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第一章
04.
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※残虐なシーンがあります。
※後半、苦手な人はリターンか、高速スクロール回避でOK?
庭園に戻り、周りを見渡す。
片隅の方で小さな男の子が泣いている。
見た感じ10歳になっただろうか、まだ幼さが残る顔立ちに、スリーピースのスーツを着ている。
スーツの襟や袖には金糸の刺繍が施されている。ちららと見えるベストにも、刺繍がふんだんに使われ、ボタン一つ一つは宝石のようだ。
着ている服からも、良い身分の……リゼットより格上の貴族の子息のようだ。
リゼットは男の子の側に近づいた。
「どうしたの?」
「…っ、お母様とはぐれたの」
「じゃあ、わたくしも探しますわ」
「ぐすっ…本当に?」
「ええ。あなたのお母様はどんなドレスを着ていたかしら?」
「うーん、りんごみたいな赤いドレスで、ダイヤがたくさんついた首飾りをしてるよ」
それを聞いて、リゼットはそばにいたマノンを呼んだ。
マノンにお茶会の主催者の執事へ、一緒に探すよう話して欲しいと頼んだ。
「では、レオン様もお呼びしますか?お嬢様1人では心配です」
「レオンは……皆様のお相手がありますから。大丈夫ですよ。お茶会の会場から離れませんから、心配しないでください」
にっこり笑うが、マノンは「すぐ戻りますね!」と急いで行った。
男の子の名前はヴィルデと言った。
母に連れられて来たものの、あまり面白くなくてケータリングを食べて待ってたそうだ。
手を繋ぎ、ヴィルデと庭を歩いて、お母様を探す。
赤のドレスなら目立つだろうが、なかなか見つからない。
1人の紳士に声をかけられた。
「君のお母様らしい人が、あちらの建物に向かったよ」
ブランティーヌ邸の本邸と別に、古いお屋敷がある。
蔓薔薇でその門は囲まれていて、時期が合えば薔薇のいい香りがしそうだ。
門の扉は人が通れそうな程開いており、誰かが通ってもおかしくなさそうだ。
リゼットは教えてくれた紳士にお礼を言い、ヴィルデと向かうことにした。
「ヴィルデ、あのお屋敷まで行きましょう」
「わかった……。ねぇ、お姉ちゃん、疲れちゃった。抱っこして」
しょんぼりとした顔が、庇護心をくすぐる。
リゼットは、ヴィルデを抱き上げた。
ヴィルデから甘い石鹸の香りがして、なんだか愛おしくなる。
門をくぐると、お屋敷がよく見える。
石造りのお屋敷は、何百年もの歴史を感じさせた。
実際、王国が設立した頃に作られたとの話もある。
屋敷の扉は少し開いていた。
扉を押すと、少し軋む音がしたがスムーズに開いた。
中は薄暗く、窓も締め切られており、はっきりと中の様子を見ることができない。
「誰かいますか?」
リゼットは声をかけるが、その声がか細すぎた。
屋敷の中に入ると、ヴィルデが声をかけてきた。
「ねえ、お姉ちゃんの髪飾りとっても綺麗だね」
ふいにヴィルデが髪飾りを見つけて、触れようとする。
髪の毛を軽く引っ張られ、リゼットは驚いた。
「髪飾りが見たいの?」
「うん、なんだかキラキラして綺麗。よく見せてほしいよ。お願い!」
リゼットはヴィルデを下ろして、髪飾りを外す。手にとってヴィルデに見せた。
「うわぁ、近くで見るともっと綺麗だね」
「そうね。これはとても大切な人からいただいたんですよ」
「大切な人?……好きな人ってこと?」
「えーっと、好きかどうか、わたくしにはよくわからなくて……」
お茶会前にレオンがとても褒めてくれた言葉を思い出して、リゼットは顔を赤らめる。
「どうしたの?」
「ええと、わたくしのことを好きでいてくれます」
「そっかぁ。いいなぁ、そんな素敵な髪飾り、僕もほしいなぁ」
「えっ……あっ……!」
リゼットが気付く前に、ヴィルデは髪飾りを奪う。
しかし手にした瞬間に、髪飾りから火花が散り、ヴィルデの手はじゅうじゅうと音を立てて焼け焦げた。
髪飾りはその手から落ち、地面に転がった。
「嫌ぁーーーーーーー!!」
突然のことでリゼットは目を覆い、身を伏せる。
ヴィルデは自らの手を見て、驚いたが、顔を真っ赤にしてリゼットに怒りをぶつけた。その声はすでに少年の声をしていなかった。
野太く野生の獣のような声で叫ぶ。
「リゼットおおおおおおおおっ!!お前のようなものが、なぜ魔除の髪飾りをしているのだあああああ!!」
リゼットは恐怖で声が出ない。
ガタガタと震えが止まらない。
(どうしよう……、このままじゃわたくしはーー!)
その時、リゼットの胸元が強く光り、
辺り一面を包んだ。
ヴィルデはその光が当たると、身体中がひび割れて、灰となって消えてしまった。
それを瞬きもできず、リゼットは最期まで見届けた。したかったわけではないが、目を逸らせなかった。
ほんの少し前まで、ヴィルデを抱き上げていた温もりが、リゼットの記憶にあった。
混乱する。
なぜ髪飾りに触れただけで、腕が焼けたの?
なぜ獣のような声に?
ヴィルデは、一体どうして?どうして?
「あらあら。失敗したのね、アレは」
屋敷の奥から現れた女性に、リゼットは息が止まりそうになった。
「な、なぜ?」
やっと声が出たが、その視線の先にいる女性に驚きを隠せない。
お茶会の主催、ブランティーヌだ。
先程まで、レオンと親しげに話していたブランティーヌが、なぜここにいるのか。
※後半、苦手な人はリターンか、高速スクロール回避でOK?
