんだから」
短く、そう言われて怪人の準備をしていたスタッフはため息を吐きだす。
周囲には怪人の生成用の大きなガラスの容器が並んでいた。容器の中には液体が満たされ、そこに怪人……黄土色の昆虫と人を混ぜたような形をした怪人がまるで胎児のような格好で浮いていた。
バイオプラントで生成された怪人にプログラミングを施し、異世界に送る。
ここはその製造プラントだった。
作業をしていたカマキリが残念そうに口を開く。
「それでも、気が重いっすよ。ブルーのファンなんですよ。うちの親父」
それに答えるのはかたつむりだった。
「ああ、家のじいさんもファンなんだよ。残念だなぁ」
ふたりも作業着を着込み、作業の手を止めて顔を上げてそう言った。
その二人以外にも数人の作業員がおり、それぞれ残念だと口を開いた。
ファイバーズの敵を作っている部署だからこそ、それを倒すファイバーズの頑張りを感じているのだ。
「というか、ブルーの人ってファイバーズ戦力の中心じゃないですか。抜いちゃったらまずいんじゃ」
作業をしていた二人がそれぞれ話し始めたところで、キリマンは叫ぶ。
「がおぉーーー!!」
雄叫びに全員が黙った。カタツムリなど、殻にこもってしまっている。
一同を見回して、キリマンは肩を怒らせて声を出す。
「上司からの命令なんだ! お前等の給料はどこからでてる!? 会社からだ! 会社は何を求める!? 面白い話を作る事か!? いい番組を作る事か!? ああ、それだったら良かっただろうよ!!」
キリマンはここ最近のむしゃくしゃをぶつけるような勢いで怒鳴った。
「会社が求めてるのは上司の言う事を聞くことだ! それが理不尽であってもな! ブルーが死ぬのは局長命令だ! 怪人のセットアップは終わったのか!」
がるると牙をむき始めた上司に怪人作成班のものは縮み上がる。
「……完了済みです。手加減無しっす」
「今週の上位怪人は!」
「こっちも準備完了済みです。でもいいんですか? 視聴者の募集の怪人にブルーを倒させるんですか?」
「くどい! 採用されたのは二十五歳だ。トラウマになる年でもないだろう!!」
ふんすと荒い鼻息を吐き出すキリマンに怪人作成班のものはこれ以上なにも言えなくなった。
ただ一人だけ、年配のビーバーがキリマンに声をかける。
いろいろと浮き沈みの激しいTV業界を技術で渡ってきた彼に取ってはこういう事もままある事だ。
「キリマンさんや、あれの準備も頭部の調整を残して終わっとるで。見ますか?」
「あれってというと?」
立場は自分の方が上だが年上に対して礼儀を払うキリマンに、ビーバーは頷く。
「ラスボスのジョンダー帝王や」
「ああ」と呟き、キリマンは自分のたてがみを撫でる。
ジョンダー帝王はファイバーズの最後のボスの設定だ。
ジョンダー帝王は来週分の撮影時に残ったファイバーズメンバーにブルーの死体を運ぶ役割があった。
そこでラスボスの存在を見せて、後々にジョンダー帝王が倒されれば物語は完結する。そういう筋書きだ。
デザイン画は見た事があるが、実物は見た事が無かったキリマンはすこし考えて頷く。
「ちょっと見せてもらえますか?」
「ええよ、ええよ、こっちやで」
ビーバーが案内したのはいくつもの容器の並んだ奥……そこにジョンダー帝王はいた。
容器の大きさも他の怪人よりも遥かに大きい。
その容器の中に浮かぶその姿も大きく、黒っぽい紫色で何というか凶悪そうなデザインをしていた。
見上げているキリマンにビーバーは口を開く。
「すまんなぁ、キリマンさん。うちのわかいもんが」
「いえ……私も怒鳴るべきではありませんでした」
「いろいろ理不尽もあるのがこの業界や。華や夢やって、華々しい業界やけど、綺麗な事ばっかりやないからな」
ビーバーの寂しそうな言葉にキリマンも静かに同意する。
「なんや、ままならんことも多い。なにが白で、なにが黒かわからんような世界やからな」
キリマンにもそれは痛い程よくわかった。
自分が面白いと感じたものの視聴率が取れない。つまらないと思ってやった仕事の評判が良いなんてこともザラだ。
だから今回の事も……自分が間違っていて、ブルーを殺す事が正しいのかもしれないのだ。
キリマンは改めて最期のボスの姿を見つめる。先ほどの話にもあった通り、頭部の調整が済んでないと言うのも頷けた。若干色素が薄いのだ。
「頭部は後回しだったんですね」
「重要器官が詰まっとんのや。完全に完成まで五日ってとこや。そしたら、強いで。こいつは」
ビーバーは自信ありげにそう言う。よほど自信があるらしく、ジョンダー帝王を見るその姿は誇らしげだった。
「そう……外装はもう仕上がってますか?」
「ああ、そっちはもう出来とるよ鎧やら。魔人剣やら」
ふむ、では万全だな。とキリマンは納得して、こう言った。
「じゃあ、ブルーに手向けを送ろう。姿だけでも」
「五人の勇者 ファイバーズ」のスタッフの間にはどんよりとした空気が漂っていた。
その重苦しい空気の中、作業服を着たコアラが口を開く。
「ほんとにやるんですか?」
