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決戦前 ブルーこと青島
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日曜日、朝。
俺は戦場に居た。
予測システムが指し示したのは旧開発地域、東京の辺境だった。
ここが選択されたのは三度目になる。
寂れた建物が乱立し、ゴーストタウンとなっている。もともと開発地域であったのだが、地盤の不安定さが指摘され中断。中途半端に建てられたビルが乱立しており、ライフラインは閉鎖され、廃墟マニア達の間ではそこそこ有名だ。
俺が居るのはその中央部、仮設テントの中だった。
俺は汚く梱包された段ボール箱の中からアルミのケースを二つと、ヨレヨレになった説明書を取り出す。
説明書には簡単な説明文だけが簡素に載っていて、最後にこれを送ってくれた知り合いのサインが乱雑に書かれてあった。
『試薬のAを動脈注射して、試薬Bを筋肉注射しろ。そしたら効果が現れる。効果は三分程度。その後、嘔吐とめまいと頭痛と下痢になる。トイレを掃除してから打つのがおすすめだ。AからBを打ち込むまでの間は五時間前後以内だ。それ以上だと薬は反応せず、体内に吸収される。そうしたら下痢だけだ。
PS、短期間に同じ薬を重複するな。脳が膨れ上がって目玉が飛び出すらしいぞ』
……目玉が飛び出すって冗談か、噓かわからないぞ。
俺はゲンナリしながら、アルミのケースを見る。赤いペンキでAとBと汚く書かれていた。
Aのケースを開けてみる。
そこには少綺麗な注射器が入っていてピストンの中には発色の良い緑の液体が込められている。
実に体に悪そうだった。
Bの方を確認すると針の長さは違うが同じような注射器に洗剤みたいな、あでやかな青色の液体が入っていた。
それが自分の中に流れ込んで行く光景は何ともおぞましい。
「全く、モルモットの気分だ」
俺は悪態をつきながら、自分で右腕の袖口をまくって、準備していたゴムバンドを二の腕に巻く。
肘の辺りをぺしぺし叩くと血管が浮き出てきた。
準備しておいたアルコールで手を拭いて、そこに注射針を打ち込む。
緑の液体をすべて注入し終える。
「これが洗剤だったら、おしまいだぞ。全く」
俺がそう悪態をついて絆創膏を注射痕に張る。
片付けを終えたところで迷彩服の男がテントの中に入ってきた。荷物運びと準備の援軍として呼んだ国防軍だ。
「青島さん、準備完了しました」
今回はいつもと違い、俺一人しかいないのでかなり無理を言っていろいろ準備を手伝ってもらった。
だが爆薬を仕掛けたのは俺自身で、正直結構だるい。
「かなり大掛かりですが……今回はいつもと違うのですね」
「ええ、中杉さん……いろいろありまして」
いつもは5人だけど、今日は一人なので不安で……とは言わなかった。
彼は訝しみつつも、深く聞いてはこなかった。
「とにかくご苦労様です」
「ええ……。それと、大佐から『これで借りは返した』と」
「分かったと返事を返しておいてください。これは貸しにしてくれても良いとも」
俺の言葉に中杉さんは笑い敬礼しながら「了解しました」と返してくれた。
そして声を潜めて言う。
「あれの待機も終了済みです」
それに対して俺はこう答える。
「わかった。あれに関しては俺も注意して運用します。できるだけ迷惑をかけないように」
俺はそう言って、中杉さんはもう一度分かりましたと告げる。
そしてそのままテントを出て行こうとした彼は立ち止まった。
「どうしましたか?」
尋ねる俺に、中杉さんは申し訳なさそうに振り返る。
「申し訳ない。今日はいつもの人間とは違っていくらか人を連れてきていて……ぜひ、青島さんにご挨拶をしたいと……よろしいですか?」
「え、ええ……私にですか? 構いませんが……」
とりあえず、そう返事をした俺に、中杉さんはお礼を言いながら、テントの外に声をかける。
入ってきたのは若い新兵と言った感じの青年だった。見覚えは無い。
彼は直立の姿勢を取り、緊張した様子で口を開く。
「し、新兵の荒木です。お時間を頂いてありがとうございます」
「なにかあるのかな?」
尋ねる俺に彼は緊張からか唇をわななかせて口を開く。
「あ、青島さんは“シルバー狩り”とお聞きしました」
「……だとしたら、どうした?」
警戒した俺にその兵隊は口早に喋る。
「あのときの基地に自分の兄は居ました。感謝します!」
そう言って彼はガチガチの敬礼をしてテントを出た。
俺は彼を呆然として見送った。中杉さんがその様子を見て、俺にお辞儀をしてからテントを出る。
……しばらく固まって、俺は頭を掻く。
くそ、照れる。
しかし照れている場合ではない。
俺は最終確認のため、準備のために広げていた地図を眺める。
テントには大きなテーブルがあり、その上には周辺の地図が大きく印刷されていた。
そこらかしこに赤い点が描かれている。
その一つずつに準備を施している。ありったけの武器も準備した。
敵がどこから来ようと万全の状態だ。
その赤い点が散らばっている中心。そこが開始時に俺が居る予定のポイントA地点。
この辺一帯では中心部にあり、高さがあり、なおかつ大きな道路に面している。
もし予定通り、開発が行われていればここは街の中心になったところだ。
その屋上に俺は陣取る予定だった。
町の中心部という事もあり、敵の出現ポイントが明確になったときにどのようにでも対応できる。
またA地点から怪人の出現ポイントが狙えるならば、直接狙撃を行う算段だ。
現れる怪人は現れる瞬間に一番隙が出来る。そこを叩くのが理想となる。
A地点からの離脱は大通りを挟んだビルへのワイヤーを使った移動だ。
既にA地点のビルの屋上からはワイヤーをつないでいる。それにフックで引っ掛けて滑り降りるように移動。
そこから敵の出現の仕方に合わせて移動経路を変える。
予測されるルートをそれぞれなぞりながら、俺は大きく息を吐きだした。
出来る限りの準備をした。
ありとあらゆるコネからほぼ満面無く無理をさせている。
上層部が俺のした準備の内容を知ったら、カンカンに怒るかもしれない。
それだけの準備を俺はしていた。
俺は戦場に居た。
予測システムが指し示したのは旧開発地域、東京の辺境だった。
ここが選択されたのは三度目になる。
寂れた建物が乱立し、ゴーストタウンとなっている。もともと開発地域であったのだが、地盤の不安定さが指摘され中断。中途半端に建てられたビルが乱立しており、ライフラインは閉鎖され、廃墟マニア達の間ではそこそこ有名だ。
俺が居るのはその中央部、仮設テントの中だった。
俺は汚く梱包された段ボール箱の中からアルミのケースを二つと、ヨレヨレになった説明書を取り出す。
説明書には簡単な説明文だけが簡素に載っていて、最後にこれを送ってくれた知り合いのサインが乱雑に書かれてあった。
『試薬のAを動脈注射して、試薬Bを筋肉注射しろ。そしたら効果が現れる。効果は三分程度。その後、嘔吐とめまいと頭痛と下痢になる。トイレを掃除してから打つのがおすすめだ。AからBを打ち込むまでの間は五時間前後以内だ。それ以上だと薬は反応せず、体内に吸収される。そうしたら下痢だけだ。
PS、短期間に同じ薬を重複するな。脳が膨れ上がって目玉が飛び出すらしいぞ』
……目玉が飛び出すって冗談か、噓かわからないぞ。
俺はゲンナリしながら、アルミのケースを見る。赤いペンキでAとBと汚く書かれていた。
Aのケースを開けてみる。
そこには少綺麗な注射器が入っていてピストンの中には発色の良い緑の液体が込められている。
実に体に悪そうだった。
Bの方を確認すると針の長さは違うが同じような注射器に洗剤みたいな、あでやかな青色の液体が入っていた。
それが自分の中に流れ込んで行く光景は何ともおぞましい。
「全く、モルモットの気分だ」
俺は悪態をつきながら、自分で右腕の袖口をまくって、準備していたゴムバンドを二の腕に巻く。
肘の辺りをぺしぺし叩くと血管が浮き出てきた。
準備しておいたアルコールで手を拭いて、そこに注射針を打ち込む。
緑の液体をすべて注入し終える。
「これが洗剤だったら、おしまいだぞ。全く」
俺がそう悪態をついて絆創膏を注射痕に張る。
片付けを終えたところで迷彩服の男がテントの中に入ってきた。荷物運びと準備の援軍として呼んだ国防軍だ。
「青島さん、準備完了しました」
今回はいつもと違い、俺一人しかいないのでかなり無理を言っていろいろ準備を手伝ってもらった。
だが爆薬を仕掛けたのは俺自身で、正直結構だるい。
「かなり大掛かりですが……今回はいつもと違うのですね」
「ええ、中杉さん……いろいろありまして」
いつもは5人だけど、今日は一人なので不安で……とは言わなかった。
彼は訝しみつつも、深く聞いてはこなかった。
「とにかくご苦労様です」
「ええ……。それと、大佐から『これで借りは返した』と」
「分かったと返事を返しておいてください。これは貸しにしてくれても良いとも」
俺の言葉に中杉さんは笑い敬礼しながら「了解しました」と返してくれた。
そして声を潜めて言う。
「あれの待機も終了済みです」
それに対して俺はこう答える。
「わかった。あれに関しては俺も注意して運用します。できるだけ迷惑をかけないように」
俺はそう言って、中杉さんはもう一度分かりましたと告げる。
そしてそのままテントを出て行こうとした彼は立ち止まった。
「どうしましたか?」
尋ねる俺に、中杉さんは申し訳なさそうに振り返る。
「申し訳ない。今日はいつもの人間とは違っていくらか人を連れてきていて……ぜひ、青島さんにご挨拶をしたいと……よろしいですか?」
「え、ええ……私にですか? 構いませんが……」
とりあえず、そう返事をした俺に、中杉さんはお礼を言いながら、テントの外に声をかける。
入ってきたのは若い新兵と言った感じの青年だった。見覚えは無い。
彼は直立の姿勢を取り、緊張した様子で口を開く。
「し、新兵の荒木です。お時間を頂いてありがとうございます」
「なにかあるのかな?」
尋ねる俺に彼は緊張からか唇をわななかせて口を開く。
「あ、青島さんは“シルバー狩り”とお聞きしました」
「……だとしたら、どうした?」
警戒した俺にその兵隊は口早に喋る。
「あのときの基地に自分の兄は居ました。感謝します!」
そう言って彼はガチガチの敬礼をしてテントを出た。
俺は彼を呆然として見送った。中杉さんがその様子を見て、俺にお辞儀をしてからテントを出る。
……しばらく固まって、俺は頭を掻く。
くそ、照れる。
しかし照れている場合ではない。
俺は最終確認のため、準備のために広げていた地図を眺める。
テントには大きなテーブルがあり、その上には周辺の地図が大きく印刷されていた。
そこらかしこに赤い点が描かれている。
その一つずつに準備を施している。ありったけの武器も準備した。
敵がどこから来ようと万全の状態だ。
その赤い点が散らばっている中心。そこが開始時に俺が居る予定のポイントA地点。
この辺一帯では中心部にあり、高さがあり、なおかつ大きな道路に面している。
もし予定通り、開発が行われていればここは街の中心になったところだ。
その屋上に俺は陣取る予定だった。
町の中心部という事もあり、敵の出現ポイントが明確になったときにどのようにでも対応できる。
またA地点から怪人の出現ポイントが狙えるならば、直接狙撃を行う算段だ。
現れる怪人は現れる瞬間に一番隙が出来る。そこを叩くのが理想となる。
A地点からの離脱は大通りを挟んだビルへのワイヤーを使った移動だ。
既にA地点のビルの屋上からはワイヤーをつないでいる。それにフックで引っ掛けて滑り降りるように移動。
そこから敵の出現の仕方に合わせて移動経路を変える。
予測されるルートをそれぞれなぞりながら、俺は大きく息を吐きだした。
出来る限りの準備をした。
ありとあらゆるコネからほぼ満面無く無理をさせている。
上層部が俺のした準備の内容を知ったら、カンカンに怒るかもしれない。
それだけの準備を俺はしていた。
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