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第一章
03.
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サンドローズ邸は、名の通り薔薇の彫刻が施された石造りの門が出迎えてくれた。
門の周りは薔薇の生垣と、薔薇の彫刻の柱で囲まれている。
石造りの門は何百年も前、フォルトデリア王国建国から、サンドローズが存在した象徴だそうだ。
馬車の御者が、門番に許可証を見せて、門を通過する。
門の中は、色とりどりの薔薇の庭園があった。噴水や女神の彫刻もあり、リゼットは自分の屋敷と違いすぎて圧巻した。
(さすが、大貴族のお屋敷ですね。わたくしなど招待されていないのに、婚約者だからと来てもよかったのかしら……)
それは顔に出ていたのが、隣に座っていたレオンが手に触れる。
「リゼット?」
「は、はい……。あの、やはり、わたくしは引き返し……」
「ダーメ。もう門を通ったし、今引き返すのは失礼だよ」
「……ですよね」
屋敷に到着すると、サンドローズ侯が出迎えていた。
「レオナード様!ようこそおいでくださいました」
「サンドローズ侯爵、お招きいただきありがとうございます」
レオンがお辞儀をし、サンドローズ侯爵と挨拶を交わす。
続いてリゼットも、サンドローズ侯爵に挨拶をする。すでに手のひらは汗でしっとりしている。
「お初にお目にかかります。リゼット・レイシーモルドと申します。お会いできて光栄です」
ニコリと微笑み、会釈する。
サンドローズ侯爵も微笑み、レオンの方を向いた。
「レオナード様、こちらのお嬢様が婚約者の?」
「そうです。今日はご挨拶も兼ねてエスコートしています」
「とても可愛らしいお嬢様だ」
サンドローズ侯爵は、リゼットの手を取り口付けの振りをする。
とりあえず、ここまでのマナーは大丈夫だったということだろう。
それから控えていた執事を呼び、会場への案内を指示した。
マノンとルーは、色々と用意があるため、ここからは別行動となる。
執事に案内され邸内の廊下を通り、邸宅の庭園へと向かう。
複雑に入り組んでいて、執事から離れたら迷子になりそうだ。
その間、レオンが話しかけてきた。
「サンドローズは、俺の兄が婿入りする予定なんだ。三男のマティス。リゼットは話したことあったかな?」
「えーと、マティス様とは学院の幼等部の頃に、拝見したことはあります」
マティスはレオンの一つ上の兄。
マティスの母は王妃。
ブランティーヌ・サンドローズとの婚姻は、レオンと同じく幼い時から決まっていた。
サンドローズ侯爵は三代前の国王の弟君で、マティスとブランティーヌは遠い親戚にあたる。
レオンと似た美青年だが、騎士には向いていなかった。幼い頃から魔法の扱いに才能があり、魔導師団のトップに立っていた。
(そういえば、父からもマティス様のお話は聞いたことがあるような……)
とはいえ、トップと下位では接触することがあまりないため、マティス様の伝説のような自慢話だったけれど。
リゼットが回想をしているうちに、庭園に辿り着いた。
執事が一礼をして、来たルートを戻る。
庭園は色とりどりの薔薇が咲いていた。
石門の蔓薔薇もだが、本当に薔薇に囲まれた邸宅なのだと納得した。
その芳しい香りの、リゼットはうっとりした。
「レオナード様、ようこそおいでくださいました」
凛とした声で、ブランティーヌ・サンドローズが声をかける。
銀色の髪は編み込み、後ろで一つにまとめてある。瞳の色と揃えた赤いドレスは、胸下をシルクのリボンで止め、足首までふんわりとした可愛らしいドレスだった。
右手の薬指には、婚約の証の指輪が輝いている。
レオンとブランティーヌが先に挨拶をし、その後にリゼットが続く。
「リゼット様とは、何度か他の方のお茶会でお話しましたね」
挨拶を終えてブランティーヌは微笑んだ。
「は、はい。またお会いできて嬉しいです」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。そのうちに、義理の姉妹になりますものね」
「……そ、そうですね!」
(ああ、そうだわ。わたくしとレオンが結婚したら、ブランティーヌ様とも……)
「ブランティーヌ様、兄上はどちらに?まだご挨拶ができていないので、伺いたいのですが」
レオンが会話に差し込んできた。
リゼットは会話が続かなく気まずくなる前で、とてもホッとした。
ブランティーヌは、「あらいけない」と微笑み、マティスのところまで一緒に歩くこととなった。
マティスは、他の客人に囲まれてテーブルを囲み話をしていた。
ブランティーヌが声をかけると、立ち上がりこちらに向かってくる。
細身の体形は、レオンと違った美青年。レオンはたくましいけれど、マティスは
絵本で見るような綺麗な王子様。
「やあ。レオン、リゼット、久しぶりだな!……ああ、挨拶は簡単でいいよ。兄弟だし、未来の弟嫁だし」
だいぶ会話が砕けているのは、兄弟だからだろうか。
リゼットは迷ったが、お辞儀をした。
「リゼット、君はますます美しくなったな。幼等部の頃に少し遊んだことあったけど、10年以上も経つもんな!」
「兄上、幼児の頃と比較してはいけません」
「レオン。たまには城にリゼットを連れておいで。父上も母上も、君たちに会いたがってるぞ」
「軽々しく誘わないでください。リゼットを連れて行くと、母上が着せ替え人形にしてしまうではないですか」
リゼットは婚約が決まった幼少期を思い出した。
父と城に向かい、挨拶を済ました後、王妃……マティスの母がリゼットを誘い、衣装を取っ替え引っ替えしたことを思い出した。
レオンとの会話は慣れているものの、王妃様に何も言えず、トイレに行きたいとも言えず、ギリギリまで我慢したことも。
色んなドレスを着るのは楽しかったけど、自分の意思を伝えられなくてとても怖かった。
後にレオンが来てくれて、色々とセーフだったけれども。
それ以降は、レオンは城に誘わなかったし、なるべく近づかなくても良いことになった。
次に行くのは婚姻関係の時だろうか。
思い出して青ざめていると、ブランティーヌが声をかけてきた。
「リゼット様、少し顔色が悪いですわ。別室を用意しますか?」
「ありがとうございます。でもレオンとはぐれては行けないので……」
「でしたら、あのお二人のお話が終えたら、休憩の部屋に案内しますわ」
ちらりと見ると、まだやりとりが終わらない。
仕方ないので、側仕えのマノンも呼んでもらうことで休憩の部屋に案内してもらった。
庭園からすぐの部屋で、庭園も見える窓があり、わずかに賑やかな声がする。
ソファとテーブルが備え付けられた、簡単な部屋。
ブランティーヌに案内してもらって、ソファに腰掛ける。
すぐにマノンもやってきた。
「ブランティーヌ様、ありがとうございます。少し休めば大丈夫ですから」
「ええ。わかりましたわ。あのお二人が話し終えたら、レオナード様もこちらに案内しますわね」
「本当にありがとうございます」
ブランティーヌが部屋を出ると、マノンはリゼットの額に手を当て、その後脈を測った。
熱もなく、やはり緊張の糸が途切れたのだろう。
「リゼット様、とりあえず主賓に挨拶できたので、今日のお茶会は大丈夫ですよ」
「主賓の前で具合が悪くなって、主賓に運ばれても?」
「ブランティーヌ様は未来のお姉様ですから、きっと大丈夫です!」
「え、と?」
マノンは笑うけど、失礼がなかったわけではない。
ちらりと窓の外を見ると、皆さま優雅にお茶会を楽しんでいる。
(わたくしだけだわ)
何とは言わないけれど、リゼットはものすごく悲しい気持ちが溢れてきた。
視線の先に、レオンがいた。ブランティーヌと、マティスと、3人で笑い合っている。とても自然に、立ち振る舞うレオンに、ますます深い悲しみを覚えた。
「……少し休んだら、戻りましょうか」
マノンが頭を撫で撫でしてくれて、幼い頃のようで、でも嬉しかった。
マノンの淹れた紅茶は、とても美味しかった。
心も落ち着いた。
「マノン、お茶会が終わって屋敷に帰ったら、新しいお菓子作り手伝ってくださいね」
「はい!楽しみにしています」
リゼットは、また庭園に戻った。
門の周りは薔薇の生垣と、薔薇の彫刻の柱で囲まれている。
石造りの門は何百年も前、フォルトデリア王国建国から、サンドローズが存在した象徴だそうだ。
馬車の御者が、門番に許可証を見せて、門を通過する。
門の中は、色とりどりの薔薇の庭園があった。噴水や女神の彫刻もあり、リゼットは自分の屋敷と違いすぎて圧巻した。
(さすが、大貴族のお屋敷ですね。わたくしなど招待されていないのに、婚約者だからと来てもよかったのかしら……)
それは顔に出ていたのが、隣に座っていたレオンが手に触れる。
「リゼット?」
「は、はい……。あの、やはり、わたくしは引き返し……」
「ダーメ。もう門を通ったし、今引き返すのは失礼だよ」
「……ですよね」
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「レオナード様!ようこそおいでくださいました」
「サンドローズ侯爵、お招きいただきありがとうございます」
レオンがお辞儀をし、サンドローズ侯爵と挨拶を交わす。
続いてリゼットも、サンドローズ侯爵に挨拶をする。すでに手のひらは汗でしっとりしている。
「お初にお目にかかります。リゼット・レイシーモルドと申します。お会いできて光栄です」
ニコリと微笑み、会釈する。
サンドローズ侯爵も微笑み、レオンの方を向いた。
「レオナード様、こちらのお嬢様が婚約者の?」
「そうです。今日はご挨拶も兼ねてエスコートしています」
「とても可愛らしいお嬢様だ」
サンドローズ侯爵は、リゼットの手を取り口付けの振りをする。
とりあえず、ここまでのマナーは大丈夫だったということだろう。
それから控えていた執事を呼び、会場への案内を指示した。
マノンとルーは、色々と用意があるため、ここからは別行動となる。
執事に案内され邸内の廊下を通り、邸宅の庭園へと向かう。
複雑に入り組んでいて、執事から離れたら迷子になりそうだ。
その間、レオンが話しかけてきた。
「サンドローズは、俺の兄が婿入りする予定なんだ。三男のマティス。リゼットは話したことあったかな?」
「えーと、マティス様とは学院の幼等部の頃に、拝見したことはあります」
マティスはレオンの一つ上の兄。
マティスの母は王妃。
ブランティーヌ・サンドローズとの婚姻は、レオンと同じく幼い時から決まっていた。
サンドローズ侯爵は三代前の国王の弟君で、マティスとブランティーヌは遠い親戚にあたる。
レオンと似た美青年だが、騎士には向いていなかった。幼い頃から魔法の扱いに才能があり、魔導師団のトップに立っていた。
(そういえば、父からもマティス様のお話は聞いたことがあるような……)
とはいえ、トップと下位では接触することがあまりないため、マティス様の伝説のような自慢話だったけれど。
リゼットが回想をしているうちに、庭園に辿り着いた。
執事が一礼をして、来たルートを戻る。
庭園は色とりどりの薔薇が咲いていた。
石門の蔓薔薇もだが、本当に薔薇に囲まれた邸宅なのだと納得した。
その芳しい香りの、リゼットはうっとりした。
「レオナード様、ようこそおいでくださいました」
凛とした声で、ブランティーヌ・サンドローズが声をかける。
銀色の髪は編み込み、後ろで一つにまとめてある。瞳の色と揃えた赤いドレスは、胸下をシルクのリボンで止め、足首までふんわりとした可愛らしいドレスだった。
右手の薬指には、婚約の証の指輪が輝いている。
レオンとブランティーヌが先に挨拶をし、その後にリゼットが続く。
「リゼット様とは、何度か他の方のお茶会でお話しましたね」
挨拶を終えてブランティーヌは微笑んだ。
「は、はい。またお会いできて嬉しいです」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。そのうちに、義理の姉妹になりますものね」
「……そ、そうですね!」
(ああ、そうだわ。わたくしとレオンが結婚したら、ブランティーヌ様とも……)
「ブランティーヌ様、兄上はどちらに?まだご挨拶ができていないので、伺いたいのですが」
レオンが会話に差し込んできた。
リゼットは会話が続かなく気まずくなる前で、とてもホッとした。
ブランティーヌは、「あらいけない」と微笑み、マティスのところまで一緒に歩くこととなった。
マティスは、他の客人に囲まれてテーブルを囲み話をしていた。
ブランティーヌが声をかけると、立ち上がりこちらに向かってくる。
細身の体形は、レオンと違った美青年。レオンはたくましいけれど、マティスは
絵本で見るような綺麗な王子様。
「やあ。レオン、リゼット、久しぶりだな!……ああ、挨拶は簡単でいいよ。兄弟だし、未来の弟嫁だし」
だいぶ会話が砕けているのは、兄弟だからだろうか。
リゼットは迷ったが、お辞儀をした。
「リゼット、君はますます美しくなったな。幼等部の頃に少し遊んだことあったけど、10年以上も経つもんな!」
「兄上、幼児の頃と比較してはいけません」
「レオン。たまには城にリゼットを連れておいで。父上も母上も、君たちに会いたがってるぞ」
「軽々しく誘わないでください。リゼットを連れて行くと、母上が着せ替え人形にしてしまうではないですか」
リゼットは婚約が決まった幼少期を思い出した。
父と城に向かい、挨拶を済ました後、王妃……マティスの母がリゼットを誘い、衣装を取っ替え引っ替えしたことを思い出した。
レオンとの会話は慣れているものの、王妃様に何も言えず、トイレに行きたいとも言えず、ギリギリまで我慢したことも。
色んなドレスを着るのは楽しかったけど、自分の意思を伝えられなくてとても怖かった。
後にレオンが来てくれて、色々とセーフだったけれども。
それ以降は、レオンは城に誘わなかったし、なるべく近づかなくても良いことになった。
次に行くのは婚姻関係の時だろうか。
思い出して青ざめていると、ブランティーヌが声をかけてきた。
「リゼット様、少し顔色が悪いですわ。別室を用意しますか?」
「ありがとうございます。でもレオンとはぐれては行けないので……」
「でしたら、あのお二人のお話が終えたら、休憩の部屋に案内しますわ」
ちらりと見ると、まだやりとりが終わらない。
仕方ないので、側仕えのマノンも呼んでもらうことで休憩の部屋に案内してもらった。
庭園からすぐの部屋で、庭園も見える窓があり、わずかに賑やかな声がする。
ソファとテーブルが備え付けられた、簡単な部屋。
ブランティーヌに案内してもらって、ソファに腰掛ける。
すぐにマノンもやってきた。
「ブランティーヌ様、ありがとうございます。少し休めば大丈夫ですから」
「ええ。わかりましたわ。あのお二人が話し終えたら、レオナード様もこちらに案内しますわね」
「本当にありがとうございます」
ブランティーヌが部屋を出ると、マノンはリゼットの額に手を当て、その後脈を測った。
熱もなく、やはり緊張の糸が途切れたのだろう。
「リゼット様、とりあえず主賓に挨拶できたので、今日のお茶会は大丈夫ですよ」
「主賓の前で具合が悪くなって、主賓に運ばれても?」
「ブランティーヌ様は未来のお姉様ですから、きっと大丈夫です!」
「え、と?」
マノンは笑うけど、失礼がなかったわけではない。
ちらりと窓の外を見ると、皆さま優雅にお茶会を楽しんでいる。
(わたくしだけだわ)
何とは言わないけれど、リゼットはものすごく悲しい気持ちが溢れてきた。
視線の先に、レオンがいた。ブランティーヌと、マティスと、3人で笑い合っている。とても自然に、立ち振る舞うレオンに、ますます深い悲しみを覚えた。
「……少し休んだら、戻りましょうか」
マノンが頭を撫で撫でしてくれて、幼い頃のようで、でも嬉しかった。
マノンの淹れた紅茶は、とても美味しかった。
心も落ち着いた。
「マノン、お茶会が終わって屋敷に帰ったら、新しいお菓子作り手伝ってくださいね」
「はい!楽しみにしています」
リゼットは、また庭園に戻った。
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