それに答えるのはキリマンだ。彼自身も沈んだ気持ちを隠そうともせず、口を開く。
「しょうがないだろう。局長命令なんだから」
短く、そう言われて怪人の準備をしていたスタッフはため息を吐きだす。
周囲には怪人の生成用の大きなガラスの容器が並んでいた。容器の中には液体が満たされ、そこに怪人……黄土色の昆虫と人を混ぜたような形をした怪人がまるで胎児のような格好で浮いていた。
バイオプラントで生成された怪人にプログラミングを施し、異世界に送る。
ここはその製造プラントだった。
作業をしていたカマキリが残念そうに口を開く。
「それでも、気が重いっすよ。ブルーのファンなんですよ。うちの親父」
それに答えるのはかたつむりだった。
「ああ、家のじいさんもファンなんだよ。残念だなぁ」
ふたりも作業着を着込み、作業の手を止めて顔を上げてそう言った。
その二人以外にも数人の作業員がおり、それぞれ残念だと口を開いた。
ファイバーズの敵を作っている部署だからこそ、それを倒すファイバーズの頑張りを感じているのだ。
「というか、ブルーの人ってファイバーズ戦力の中心じゃないですか。抜いちゃったらまずいんじゃ」
作業をしていた二人がそれぞれ話し始めたところで、キリマンは叫ぶ。
「がおぉーーー!!」
雄叫びに全員が黙った。カタツムリなど、殻にこもってしまっている。
一同を見回して、キリマンは肩を怒らせて声を出す。
「上司からの命令なんだ! お前等の給料はどこからでてる!? 会社からだ! 会社は何を求める!? 面白い話を作る事か!? いい番組を作る事か!? ああ、それだったら良かっただろうよ!!」
キリマンはここ最近のむしゃくしゃをぶつけるような勢いで怒鳴った。
「会社が求めてるのは上司の言う事を聞くことだ! それが理不尽であってもな! ブルーが死ぬのは局長命令だ! 怪人のセットアップは終わったのか!」
がるると牙をむき始めた上司に怪人作成班のものは縮み上がる。
「……完了済みです。手加減無しっす」
「今週の上位怪人は!」
「こっちも準備完了済みです。でもいいんですか? 視聴者の募集の怪人にブルーを倒させるんですか?」
「くどい! 採用されたのは二十五歳だ。トラウマになる年でもないだろう!!」
ふんすと荒い鼻息を吐き出すキリマンに怪人作成班のものはこれ以上なにも言えなくなった。
ただ一人だけ、年配のビーバーがキリマンに声をかける。
いろいろと浮き沈みの激しいTV業界を技術で渡ってきた彼に取ってはこういう事もままある事だ。
「キリマンさんや、あれの準備も頭部の調整を残して終わっとるで。見ますか?」
「あれってというと?」
立場は自分の方が上だが年上に対して礼儀を払うキリマンに、ビーバーは頷く。
「ラスボスのジョンダー帝王や」
「ああ」と呟き、キリマンは自分のたてがみを撫でる。
ジョンダー帝王はファイバーズの最後のボスの設定だ。
ジョンダー帝王は来週分の撮影時に残ったファイバーズメンバーにブルーの死体を運ぶ役割があった。
そこでラスボスの存在を見せて、後々にジョンダー帝王が倒されれば物語は完結する。そういう筋書きだ。
デザイン画は見た事があるが、実物は見た事が無かったキリマンはすこし考えて頷く。
「ちょっと見せてもらえますか?」
「ええよ、ええよ、こっちやで」
ビーバーが案内したのはいくつもの容器の並んだ奥……そこにジョンダー帝王はいた。
容器の大きさも他の怪人よりも遥かに大きい。
その容器の中に浮かぶその姿も大きく、黒っぽい紫色で何というか凶悪そうなデザインをしていた。
見上げているキリマンにビーバーは口を開く。
「すまんなぁ、キリマンさん。うちのわかいもんが」
「いえ……私も怒鳴るべきではありませんでした」
「いろいろ理不尽もあるのがこの業界や。華や夢やって、華々しい業界やけど、綺麗な事ばっかりやないからな」
ビーバーの寂しそうな言葉にキリマンも静かに同意する。
「なんや、ままならんことも多い。なにが白で、なにが黒かわからんような世界やからな」
キリマンにもそれは痛い程よくわかった。
自分が面白いと感じたものの視聴率が取れない。つまらないと思ってやった仕事の評判が良いなんてこともザラだ。
だから今回の事も……自分が間違っていて、ブルーを殺す事が正しいのかもしれないのだ。
キリマンは改めて最期のボスの姿を見つめる。先ほどの話にもあった通り、頭部の調整が済んでないと言うのも頷けた。若干色素が薄いのだ。
「頭部は後回しだったんですね」
「重要器官が詰まっとんのや。完全に完成まで五日ってとこや。そしたら、強いで。こいつは」
ビーバーは自信ありげにそう言う。よほど自信があるらしく、ジョンダー帝王を見るその姿は誇らしげだった。
「そう……外装はもう仕上がってますか?」
「ああ、そっちはもう出来とるよ鎧やら。魔人剣やら」
ふむ、では万全だな。とキリマンは納得して、こう言った。
「じゃあ、ブルーに手向けを送ろう。姿だけでも」
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる