王子に溺愛された、平凡な少女の話

ハルノ

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第一章

05.

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 ブランティーヌが視線で合図をすると、周りにいた黒服の者たちがリゼットを取り囲む。
 1人に後ろから腕を押さえられ、リゼットは身動きできなくなる。小瓶を持った1人が口をこじ開けて、液体を飲ませた。

(……苦い)

 ブランティーヌは、リゼットがそれを嚥下するのを確認すると、近づいていく。
 黒服に抑え込められ、リゼットは床からブランティーヌを見る姿勢となった。

「本当はレオナード様のことが好きではないんでしょ?」

 ブランティーヌが冷たい目で見下して、くちびるを片方だけあげて微笑んだ。
 そうして、リゼットが飲まされた液体の正体を教えた。

 小さな紫色の小瓶をハンカチで持ち上げる。

「これはね。貴方がレオナード様に本当のことを話せるようにする魔法がかかっているのよ。もうすぐレオナード様がこちらにいらっしゃるわ。そのときに、貴方がレオナード様にお別れを告げるのよ」
「……やめてっ」

 リゼットは体の血が引いていく。

(本当のこと?何でも口にしてしまうということでしょうか?)

「貴方は相応しくないのですよ。レオナード王子の幼なじみというだけで婚約者になるなんて、とてもみっともないですわ」
「……わたくしの両親と国王様が取り決めたことです。わたくしには何も決める力はありません!」
「あら?薬の効果は早いのね。いつもなら何も言えないのに、どうしたのかしらね」

 ふふっと笑うブランティーヌ。

「もうすぐ終わりますわ」

 ブランティーヌはリゼットを立ち上がらせる。
 リゼットは戸惑ったが、ヒヤリと冷たい声で囁いた。

「いいんですよ。わたくしは貴方のためにやっているわけではないんですのよ」

 そしてすぐ先程と違い、優しくなる。
 黒服に立ち上がらされ、横から抱えられてる様な格好となる。
 遠くからレオンの声がした。

「リゼット、ブランティーヌ様、どうしたのだ?」
「レオナード様、お手を煩わせてしまい申し訳ございません。リゼット様の具合が悪そうでしたので、使いを呼びました」

 レオンがリゼットの両頬を包み込み、顔を覗く。
 その青い瞳はとても優しい。

「大丈夫か?」
「は、はい。少し……っ」

 勝手に不要なことを話すかもしれない、リゼットは途中で唇を噛み締めて耐えた。それを不思議に思ったのか、レオンはリゼットを抱きかかえる。

「大丈夫じゃないな。すぐに休ませる用意をする」

 屋敷へ戻ろうとするが、ブランティーヌは引き止める。

「先程、リゼット様からレオナード様との婚約についての不安をうかがいましたわ。ねぇ、リゼット様?」

 その瞬間、リゼットは涙がポロポロ溢れた。

「ええ……ブランティーヌ様、わたくしは婚約なんてしたくありませんわ。わたくしはレオナード様に相応しくありません」

 意思に反して勝手に口が動き、リゼットはさらに涙を流した。
 自白剤の効果?

「わたくし……わたくしは、あの時……レオナード様を……」
(レオナード様とあの時。……あの時っていつ?)

 リゼットは頭の中の記憶の棚を探すが、ぱっと思いつくものはない。
 それでも唇は滑らかに動く。

「あの時、魔、法…を…んーー!?」

 途中でレオンに口を塞がれ、言葉が途切れた。

「レオナード様っ!?」

 ブランティーヌの悲鳴に近い叫び声。
 レオンはリゼットの口を、自身の口で塞いだのだ。
 まさか唇で言葉を遮られるとは…。
 リゼットの心臓は早鐘のように鳴るリゼットの唇の、滲んだ血を舐めてとる。ごくりとレオンの喉が鳴った。

 それからリゼットがギュッと閉じた唇を、舌でこじ開ける。
 甘美な蜜の香りに、リゼットは酔いそうだった。そうして深い口づけをしたかと思うと、リゼットの唇をペロリと舐めた。
 リゼットはどう息をしていいかわからなくて、「……ぁ、ふぅ……、っ」と情けない溜息のような声にならないものが出ていた。
 早く止めてほしくて、リゼットはレオンの腕の中でもがもがするが、びくともしない。

「……っ、ぁっ」

 唇が離れると、レオンはボソッと「自白剤か」と呟いた。
 酷く恐ろしい瞳が、ブランティーヌを刺す。
 ブランティーヌはまずいことになったと気がついたが、時すでに遅く。

「ブランティーヌ、其方は私の婚約者に毒をもったな?後で処分を伝えるから部屋で謹慎していろ」

 レオンが目で合図すると、隠れていたレオンの側近たちがブランティーヌを連れて行った。
 ギャンギャンと「私は悪くない」だとか吠える姿は、優雅なお嬢様の姿を失っていた。

「リゼット、1人にして悪かった。マノンはブランティーヌの執事に捕らえられていたが、マノンも無事だ」

 優しく微笑むレオンを見て、心底ほっとしたが、レオンの情熱的な口づけもあり体に力が入らない。

「……ありがとうございます」
「リゼットのほうが心配だ。すぐに屋敷へ戻ろう。医者も呼ぶ」
「はい……。でもできればおろして欲しいです……」
「嫌だ。めまい作用のある自白剤を飲まされている。それに、堪えようとして唇を噛んだだろ、血が出ている。このまま連れていくぞ」

 確かに頭が少しぼうっとする。
 それに、なんだかいつもよりレオンの優しさに委ねたくなり、リゼットは身を預けた。

「レオンはいつも……私、なんかっ、に、どうして、優しいのっです……か」

 いつも口に出せないでいる言葉がこぼれた。先程の事も思い出して、涙もポロポロ止まらない。
 嗚咽のような言葉をレオンはじっくりと聞いた。

「俺は……あの時からずっと、リゼットしか見ていない。リゼットだけ愛している」

ーー本当に無事でよかった。
 耳元で囁かれ、リゼットはまた涙が溢れてた。

「どうして……」
「ははっ。泣き虫なのは、小さい頃から変わらないな」

 溢れた涙が伝う頬に唇を落とし、一層強く抱きしめられる。
 きつく力が入っているのに、なぜだか安心する。
 すーっとリゼットは意識を失った。
 レオンに抱えられたまま、馬車に乗せられ、屋敷に着くとマノンも待機していた。

「リゼットお嬢様!」
「マノン、リゼットは自白剤を飲まされている。俺の知り合いの医師を呼んで欲しい。俺の名前を出せば、飛んでくるから」
「かしこまりました!」

 マノンはすぐに遣いを出し、レオンに頼まれたものの準備を始める。

 レオンはリゼットをベッドまで運び、ゆっくりと寝かせた。
 リゼットの涙を手でぬぐい、頬と額へ唇を落とした。

「リゼット……。あの時の記憶なんて、思い出さなくていい。俺はーー」

 レオンは悔しさを露わにした。
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