庭園に戻り、周りを見渡す。
片隅の方で小さな男の子が泣いている。
見た感じ10歳になっただろうか、まだ幼さが残る顔立ちに、スリーピースのスーツを着ている。
スーツの襟や袖には金糸の刺繍が施されている。ちららと見えるベストにも、刺繍がふんだんに使われ、ボタン一つ一つは宝石のようだ。
着ている服からも、良い身分の……リゼットより格上の貴族の子息のようだ。
リゼットは男の子の側に近づいた。
「どうしたの?」
「…っ、お母様とはぐれたの」
「じゃあ、わたくしも探しますわ」
「ぐすっ…本当に?」
「ええ。あなたのお母様はどんなドレスを着ていたかしら?」
「うーん、りんごみたいな赤いドレスで、ダイヤがたくさんついた首飾りをしてるよ」
それを聞いて、リゼットはそばにいたマノンを呼んだ。
マノンにお茶会の主催者の執事へ、一緒に探すよう話して欲しいと頼んだ。
「では、レオン様もお呼びしますか?お嬢様1人では心配です」
「レオンは……皆様のお相手がありますから。大丈夫ですよ。お茶会の会場から離れませんから、心配しないでください」
にっこり笑うが、マノンは「すぐ戻りますね!」と急いで行った。
男の子の名前はヴィルデと言った。
母に連れられて来たものの、あまり面白くなくてケータリングを食べて待ってたそうだ。
手を繋ぎ、ヴィルデと庭を歩いて、お母様を探す。
赤のドレスなら目立つだろうが、なかなか見つからない。
1人の紳士に声をかけられた。
「君のお母様らしい人が、あちらの建物に向かったよ」
ブランティーヌ邸の本邸と別に、古いお屋敷がある。
蔓薔薇でその門は囲まれていて、時期が合えば薔薇のいい香りがしそうだ。
門の扉は人が通れそうな程開いており、誰かが通ってもおかしくなさそうだ。
リゼットは教えてくれた紳士にお礼を言い、ヴィルデと向かうことにした。
「ヴィルデ、あのお屋敷まで行きましょう」
「わかった……。ねぇ、お姉ちゃん、疲れちゃった。抱っこして」
しょんぼりとした顔が、庇護心をくすぐる。
リゼットは、ヴィルデを抱き上げた。
ヴィルデから甘い石鹸の香りがして、なんだか愛おしくなる。
門をくぐると、お屋敷がよく見える。
石造りのお屋敷は、何百年もの歴史を感じさせた。
実際、王国が設立した頃に作られたとの話もある。
屋敷の扉は少し開いていた。
扉を押すと、少し軋む音がしたがスムーズに開いた。
中は薄暗く、窓も締め切られており、はっきりと中の様子を見ることができない。
「誰かいますか?」
リゼットは声をかけるが、その声がか細すぎた。
屋敷の中に入ると、ヴィルデが声をかけてきた。
「ねえ、お姉ちゃんの髪飾りとっても綺麗だね」
ふいにヴィルデが髪飾りを見つけて、触れようとする。
髪の毛を軽く引っ張られ、リゼットは驚いた。
「髪飾りが見たいの?」
「うん、なんだかキラキラして綺麗。よく見せてほしいよ。お願い!」
リゼットはヴィルデを下ろして、髪飾りを外す。手にとってヴィルデに見せた。
「うわぁ、近くで見るともっと綺麗だね」
「そうね。これはとても大切な人からいただいたんですよ」
「大切な人?……好きな人ってこと?」
「えーっと、好きかどうか、わたくしにはよくわからなくて……」
お茶会前にレオンがとても褒めてくれた言葉を思い出して、リゼットは顔を赤らめる。
「どうしたの?」
「ええと、わたくしのことを好きでいてくれます」
「そっかぁ。いいなぁ、そんな素敵な髪飾り、僕もほしいなぁ」
「えっ……あっ……!」
リゼットが気付く前に、ヴィルデは髪飾りを奪う。
しかし手にした瞬間に、髪飾りから火花が散り、ヴィルデの手はじゅうじゅうと音を立てて焼け焦げた。
髪飾りはその手から落ち、地面に転がった。
「嫌ぁーーーーーーー!!」
突然のことでリゼットは目を覆い、身を伏せる。
ヴィルデは自らの手を見て、驚いたが、顔を真っ赤にしてリゼットに怒りをぶつけた。その声はすでに少年の声をしていなかった。
野太く野生の獣のような声で叫ぶ。
「リゼットおおおおおおおおっ!!お前のようなものが、なぜ魔除の髪飾りをしているのだあああああ!!」
リゼットは恐怖で声が出ない。
ガタガタと震えが止まらない。
(どうしよう……、このままじゃわたくしはーー!)
その時、リゼットの胸元が強く光り、
辺り一面を包んだ。
ヴィルデはその光が当たると、身体中がひび割れて、灰となって消えてしまった。
それを瞬きもできず、リゼットは最期まで見届けた。したかったわけではないが、目を逸らせなかった。
ほんの少し前まで、ヴィルデを抱き上げていた温もりが、リゼットの記憶にあった。
混乱する。
なぜ髪飾りに触れただけで、腕が焼けたの?
なぜ獣のような声に?
ヴィルデは、一体どうして?どうして?
「あらあら。失敗したのね、アレは」
屋敷の奥から現れた女性に、リゼットは息が止まりそうになった。
「な、なぜ?」
やっと声が出たが、その視線の先にいる女性に驚きを隠せない。
お茶会の主催、ブランティーヌだ。
先程まで、レオンと親しげに話していたブランティーヌが、なぜここにいるのか。
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